ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 あの時、勇助はどんな顔をしていたのだろう。

『勇助に、もうオレは必要ない』

 見て見ぬふりを続けてきた現実は、言葉にした途端、容赦なく初の心をズタズタに裂いていった。

 勇助とは組が一緒なだけで、習熟度別のクラスも選択科目も違う。言葉を全く交わさずとも、学校生活に特段の支障はない。けれど、

『はじめさん!』

 勇助が隣にいないだけで、こんなにも日常は色を失うのか。
 部活にも身が入らないし、ご飯は味がしない。勉強は苦痛だし……これは元々か。
 今思えば、勇助が根気強く勉強を教えてくれていた時間を、もっと大切にすればよかった。
 眠気まじりに聞いていた勇助の声に、もっと耳を傾ければよかった。

 今日も部活での記録は散々だった。初はスランプに陥ったのか、南関東大会で記録した自己ベストを三秒以上も下回るようになった。
 瀬形は異変に気付いているようだが、何も言ってこない。

 いい加減、想いを断ち切らねば。
 勇助の隣には、いつも極上の『王子様』がいる。だから、自分のことなどもう忘れて——。

「なんでだよ……」

 部活を終えた初が靴箱を開けると、スニーカーよりも先に、桃色のリボンが掛けられたシンプルな包装が目に留まった。
 添えられていた小さなメッセージカードに差出人の名前はなかったが、

『ハッピーバレンタイン』

 見間違えるはずがない。
 律儀な性格そのものの、楷書の手本のような字を。

「勇助」

 菓子は作り慣れていないのだろう。靴箱から取り出してリボンを解くと、中から現れたのは、不恰好な楕円形に固められた三粒のチョコレートだった。
 きっと、桜慈や哲哉に用意していたものを分けてくれたのだ。

「…………うめえ」

 冷たく突き放した自分への思いがけない優しさが、嬉しくて……苦しくて。
 口に含んだチョコレートの甘味に、あの日食べたオムライスと同じ塩味が混ざって、沁みていった。