ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 教室の扉を開けると、手提げの紙袋を持った桜慈が窓際で外を眺めていた。

「桜慈くん」

 勇助の声に気付いた桜慈が、こちらに振り向いた。
 ぺこりと一礼をして、勇助は桜慈のもとに駆け寄った。

「お待たせしてしまってごめんなさい」
「大丈夫。俺もさっき来たところだから。
 ……早速だけど、これを君に渡したくて」

 淡い笑みを浮かべた桜慈が、濃紺色の紙袋を勇助に手渡した。中には、豪華なラッピングが施された化粧箱が入っていた。
 そういえば、去年も桜慈はチョコレートの受け取り拒否を宣言していたにもかかわらず、沢山のチョコレートを渡されていた。その中から手作りではないものを『食べきれないから』という理由で、勇助はいくつか譲り受けた。
 今年もきっと、その"おこぼれ"をくれようとしているのだろう。

「ありがとう……。
 桜慈くん、今年もたくさん貰ったんですね」

 買った人には申し訳ないが、そのまま捨てられるよりは……。
 躊躇いながら受け取ろうとした瞬間、桜慈が首を横に振った。

「違うんだ……これは、俺から」
「僕に、用意して下さったんですか?」
「ああ」

 自分宛のチョコレートを貰うのは、人生で初めてだ。
 なにやらお返しが大変そうなチョコレートだが、桜慈の心遣いが素直に嬉しい。
 紙袋の中にある青いリボン付きの化粧箱を眺めながら、勇助は顔を綻ばせた。

「ありがとうございます。
 嬉しいな……素敵な『友チョコ』をありがとうございます」
「これは『友チョコ』じゃない。……勇助君だけなんだ」
「え……?」

 顔を上げると、正鵠を射貫くように真剣な眼差しの桜慈が勇助を見つめていた。

「勇助君。俺は君が好きだ。
 ……当初は友人としての好意だと思っていた。
 けれど、君と姫嶋の親密な姿を目にするたびに、胸が黒い感情で渦巻いて……君が笑うたびに、胸が温かく、苦しくなって。
 それが、姫嶋への悋気であり、君への恋慕だと、ようやく気が付いた。

 勇助君。ずっと、君が好きだった。
 俺の恋人になってくれないか」

 突然の告白に、頭が真っ白になる。

 勇助も、桜慈のことは好きだ。
 高校入学当初からの、優しくて頼れる大切な友人だ。
 けれど、これは桜慈の『好き』と同じなのか……?

『——なあ、勇助。
 "好き"って、どういうことなんだろうな』


 ……そうか、これ(・・)が。

 はじめさん。
『好き』って、こういうことだったんだ……。