『あけおめことよろ
母と北海道帰省中 初日の出見た クソ寒』
年が明け、一月一日の朝。
目を覚ました勇助が枕元のキッズケータイを見ると、一通のショートメールが届いていた。
「はじめさん……」
勇助が『簡潔に』と言ったからか、元々の性分か。
初からのメールはいつも短くあっさりとしているが、言葉の端々に優しさが滲んでいる。
そういえば、初は年末年始を母である愛の両親——つまり、初の母方の祖父母のいる北海道で過ごすことになったそうだ。どうやら愛も両親とは長年絶縁状態だったが、初が和解への後押しをしたことで今回の帰省が決まったらしい。初がそう言っていたのではなく、勇助が和のお迎えに行った際に愛から聞いた話だ。
『ゆう君、初との仲を取り持ってくれて本当にありがとう』
何度も耳にした"めぐみ先生"の言葉を思い出し、勇助の胸はほんのりと温かくなった。
カーテンを開け、北海道とも一繋ぎの澄みきった青空を窓越しに見つめる。
初が『クソ寒』と評した冬の北海道は、一体どれだけ寒いのだろう。想像もつかないけれど、いつか行ってみたい。
勇助は穏やかな笑みを浮かべると、初に返信を打ち始めた。
「ユッケ、あけおめ! 準備はおっけー?」
「哲ちゃん、あけましておめでとう。今年もよろしくね。
……ごめん、あと五分だけ待ってもらえる?」
翌一月二日は、毎年哲哉と二人で近所の『玉響神社』に初詣に行くのが恒例だ。
もしかすると今年は彼女と行くのかと思っていたが、元日に『明日九時に迎えに行く!』と、去年と変わらぬノリで電話が来た。
「おっ。そのマフラー、あったかそうでいいじゃん。いつ買ったの?」
「ありがとう。
これは……その、買ったんじゃなくて……クリスマスに、はじめさんがくれて」
「まじか! ……姫ちゃん、まじでマジなんじゃん」
『マジ』を連呼する哲哉に「どういう意味?」と訊ねたが、「それは姫ちゃんに聞いてや」とはぐらかされてしまった。
今年の玉響神社は、例年に比べて参拝客が少なめだ。
お陰で大した待ち時間もなく参拝を終えると、二人でおみくじを引いた。
「やった! 今年も大吉〜!
ユッケはどうだった? ミディアム? スモール??」
不思議なことに、哲哉が毎年大吉を引き当てる一方、
「相変わらずの強運だね、哲ちゃん。
僕は末吉だった。英語だとなんて言うんだろう……ミニマム?」
勇助は、毎年大吉以外を引き当てる。
哲哉は「ミニマムかあ」と笑って、当たり前のように勇助のおみくじを取り上げた。そして慣れた手つきで近くのみくじ掛けに結びつけると、空っぽになった勇助の手に『大吉』のおみくじを握らせた。
「はい。今年も一年、ユッケにたくさんいいことがありますように」
「ありがとう。
……でも哲ちゃん、毎年悪いよ。今年こそ哲ちゃんが持ち帰りなよ」
「いーの。おれは自分で幸運を引き寄せられる『福男』だから」
ニッと笑った哲哉が「仲見世見てこ!」と言って、参道にある雑貨屋に入っていった。
「あっ、これ『不滅の刃』じゃん。
桃ちゃん、貝柱の人が好きなんだよね。アクキー買ってこっかな」
「うん、桃ちゃんさん、喜ぶと思うよ。……あ!」
「どした?」
「これ……はじめさんに似てる」
勇助はスタンドにじゃらじゃらと吊り下げられているたくさんのキーホルダーの中から、猫耳としっぽの付いたミニキャラが体育座りをしているキーホルダーを見つけた。
灰がかった桃色の髪と大きなつり目、ツンと澄ました表情が、どこか初を彷彿とさせる。
「これ『ツンデレオニャンコポン太郎』じゃん!」
「おにゃんこ、ぽんたろう……?」
「知らん? 普段はツンツンしてるのに、『デキアイスパダリンコ姫』の前でだけデレッデレになるの。
わはは、確かにそっくりだ。今度姫ちゃんに教えてやったら?」
哲哉がヒイヒイと笑い悶える様子を見る限り、初に言っても喜ぶ姿が思い浮かばない。むしろ、
「そんなこと言ったら、きっとはじめさんに"ぶちおかされ"てしまうんじゃないかな」
『ツンデレオニャンコポン太郎』の澄まし顔を見つめて相好を崩すと、ぴたりと爆笑を止めた哲哉が「まって。今なんて言った?」と、真顔で勇助に詰め寄った。
「ええと、ぶちおかされてしまう……?」
「誰に」
「……はじめさんに??」
「姫ちゃん……『ブチ犯す』って……マジか……。
でさ、ユッケはその……いいの? 合意なの??」
「うーん……あまり強く押されるのは嫌だけど、はじめさんならきっと、手加減してくれるよね?
なんだかんだ言って、根は優しい人だから」
「……ユッケ。それ、多分『押される』レベルじゃ済まないんでね?」
「へ? どうして??」
大袈裟に天を仰いだ哲哉からその理由を聞いた瞬間、勇助は『ぶちおかす』=胸元を強く押す事だと誤解していた恥ずかしさに、小さな悲鳴を上げた。
母と北海道帰省中 初日の出見た クソ寒』
年が明け、一月一日の朝。
目を覚ました勇助が枕元のキッズケータイを見ると、一通のショートメールが届いていた。
「はじめさん……」
勇助が『簡潔に』と言ったからか、元々の性分か。
初からのメールはいつも短くあっさりとしているが、言葉の端々に優しさが滲んでいる。
そういえば、初は年末年始を母である愛の両親——つまり、初の母方の祖父母のいる北海道で過ごすことになったそうだ。どうやら愛も両親とは長年絶縁状態だったが、初が和解への後押しをしたことで今回の帰省が決まったらしい。初がそう言っていたのではなく、勇助が和のお迎えに行った際に愛から聞いた話だ。
『ゆう君、初との仲を取り持ってくれて本当にありがとう』
何度も耳にした"めぐみ先生"の言葉を思い出し、勇助の胸はほんのりと温かくなった。
カーテンを開け、北海道とも一繋ぎの澄みきった青空を窓越しに見つめる。
初が『クソ寒』と評した冬の北海道は、一体どれだけ寒いのだろう。想像もつかないけれど、いつか行ってみたい。
勇助は穏やかな笑みを浮かべると、初に返信を打ち始めた。
「ユッケ、あけおめ! 準備はおっけー?」
「哲ちゃん、あけましておめでとう。今年もよろしくね。
……ごめん、あと五分だけ待ってもらえる?」
翌一月二日は、毎年哲哉と二人で近所の『玉響神社』に初詣に行くのが恒例だ。
もしかすると今年は彼女と行くのかと思っていたが、元日に『明日九時に迎えに行く!』と、去年と変わらぬノリで電話が来た。
「おっ。そのマフラー、あったかそうでいいじゃん。いつ買ったの?」
「ありがとう。
これは……その、買ったんじゃなくて……クリスマスに、はじめさんがくれて」
「まじか! ……姫ちゃん、まじでマジなんじゃん」
『マジ』を連呼する哲哉に「どういう意味?」と訊ねたが、「それは姫ちゃんに聞いてや」とはぐらかされてしまった。
今年の玉響神社は、例年に比べて参拝客が少なめだ。
お陰で大した待ち時間もなく参拝を終えると、二人でおみくじを引いた。
「やった! 今年も大吉〜!
ユッケはどうだった? ミディアム? スモール??」
不思議なことに、哲哉が毎年大吉を引き当てる一方、
「相変わらずの強運だね、哲ちゃん。
僕は末吉だった。英語だとなんて言うんだろう……ミニマム?」
勇助は、毎年大吉以外を引き当てる。
哲哉は「ミニマムかあ」と笑って、当たり前のように勇助のおみくじを取り上げた。そして慣れた手つきで近くのみくじ掛けに結びつけると、空っぽになった勇助の手に『大吉』のおみくじを握らせた。
「はい。今年も一年、ユッケにたくさんいいことがありますように」
「ありがとう。
……でも哲ちゃん、毎年悪いよ。今年こそ哲ちゃんが持ち帰りなよ」
「いーの。おれは自分で幸運を引き寄せられる『福男』だから」
ニッと笑った哲哉が「仲見世見てこ!」と言って、参道にある雑貨屋に入っていった。
「あっ、これ『不滅の刃』じゃん。
桃ちゃん、貝柱の人が好きなんだよね。アクキー買ってこっかな」
「うん、桃ちゃんさん、喜ぶと思うよ。……あ!」
「どした?」
「これ……はじめさんに似てる」
勇助はスタンドにじゃらじゃらと吊り下げられているたくさんのキーホルダーの中から、猫耳としっぽの付いたミニキャラが体育座りをしているキーホルダーを見つけた。
灰がかった桃色の髪と大きなつり目、ツンと澄ました表情が、どこか初を彷彿とさせる。
「これ『ツンデレオニャンコポン太郎』じゃん!」
「おにゃんこ、ぽんたろう……?」
「知らん? 普段はツンツンしてるのに、『デキアイスパダリンコ姫』の前でだけデレッデレになるの。
わはは、確かにそっくりだ。今度姫ちゃんに教えてやったら?」
哲哉がヒイヒイと笑い悶える様子を見る限り、初に言っても喜ぶ姿が思い浮かばない。むしろ、
「そんなこと言ったら、きっとはじめさんに"ぶちおかされ"てしまうんじゃないかな」
『ツンデレオニャンコポン太郎』の澄まし顔を見つめて相好を崩すと、ぴたりと爆笑を止めた哲哉が「まって。今なんて言った?」と、真顔で勇助に詰め寄った。
「ええと、ぶちおかされてしまう……?」
「誰に」
「……はじめさんに??」
「姫ちゃん……『ブチ犯す』って……マジか……。
でさ、ユッケはその……いいの? 合意なの??」
「うーん……あまり強く押されるのは嫌だけど、はじめさんならきっと、手加減してくれるよね?
なんだかんだ言って、根は優しい人だから」
「……ユッケ。それ、多分『押される』レベルじゃ済まないんでね?」
「へ? どうして??」
大袈裟に天を仰いだ哲哉からその理由を聞いた瞬間、勇助は『ぶちおかす』=胸元を強く押す事だと誤解していた恥ずかしさに、小さな悲鳴を上げた。

