ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

「——ふう、出来た。
 はじめさんが手伝ってくれたお陰で早く終わりました」
「いやオレほぼ何もしてないじゃん」

 料理はある程度の下拵えが済んでおり、初がやったことといえば、テーブル拭きに、皿の準備と料理の運搬だけだ。
 ローテーブルにはミックスベジタブル入りのハンバーグをはじめとした、特段豪華ではないが彩りよく美味しそうな手料理がズラリと並んだ。
 そしてリビングの窓際には、天井近くの高さまである、豪華で巨大なクリスマスツリーが飾られている。

「このツリー……クリスマス前に亡くなった母からの、最後のプレゼントだったんです」

 クリスマスツリーを見つめる初に気付いた勇助が、後ろから声を掛けてきた。

「……そうだったのか」
「はい。オーナメントも母の形見で。このツリーを飾って過ごすクリスマスを、和は毎年楽しみにしているんです。
 今年は父も弟も不在になってしまったので……はじめさんがいてくれて、寂しいクリスマスにならなくてよかった」
「勇助……」

 あれ……今めっちゃいい雰囲気じゃね?
 固唾を呑んだ初が一歩、勇助との距離を詰めたところで、

「ゆーすけ、おなかすいた!」

 和(ガキ)イィィイイ! 空気読め!!

 完全復活を遂げた和が、勇助に抱きついてきた。

「和、おはよう。ご飯できてるから、手を洗ったら食べようね」
「りょーかい。はじめもちゃんとてをあらえよ」
「うるせーお前が寝てる間に洗ったわ」
「ふふふ、賑やかでいいですね」

 どこがだよ。
 初は不貞腐れたが、楽しそうに笑う勇助を見て溜飲を下げた。

 勇助の作った料理は、どれも素朴ながら優しい味わいで、ミックスベジタブル入りのハンバーグは、母が作ったものより格段に美味しかった。
 食後は和に"ハイパーデカデカソードアタック"を背後で受けながら皿を洗い、

「——はじめさん、今日は遅くまでありがとうございました」
「いや、こっちこそ……料理、うまかった」

 あっという間に、帰る時間になった。

「……そうだ、これ。クリスマスプレゼント。
 お前から和と弘毅に渡しといてくれ」

 玄関口で初が小さな紙袋を手渡すと、透明なラッピング越しに中身を見た勇助が感嘆の声を上げた。

「わあ、『昆虫キラツヤシール』! これは和にですね、ありがとうございます。
 品薄なのに、よく入手できましたね」
「これ、そんなすごいやつなの? なんか和が好きそうだから買ってみたけど。
 弘毅は何が好きなのか全然わかんなかったから図書カードにしたわ。悪いな」
「いえ……弘毅は昔からプレゼントに現金や商品券をねだるような子でしたので、むしろ有難いです」
「ならよかった。
 あと最後に、これは勇助。お前に」

 初は大きめのボディバッグからクリスマス仕様のショッパーを取り出すと、勇助に差し出した。

「僕に、ですか……?」
「さっき、お前にっつったじゃん」
「でも……」
「別にお返しなんて求めてねーから。開けてみ」

 おずおずとショッパーを受け取った勇助が、何度も礼を述べながらラッピングを解く。

「これは……」
「お前、いつも寒そうなペラいコート着てるからさ。
 防寒の足しにして」

 勇助はラッピングの袋から取り出した緑のチェック柄のマフラーを、不慣れな手つきで首に巻き、ほわりと顔を綻ばせた。

「……似合ってる」
「ありがとう……ございます。

 ……あのっ、はじめさん。もう少しだけ、ここで待っててもらえますか?」

 初の返事も聞かぬうちに、頬を紅潮させた勇助が慌ただしく家の中へと引き返した。何やら派手な物音が二回ほど聞こえたかと思うと、一辺が十五センチ程度の木製の小箱を持って戻ってきた。

「いらないかもしれませんが……」

 おずおずと渡された小箱の中には、自作と思われる茶碗が入っていた。

「これ、勇助が作ったのか?」

 勇助は頷くと、物憂げに俯いた。

「ごめんなさい……折角はじめさんが素敵なプレゼントを下さったのに、こんなものしか用意できなくて」
「こんなものなんて、思うわけないだろ」

 初はひとしきり茶碗を眺めると、おもむろに木箱の蓋を閉めて胸に抱えた。

「勇助、ありがとな。毎日これでメシ食う。
 ……で、割れたらまた、同じの作ってくれ」
「……一点ものなので、同じものは作れないんです」

 一瞬目を瞠った勇助が、困ったように眉を下げた。
 じゃあ違うものでいいから、と初が言うと、今度はゆるやかに目を細めて「わかりました」と微笑んだ。


 名前のないこの幸せが、いつまでも続くといい。
 そう願っていた——あの日を迎えるまでは。