ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 (ひと)組の騎馬が崩れかかった瞬間。
 考えるより先に、身体が動いていた。


「——あーあ。なんで一等卒を庇って、大将が討ち死にしちゃうかねえ」

 騎馬戦終了後に皆が互いの健闘を讃え合う中、予想よりも遥かに柔らかな批判が桜慈にぶつけられた。

「『王子』。俺らはあんたを全面的に信用して、あんたの言う通りに動いたんだけどな」

 大将である桜慈の騎馬を務めていた瀬形が、腕を組み落胆の息を吐いた。

「……すまない、勝手な真似をした。全ての責任は俺にある」

 反論の余地もない。桜慈は深く頭を下げた。

「競技者として、さっきの最後はマジであり得ない」
「君の言う通りだ」
「けどさ、一人の男としてはめっちゃカッコ良かったと思うよ」
「……え?」

 桜慈が頭を上げると、にっ、と笑った瀬形が「な? すずちゃん」と言って勇助に目配せをした。

「勇助君……」
「桜慈くん。騎馬戦は負けてしまいましたが……僕は、桜慈くんに守ってもらえて嬉しかったです」

 まだ化粧をしたままの勇助がこちらに近づき、にこりと微笑んだ。

「桜慈君にこうやって助けてもらうのは、二度目ですね」
「二度目……だって?」

 双眸を見開く桜慈に、勇助は照れくさそうに頷いて言葉を続けた。

「はい。学校祭の時に、僕を怖い男の人から助けてくれた『馬』さん。
 あれ、桜慈くんですよね?
 今日、あざとちゃんさんから守ってもらった時に同じ感覚がして……。
 それで、あの時の『馬』さんは桜慈くんだったと、ようやく気付きました。今日まで気付けなくて、ごめんなさい」
「……いや、いいんだ。そんなこと……」
「桜慈くんにとっては『そんなこと』かもしれませんが、僕にとっては忘れられない、温かくて大切な思い出ですよ」

 そっと桜慈の手を取った勇助が、先ほど哲哉に奪われた白の鉢巻きを掌の上に載せた。

「これは……」
「哲ちゃんから取り返してきました。
 騎馬戦には負けてしまいましたが、一番強くてかっこいいお馬さんは、間違いなく桜慈くんです。

 ありがとう。"白馬の王子様"」

 静かに、落ちる音がした。
 鉢巻きを落とした音ではない。
 自分が"落ちた"音だ。

 重ねられた、温かい手。
 自分だけに向けられた、柔らかな眼差し。
 心の澱をも一瞬で溶かす、その目映い笑顔に。


 もう認めざるを得ない。
 勇助君。
 俺は——君だけの王子様になりたい。