ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 二学期が始まり、勇助が約四十日ぶりに教室の扉を開けると、こんがりと焼けていたり、そうでもなかったりするクラスメイト達が、夏休みの思い出話や新学期への悲嘆で教室を賑わせていた。

「勇助君。これ、ハワイ旅行のお土産」

 柔らかな笑みを湛えながら桜慈がくれたのは、大量のパイナップル型のクッキーとマカダミアナッツチョコレートだった。

「わあ、すごい量。どちらも美味しそうですね!
 桜慈くん、ありがとうございます! ……うわっ?!」

 そこへ、ほのかにピンク色に焼けた腕がにゅっと伸び、勇助の机の上に置かれたマカダミアナッツチョコレートの大箱をひとつ、掠め取った。

「さすがいいとこの坊ちゃんは土産物が豪華だな。
 桜慈、勇助とオレ(・・・)の為にありがとな」

 遅めに登校してきた初が、マカダミアナッツチョコレートの箱を片手にニヤリと笑った。

「姫嶋、何寝ぼけたことを言っている」
「そうですよ!
 こんなにたくさん、僕とはじめさんだけの分なわけないでしょう。
 桜慈くんの代わりに、僕がクラスの皆に配ればいいんですよね?」
「えっ? ……は?」
「皆から慕われる生徒会長としてのお心遣い、さすがは桜慈くんです」

 新学期早々徳を積む桜慈に感謝と尊敬の眼差しを向けると、桜慈は虚空を見つめながら「ああ……うん、ありがとう……」と、どこか沈んだ表情で答えた。

「皆さん、桜慈くんが旅行のお土産を買ってきてくれたそうですよ」
「えっマジ!?」
「わあっすげっ、うまそ!」
「サンキュー、プリンス」

 若干暑苦しい争奪戦が随所で起こりつつも、楽しげにお土産をシェアする様子を微笑ましく見つめる隣からは「これで良かったのかもな」という桜慈の声が聞こえてきた。


 翌日には平常通りの時間割に戻り、平日は学校に行って帰る日常が再開して数日ほど経った頃。
 昼休みに初と弁当を食べていると、

「おーい、おすずちゃん。"ファッションセンター"がキミに用があるんだと」

 教室の扉付近から、クラスメイトの池崎に声を掛けられた。

「ファッションセンター……?」

 訝しむ勇助に、購買のカツサンドを頬張る初が「たぶん五組の島村(しまむら)って奴じゃね」と、咀嚼まじりの聞き取りづらい解説を述べた。

「なるほど、それで"ファッションセンター"さんなんですね」
「……いいから早く行ってやれば。呼ばれてんだし」
「あっ、確かに。では一旦失礼します」

 勇助は初に一礼してから、教室の扉の方へと向かっていった。

「池崎くん、ファッションセンターさんはいずこに?」
「今廊下でひとり指相撲っぽい動きしながら待機してる。
 覚えてない? あいつ、学祭で一緒にチェキ撮ったじゃん」
「ああ! ……でも」

 確かあの時一緒に写真を撮ったのは、髪の毛がもっさりとした眼鏡の男子生徒だった気がするのだが。
 三メートルほど先で、緊張した面持ちで指をもじもじと動かす彼は、アップバングのツーブロックが爽やかな一軍男子のように見えた。

「スゲー見た目変わったよな。夏休み中にだいぶイメチェン頑張ったらしいよ。
 まあそれは一旦置いといて。さあ行った行った」
「えっ? ……い、池崎くん?!」

 "サンシャイン"池崎に背中を押され、"ファッションセンター"島村の前に突き出されると、

「あの、お、遅くなってすみません。
 ……どのようなご用件でしょうか?」

 勇助に気付いた島村が、ゆっくりと顔を上げた。