ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 別れ際にLIMEをやっているか訊くと、SNSは一切利用していないと答えた愛に、初は自分の電話番号を表示させたスマートフォンの画面を見せた。

「これ、オレの番号。
 あんたの番号も登録しといていいか?
 どこぞのクソが鬼電してくるから、登録しとかないと電話に出られない設定にしてんだよ」

 愛は一瞬きょとんとしたが、すぐに表情を緩めて、エプロンのポケットからスマートフォンを取り出した。

「初、ありがとう。
 ごめんね。今まで出来なかった分、これからいっぱい子孝行させてね」

 連絡先を交換し終えた初はパーカーのポケットにスマートフォンをしまうと、俯きながら言った。

「……それなら、またあのハンバーグ作ってくれよ。
 ミックスベジタブルが入った、しょっぱいやつ。
 料理の腕、少しはマシになってんだろうな?」
「……ええ、必ず。
 でも相変わらず料理は苦手なの。ごめんなさい」

 初は思わず「ぷはっ」と声を漏らすと、視線を母に戻して微笑んだ。

「もう謝んなって。
 じゃあ……またな。"母ちゃん"」

 背後から聞こえる嗚咽に気付かぬ振りをして踵を返した初は、勇助とともに和の待つ保育室へと向かっていった。


「はじめ、このあとどうせひまだろ。おれとあそべ」

 子ども園を一歩出るなり、和が尊大な物言いで初に迫ってきた。

「いやお前と遊ぶ暇なんてねえし」
「うそだ! ゆーすけに『いちにちひま』っていってたくせに!」
「……っ」

 確かに以前、勇助に予定を訊かれた時に「その日は終日何もない」的な返事をした。

「はじめさん。宜しければこの後うちで昼食をご用意しますので、もう少しだけ一緒にいてもらえませんか?」

 追い打ちをかけるように、勇助が困り顔を初に向けた。
 ずりぃぞ。そんなん言われたら……。

「……わーったよ。
 勇助、昼メシは用意しなくていい。駅前のフードコートで食べようぜ」

 ぴょんぴょん跳ねて歓喜する和とは正反対に、不安げに財布を眺める勇助に「今日はオレが全部出す」と耳打ちした。

「でも……」
「付き合ってもらった礼だ。借りはあんまし作りたくねーんだよ」
「……では、お言葉に甘えて。ご馳走様です」

 勇助は財布をポケットにしまうと、初に微笑んだ。

 昼は和のリクエストでフードコートのうどんを食べると、その帰りがけ、

「あっ、これやりたい!!」

 和がゲームコーナーにあるプリ機を指差した。
 勇助は何度も「やらないよ」と言い聞かせたが、和はついにわっと泣き出して、床に寝そべり両手足をじたばたさせ始めた。
 疲れきった表情で和を見つめる勇助の肩を叩くと、初は無言で五百円玉を筐体に投入した。

「はじめさん……!」
「悪いな。躾的にあんまし良くねえのかもしらんけど。
 おい和! 早く泣き止んでこっち来ねえと、オレと勇助だけで撮っちまうぞ」

 初が和を手招くと、和はぴたりと泣き止んで、素早くこちらに向かってきた。


「——それにしても。これ、目がデカくなりすぎて気持ち悪くね?」

 悪意に満ちた3D少女漫画風三人組の画像データを眺めながら呟くと、勇助と和が興味深そうに初のスマートフォンの画面を覗き込んだ。

「三人とも地球外来の生命体みたいですね」
「ぎゃはは、はじめきもい!」
「うっせー和、お前も大して変わんねーだろ。
 画像データ、ダウンロードしたから送る……って、そうか。勇助はキッズケータイだからネットに繋げないのか。
 待受お揃いにしようと思ってたのにな」

 他愛のない冗談でキッズケータイを揶揄ったつもりが、勇助は何を思ったのか、現像されたばかりのシールをケータイの背面にベタリと貼って初に見せた。

「これでお揃いにできますね!
 ……プリクラ、って言うんでしたっけ。こうやって撮るの、初めてなので、嬉しいです」

 狙っているのか、それとも素か。
 キッズケータイ片手に浮かべる笑顔に翻弄され、言葉を詰まらせた初はやむなくロック画面を『お揃い』に変更した。