ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

「ゆ、勇助……その格好」
「ああ、腕や背中のところに書いてある英語、文法おかしいですよね」

 いや、そうじゃなくて。

「これ、弘毅……弟のお下がりなんです。早々に身長を追い抜かされたので。
 あっ、でもインナーは自前ですよ!」

 そう言って頼んでもないのに勇助が見せたのは、ド根性がありそうで、今にも喋り出しそうなカエルが描かれた白いTシャツだった。

「ピョン吉じゃねえか」
「自宅近くの服屋で二百円だったんです。
 ちなみにピョン吉ではなくケロ吉という名前だそうです。ねっ、ケロ吉」

「そうだケロ〜!」と裏声でアテレコする勇助に、初はツッコむ気力を完全に失った。


「——で、なんでコイツも一緒なんだよ」

 勇助と歩きながら、初は和に向かって顎をしゃくった。

「ごめんなさい、今日は父も弘毅も家を空けていて。
 でも、和は別口で見てもらえることになってるので大丈夫です!」
「見てもらう、って?」
「そのままの意味です」

 和のことだ。マジで凝視しているだけだと秒でどっかに行っちまうじゃねえかと案じていると、

「着きました」
「ここって……」

 勇助が『着いた』と言った場所は、和の通っている子ども園だった。

「ばら組、鈴木和の兄です。
 先日めぐみ先生にご連絡差し上げた件で参りました」

 インターホン越しに職員との会話を終えた勇助は、慣れた手つきで門扉を開けて、「どうぞ」と初を敷地内へと促した。
 そうか、先に『めぐみ先生』とやらに和を預けてから母親の元に向かうのかと納得すると、和が勇助の手を振りほどいて、出迎えにきた保育士の元へと嬉しそうに駆け寄っていった。

「めぐみ! あいたかったぞ」
「なごちゃん、おはよう。先生も会いたかったよ」
「こら、和。"めぐみ先生"でしょ。
 おはようございます、めぐみ先生。本日はよろしくお願いします」
「ゆう君、おはよう。……そちらの方は?」

『めぐみ先生』という三十代と思しき女性保育士が、困惑した表情で初を見た。

「ああ。オレは勇助の付き添いで……姫嶋っす」

「はじめ」

 フルネームを名乗ってないにもかかわらず、保育士は初の名前を呼び、手を伸ばして近づいてきた。
 思わず一歩後ずさると、勇助が初の前に立ちはだかり、保育士に向かって言った。

「やっぱり、あなたがはじめさんのお母さんだったんですね。……笹本(ささもと)(めぐみ)先生」