ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

「——それでは、今日は色々とありがとうございました」

 帰宅準備を終え、「髪型だけかっこよくなって変な感じです」と短めのマッシュヘアになった勇助は恥ずかしそうに笑うと、机上に置いてある祖父の写真に手を合わせ、一礼してから玄関に向かっていった。

「では、僕はこれで」

 再び頭を下げて帰ろうとする勇助を、初は「待て」と引き留めた。

「お前の家、哲んとこの近くだったよな。歩いて十分くらいか?」
「ええと、これから帰りに保育園に立ち寄るので、その時間を含めると二十分……あ、でもその後スーパーにも行くことを考えると」
「オーケー、大体わかった。適当に近くまで送ってく」

 回復したとはいえ、今日すでに一度倒れているので心配だった。でも、と躊躇う勇助に「晩メシの弁当買いに行くついでだから」と言うと、勇助は「普段からお弁当を?」と訊ねてきた。

「? そうだけど。自炊なんてしねえし」
「そうですか……」

 少し考え込んだ勇助が、突然閃いたように両目を輝かせて言った。

「それなら、今日のお礼も兼ねてうちで一緒にご飯を食べませんか?」



「——次の角を曲がった所に、『おだまり子ども園』があるので、(なごみ)のお迎えで少し寄らせて頂いてもいいですか?」
「いいけど、『お黙り子供園』って……。そこ、スパルタ幼稚園なのか?」
「幼稚園ではなく子ども園です。あと園長の小田麻里(おだまり)先生、僕と哲ちゃんもここの出身でお世話になりましたが、大らかで優しいおばあちゃんですよ」

『おだまり』って、園長の名前だったのかよ。

 子ども園に到着し、勇助が保育士と話している途中、一人の短いおかっぱ頭の園児が保育室から園庭に飛び出してきた。

「へへっ。ゆーすけ。つかまえてごらん」
「あっこら、和! 止まりなさい!!」
「やだね!」

 随分とやんちゃそうなガキだと思ったら、勇助の弟か。

「うわっ!?」
「おい、兄ちゃんの言うことは聞こうな」

 初は勇助の弟らしき園児をあっという間に捕まえると、ひょいと抱え上げて勇助の元に連行した。

「ほら、いいから戻るぞ」
「はなせ! だれだおまえ」
「姫嶋初さまだ覚えとけ」
「はじめきらい! てつやがいい!!」
「なっ……テメェ言わせておけば!」

 口をへの字に歪めた初が、ぺこぺこと頭を下げる勇助に園児を突き出す。

「勇助、お前の弟メチャクチャ口悪いな。どーゆー教育してんだよ」
「ええと、その、和は()じゃなくてですね」
「へ? じゃあコイツ誰の弟? 哲?」

 勇助は和と呼ばれた園児を抱きかかえながら、へにゃりと眉を下げて言った。

「和は僕の、()です……」