ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 初の祖父が理容師だというのは、どうやら本当らしい。
 浴室に連れてこられた勇助は、サロン仕様のケープを掛けられ、オーバーサイズのTシャツに着替えた初に髪を弄られている。

「じゃあ切ってくぞ」
「よろしくお願いします……何から何まで本当にすみません」
「お前がいつも見てくれてる勉強量に比べたらこんなの屁みたいなもんだろ。
 どのくらいの長さとか、どんな感じがいいとかあるか?」

 美容室なんてかれこれ五年は行ってないし、髪型にこれといった拘りもない。勇助は首を傾げると「なんでもいいです」とだけ答えた。

「お前なあ。そんなこと言うなら坊主にすんぞ?」

 ふと、勇助は坊主頭になった自分を想像してみた。ヘアカットの頻度が減りそうだし、シャンプーも楽そうだ。

「意外とありかもしれませんね。ではそれで」
「おい、早まんなよ……冗談だって。オレのお任せでいいか?」

 別に坊主でもよかったのにと思いながら、勇助は「はい」と短く返事をした。

 しょきしょき、と髪を鋏で切る音が、単身用にしては随分と広い浴室内に響く。

「前髪はこんなんでいーかな。長い毛残ってないかチェックすっから、手前の鏡をまっすぐ見てろよ」

 前髪を櫛で梳かす初の顔が至近距離に近づくと、ばちっと目が合った。

「うわっ! かっ、鏡見てろって言っただろ!!」
「へっ? あ、ああ、ごめんなさい!」

 視線が合ったことよりも、左の手の甲を口元に当てて大声をあげた初に驚くと、左肘の一部の皮膚が赤く変色しているのがTシャツの袖口から覗き見えた。

「はじめさん、その左肘のお怪我は陸上で……?」

 初の返事を聞いた勇助は、軽い気持ちで訊ねてしまったことをひどく後悔した。

「ああ……この火傷痕のことか?
 父親だった奴が言うには、オレの記憶にもない昔に、母親に虐待されて出来たものらしい」

 言葉を失う勇助に、初は左肘を眺めながら寂しげに微笑んだ。

「……普段はサポーターで隠してんだけど、完全に気が緩んでた。悪い」
「……そんなの、はじめさんが謝ることじゃ……。
 むしろ、僕こそ考えなしに」
「勇助、」

 勇助の言葉を遮るように、初が口を開いた。

「なんというか……今、こうやって髪の毛切ってるうちに、デカめの独り言が出ちまいそうなんだけど。
 ……いや、ごめん。何でもない。前髪は切り終わってっから、顔についた髪の毛払っておしまいにするか」
「いいえ」

 散髪を切り上げようとする初に、勇助は浴室の鏡をまっすぐ見つめながら言った。

「ご面倒でなければ、後ろも整えていただけませんか」