勇助が目を開けると、そこには自宅でも学校の保健室でもない、見慣れぬ天井が広がっていた。
「……う、」
ベッドから半身を起こした勇助は、足元をクッションで少し高く持ち上げられていることに気付いた。
周囲を見回すと、六畳ほどの部屋の左側には質素な学習机と本棚、そして競技用の運動靴が二足ずつ並べられた三段のガラスケースが見えた。
机上のブックエンドには勇助が学校で使っているものと同じ教科書が並び、その傍らには、スキンヘッドの初老男性が豪快に笑う姿が収められた小さな写真立てが置かれている。
この人は誰だろう。勇助が遠目から写真を見つめていると、ガチャリとドアの開く音がした。
「お。勇助、大丈夫か」
サプリメントの入った小さなパウチを持った初が、部屋に入ってきた。
「はじめさん! ここは……?」
「オレの部屋。どう見ても保健室や病院じゃねーだろ」
軽い調子で笑った初が、ベッドの傍に腰掛け「具合はどうだ?」と訊ねてきた。
「おかげさまで……」
少し睡眠を取れたおかげか、頭痛と気持ち悪さはだいぶ治まったように感じる。
「おそらく貧血だと思います。前にも同じようになったことがあるので」
「だろうな。見た感じでそうだと思った。これ、水なしで飲めるマルチビタミンのサプリ。鉄分も入ってるから一応口ん中入れとけ」
「ありがとうございます……」
初はパウチから小さなタブレットを取り出すと、勇助に渡した。それを受け取った勇助は、言われた通りに口に含んだ。
レモン風味のタブレットを口の中で溶かしていると、初が「悪い」と勇助に謝る声が聞こえた。
「え……?」
「本当は救急車呼んだ方が良かったんだろうけど、このまま地べたに寝かせとくのもなあと思って……ウチまで連れてきちまった」
「そんな……助けてくださったのに、謝らないでください。
はじめさん、ここまで僕を運ぶの大変だったでしょう。背だって僕より小さいのに」
「てめっ……チビなのは今のうちだけだ! まだ成長期終わってねえからな?
……あそこからオレん家まで三分くらいだから、別に。
それより勇助、お前こそ身長の割に随分と軽いのな。普段からちゃんとメシ食ってんのか?」
初は勇助の細い腕を手に取り、手首の皺のあたりから少し下の部分をぎゅうっと強く押した。
「痛っ」
「ここ。『内関』っていう貧血の症状和らげるツボ。
痛いんならやっぱり貧血だろうな」
本当に効いているのかはわからないが、ツボを押して離してを繰り返されるうちに、涼しい風が吹き渡ったように頭部の不快感が薄まっていった。
「……もう痛くなさそうだな。こんなもんでいいか」
「ありがとうございます。
お陰様でだいぶ回復したので、そろそろ帰り……痛っ」
初に一礼してベッドを降りた勇助だが、頭を動かした拍子に伸びた前髪が片目に入り、思わず声が漏れた。
「おい、回復してないならまだ休んでろって」
「違うんです。今のは前髪が目に刺さって」
「前髪?……確かに随分伸びてんな。オレが切ってやろうか?」
「でも、介抱して頂いた上にそこまでしてもらうのは」
勇助が遠慮がちに答えると、初は無造作に勇助の前髪を一束取って顔を顰めた。
「前から気になってたんだけど、これ、自分で切ってる?」
「いや、さすがに自分では……父が切ってくれています」
「お前の父ちゃん下手っぴだな。前も後ろもガッタガタ。
よかったら前髪切るついでに全体も整えてやるよ」
「ええ!?」
両目を丸くした勇助に、初は両手で鋏のポーズを作り、刃部分に見立てた人差し指と中指を動かしながら、にっと歯を見せて笑った。
「じーちゃん理容師だったからな。
少なくともお前の父ちゃんよりは上手いと思うぜ? チョキチョキ」
「……う、」
ベッドから半身を起こした勇助は、足元をクッションで少し高く持ち上げられていることに気付いた。
周囲を見回すと、六畳ほどの部屋の左側には質素な学習机と本棚、そして競技用の運動靴が二足ずつ並べられた三段のガラスケースが見えた。
机上のブックエンドには勇助が学校で使っているものと同じ教科書が並び、その傍らには、スキンヘッドの初老男性が豪快に笑う姿が収められた小さな写真立てが置かれている。
この人は誰だろう。勇助が遠目から写真を見つめていると、ガチャリとドアの開く音がした。
「お。勇助、大丈夫か」
サプリメントの入った小さなパウチを持った初が、部屋に入ってきた。
「はじめさん! ここは……?」
「オレの部屋。どう見ても保健室や病院じゃねーだろ」
軽い調子で笑った初が、ベッドの傍に腰掛け「具合はどうだ?」と訊ねてきた。
「おかげさまで……」
少し睡眠を取れたおかげか、頭痛と気持ち悪さはだいぶ治まったように感じる。
「おそらく貧血だと思います。前にも同じようになったことがあるので」
「だろうな。見た感じでそうだと思った。これ、水なしで飲めるマルチビタミンのサプリ。鉄分も入ってるから一応口ん中入れとけ」
「ありがとうございます……」
初はパウチから小さなタブレットを取り出すと、勇助に渡した。それを受け取った勇助は、言われた通りに口に含んだ。
レモン風味のタブレットを口の中で溶かしていると、初が「悪い」と勇助に謝る声が聞こえた。
「え……?」
「本当は救急車呼んだ方が良かったんだろうけど、このまま地べたに寝かせとくのもなあと思って……ウチまで連れてきちまった」
「そんな……助けてくださったのに、謝らないでください。
はじめさん、ここまで僕を運ぶの大変だったでしょう。背だって僕より小さいのに」
「てめっ……チビなのは今のうちだけだ! まだ成長期終わってねえからな?
……あそこからオレん家まで三分くらいだから、別に。
それより勇助、お前こそ身長の割に随分と軽いのな。普段からちゃんとメシ食ってんのか?」
初は勇助の細い腕を手に取り、手首の皺のあたりから少し下の部分をぎゅうっと強く押した。
「痛っ」
「ここ。『内関』っていう貧血の症状和らげるツボ。
痛いんならやっぱり貧血だろうな」
本当に効いているのかはわからないが、ツボを押して離してを繰り返されるうちに、涼しい風が吹き渡ったように頭部の不快感が薄まっていった。
「……もう痛くなさそうだな。こんなもんでいいか」
「ありがとうございます。
お陰様でだいぶ回復したので、そろそろ帰り……痛っ」
初に一礼してベッドを降りた勇助だが、頭を動かした拍子に伸びた前髪が片目に入り、思わず声が漏れた。
「おい、回復してないならまだ休んでろって」
「違うんです。今のは前髪が目に刺さって」
「前髪?……確かに随分伸びてんな。オレが切ってやろうか?」
「でも、介抱して頂いた上にそこまでしてもらうのは」
勇助が遠慮がちに答えると、初は無造作に勇助の前髪を一束取って顔を顰めた。
「前から気になってたんだけど、これ、自分で切ってる?」
「いや、さすがに自分では……父が切ってくれています」
「お前の父ちゃん下手っぴだな。前も後ろもガッタガタ。
よかったら前髪切るついでに全体も整えてやるよ」
「ええ!?」
両目を丸くした勇助に、初は両手で鋏のポーズを作り、刃部分に見立てた人差し指と中指を動かしながら、にっと歯を見せて笑った。
「じーちゃん理容師だったからな。
少なくともお前の父ちゃんよりは上手いと思うぜ? チョキチョキ」

