ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 二日間にわたる学校祭はほぼ滞りなく終わり、橿古井(かしこい)高校に日常が戻ってきた。

「なんで学祭二日目にも『焼き鳥十本チェキ商法』やったのプリンスにバレたんだろ……怖ぇ……もう来年は実行委員やらねぇ……」

 週明けの月曜日。この日から半袖に切り替えた勇助が学校に到着すると、虚ろな目をした池崎が、教室の片隅で頬杖をつきながら独り言を唱えていた。

「池崎くん、どうしたんですか?」
「サンシャインがプリンスにサンセットされたらしいよ」
「えっ……? サンセットとは一体……??」

 ますます状況が理解できなくなったが、どうやら池崎が禁止事項を破ったことで、桜慈から大目玉を喰らったらしい。そして、

「おはよう」
「おはよう……って、桜慈くん、鼻の下どうしたんですか?」

 少し遅れて登校してきた桜慈は、なぜか鼻と口の間、人中のところにハイドロコロイドの絆創膏を貼っていた。

「これは焼き……いや、ちょっとした事故があって」
「それは災難でしたね。お大事になさってください」
「あ、ああ……うん……」

 桜慈はなにか言いたげだったが、生徒会役員に呼ばれてそちらへと向かっていった。
 ひとり残された勇助が自分の席に着くと、クラスメイト達のゆるい会話が聞こえてきた。

「焼き鳥屋、意外と大変だったから来年は『利きうめえ棒』でよくね?
 安いしうまいし、電子レンジいらないし、余ったら食えばいいし」
「天才か」
「神の所業」
「賛成〜」

 どうやら来年の出し物は、今年以上にゆるくなるのかもしれない。

「なに、来年の学祭『利きうめえ棒』やんの?」

 そこへ、さらに遅れて登校してきた初が声を掛けてきた。

「あっ、はじめさん。おはようございます。
 土曜日はお疲れさまでした」
「……おう、お前もな」
「ありがとうございます。
 ……あの、ひとつ気になっていることがあって。お訊ねしてもよろしいですか?」
「何だよ、あらたまって。……別にいいけど」
「はじめさんって、メールだとキャラクターが変わる感じですか?」
「……へ?」

 勇助はキッズケータイを取り出すと、口を半開きにして固まる初にSMS受信画面を開いて見せた。

「昨日頂いたメール、知的な雰囲気を出すために漢字を多用されたのかもしれませんが、中国語みたいで非常に読み辛かったです。一瞬文字化けしてしまったのかと思って焦りました」
「…………はぁ!?」

 初は両目を剥くと、凄まじい勢いで勇助に捲し立てた。

「別にインテリぶったりなんかしとらんわ! 通信料うんぬんがどうだかで短く簡潔に送れって言ったのお前やぞ? 極限まで文字詰めたからこうなったんやろがボケどつき回したろか」
「ひゃわっ! ご、ごめんなさい!!
 お気持ち、とっても嬉しいです。ただ、もう少し平仮名とカタカナを使って頂けると」
「随分と注文の多い奴だな!!」

 初は憎まれ口を叩きつつも、最後は「わーったよ」と言ってツンと顔を背けた。

 そこへ、ホームルームの鐘が鳴った。

「……じゃあな。また放課後」

 席替えで遠くなった机に不貞腐れながら戻っていく初の背中を、勇助は静かに見送った。

「はい。また、放課後」