「……えーと、あなたのことは何とお呼びすれば?」
勇助が白い馬のマスクを被った"恩人"に訊ねると、彼は少し考えてから黒板に一つの文字を書いた。
『馬』
「——『馬』さん、南校舎の二階に僕のクラスの模擬店があるので、そちらにご案内してもいいですか?
『地鶏棒』っていう産地偽装も甚だしい焼き鳥屋なのですが。ぜひご馳走させて下さい!」
あの後無事に財布とケータイを回収した勇助は、『馬』をクラスの模擬店に誘った。彼が頭上で大きなマルのポーズを作ると、早速二年一組目指して歩き出した。が、
——べしん!
視界が狭いのか視力が悪いのか、馬はあまり目が見えないらしく、曲がり角に直撃して後ろに倒れた。
「大丈夫ですか!?」
勇助が馬に駆け寄ると、馬はよろよろと立ち上がり、再び頭上でマルを作った。
そういったキャラ設定なのか、何としても喋らないスタンスらしい。勇助は馬の中の人に興味を持ちつつ、余計な詮索はするまいと思い直した。そして、再び馬が転ばないよう彼の腕に手を回し、介助のような格好で教室まで連れて行った。
「お先にこれ、烏龍茶です!
焼き鳥は……お口周りが汚れにくいように、勝手に塩にしちゃったんですが、苦手ではないですか?」
勇助が馬の座席のテーブルに、プラコップに入った烏龍茶とレンジで加熱したての焼き鳥を置くと、彼の返事は"マル"だった。
勇助はしばらく馬の様子を見守っていたが、一向に食べ始める気配がない。
もしかしてマスクのせいでうまく食べられないのだろうか。そう思った勇助は焼き鳥の串を手に取り「これなら食べられるかな」と言って、あたりを付けてマスクの口部分に串を突っ込んだ。
「ッアヅッ!!」
「あああ! ごめんなさい!!」
しかしあたりが外れたらしく、馬は呻き声をあげて身をのけ反らせた。「大丈夫ですか」と声を掛けると、馬はプルプルしながらも四度目となるマルのポーズを取った。
「おすずちゃん、ちょっといい?」
直後、後方から池崎に呼ばれて、勇助は馬と池崎を交互に見た。馬が"どうぞ"と手を差し出したので席を立つと、
「池崎くん、どうしましたか」
「喜べ。お前とチェキを撮りたいという奴がいる」
「ええっ?! でも『チェキルール』は昨日禁止になったはずでは」
「貼り紙は取ったんだけどな。でも今なら『プリンス』いないし大丈夫っしょ。
女装コンで焼き鳥の宣伝したんだって? それ見て来てくれたらしいから、少しくらいサービスしたれよ」
不敵な笑みを浮かべる池崎が勇助の肩を叩いた瞬間、後方からメキョッッ! とプラスチックが捻り潰されるような音が聞こえてきた。
「あの音、なんでしょうか……?」
「さあな。音なんてどうでもいいからチェキ」
「……わかりました。今回だけですよ!」
「了解了解。サンキューな」
勇助がチェキの撮影と池崎との雑談を終えて馬の元に戻ると、
「……あれ?」
そこに彼の姿はなく、完食したと思しき串と紙皿、そしてなぜかベコベコに潰れたプラカップが残されていた。
帰ったんだ……と残念に思いながら食器を片付け、今度こそ着替えようと教室を一歩出た瞬間、ワンピースのポケットが振動した。
ポケットからキッズケータイを取り出すと、小さな画面には『新着ショートメール1件』と表示されていた。
差出人は、姫嶋初。
ボタンを押して画面を開いた瞬間、勇助は息を止めた。
『南関東大会終了俺到着多摩響中央駅学校帰還四時半頃』
勇助が白い馬のマスクを被った"恩人"に訊ねると、彼は少し考えてから黒板に一つの文字を書いた。
『馬』
「——『馬』さん、南校舎の二階に僕のクラスの模擬店があるので、そちらにご案内してもいいですか?
『地鶏棒』っていう産地偽装も甚だしい焼き鳥屋なのですが。ぜひご馳走させて下さい!」
あの後無事に財布とケータイを回収した勇助は、『馬』をクラスの模擬店に誘った。彼が頭上で大きなマルのポーズを作ると、早速二年一組目指して歩き出した。が、
——べしん!
視界が狭いのか視力が悪いのか、馬はあまり目が見えないらしく、曲がり角に直撃して後ろに倒れた。
「大丈夫ですか!?」
勇助が馬に駆け寄ると、馬はよろよろと立ち上がり、再び頭上でマルを作った。
そういったキャラ設定なのか、何としても喋らないスタンスらしい。勇助は馬の中の人に興味を持ちつつ、余計な詮索はするまいと思い直した。そして、再び馬が転ばないよう彼の腕に手を回し、介助のような格好で教室まで連れて行った。
「お先にこれ、烏龍茶です!
焼き鳥は……お口周りが汚れにくいように、勝手に塩にしちゃったんですが、苦手ではないですか?」
勇助が馬の座席のテーブルに、プラコップに入った烏龍茶とレンジで加熱したての焼き鳥を置くと、彼の返事は"マル"だった。
勇助はしばらく馬の様子を見守っていたが、一向に食べ始める気配がない。
もしかしてマスクのせいでうまく食べられないのだろうか。そう思った勇助は焼き鳥の串を手に取り「これなら食べられるかな」と言って、あたりを付けてマスクの口部分に串を突っ込んだ。
「ッアヅッ!!」
「あああ! ごめんなさい!!」
しかしあたりが外れたらしく、馬は呻き声をあげて身をのけ反らせた。「大丈夫ですか」と声を掛けると、馬はプルプルしながらも四度目となるマルのポーズを取った。
「おすずちゃん、ちょっといい?」
直後、後方から池崎に呼ばれて、勇助は馬と池崎を交互に見た。馬が"どうぞ"と手を差し出したので席を立つと、
「池崎くん、どうしましたか」
「喜べ。お前とチェキを撮りたいという奴がいる」
「ええっ?! でも『チェキルール』は昨日禁止になったはずでは」
「貼り紙は取ったんだけどな。でも今なら『プリンス』いないし大丈夫っしょ。
女装コンで焼き鳥の宣伝したんだって? それ見て来てくれたらしいから、少しくらいサービスしたれよ」
不敵な笑みを浮かべる池崎が勇助の肩を叩いた瞬間、後方からメキョッッ! とプラスチックが捻り潰されるような音が聞こえてきた。
「あの音、なんでしょうか……?」
「さあな。音なんてどうでもいいからチェキ」
「……わかりました。今回だけですよ!」
「了解了解。サンキューな」
勇助がチェキの撮影と池崎との雑談を終えて馬の元に戻ると、
「……あれ?」
そこに彼の姿はなく、完食したと思しき串と紙皿、そしてなぜかベコベコに潰れたプラカップが残されていた。
帰ったんだ……と残念に思いながら食器を片付け、今度こそ着替えようと教室を一歩出た瞬間、ワンピースのポケットが振動した。
ポケットからキッズケータイを取り出すと、小さな画面には『新着ショートメール1件』と表示されていた。
差出人は、姫嶋初。
ボタンを押して画面を開いた瞬間、勇助は息を止めた。
『南関東大会終了俺到着多摩響中央駅学校帰還四時半頃』

