ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 どうにか女装コンテストを乗り切った勇助は、『ボクのステージ、絶対観てね!』というあざとちゃんの言葉を守って、舞台の端で他の参加者達の様子を観覧しつつ彼の出番を待った。

 それにしても、他の参加者達は瓦割り、新体操、オペラ歌唱と、至極まともな特技を披露しており、カミカミで焼き鳥の宣伝なんかをしたのは勇助だけだ。どう考えても完全なるイロモノ枠になってしまった自分が、恥ずかしくなった。

 そして真打ち、あざとちゃんの出番となったが、

「好き〜すぎてぇ〜絶滅ゥ〜♪」

 ところどころ音程と振り付けを間違えながら歌い踊るステージに、勇助は色々な意味で手に汗を握った。

 落ち着いたら、あざとちゃんに「お疲れさま」と言いに行こう。
 司会が投票方法と注意事項を伝える中、勇助はひっそりと会場を後にした。


『すずちゃん、ひめじーが戻ってくるまでその格好のままでいてやってよ。あいつ、きっと惚れ直すよ』

 惚れ直す……と言われても。
 瀬形に掛けられた言葉を思い出して戸惑いつつも、そもそも初は自分に惚れているわけではないので女装を解いても問題ないだろうと思い直した勇助は、制服に着替えることにした。
 メイクの落とし方を考えながら渡り廊下を歩いていると、通行人とぶつかってしまった。

「ごめんなさい!」
「ってーな!!」

 がなり声で檄を飛ばす体格のよい男に勇助は即座に謝ったが、男はメイクが服に付いたと言ってクリーニング代を請求してきた。
 財布は控室に置いてきたリュックの中だ。動揺する勇助に、男はそれなら一緒に遊べと言うなり、強引に腕を引っ張り空き教室へと押し込んだ。

「痛っ」
「ここなら誰も来ねーだろ。
 裸で一緒に遊んでやったら、チャラにしてやっから。
 ……ほら、早く脱げよ」

 尻餅をついた勇助が恐怖でカタカタと震えると、男が再び声を荒らげた。

「早く脱げっつってんだろ! 自分でできねーなら俺が脱がせてやる!!」
「いや……っ! 助けて!!」

 男に身体を引き寄せられ、胸元のボタンに手を掛けられた瞬間、

「びょフ」

 間抜けな呻き声をあげた男が、どさりと倒れ落ちた。

 一体、何が……?
 視線を上げた先には——胸元で拳を握りしめ、勇助を見下ろす……いや、本当に見下ろしてるの……?

 (しな)やかな体躯を見慣れた学ランの制服に包み、その上に、なぜか白い馬の頭部を模したマスクを被った男が、倒れた男の背後から姿を現した。
 男はやがて膝を折り曲げ、勇助にそっと手を差し伸べた。
 その姿は、さながら。

「白馬の、王子様……」