受験生や在校生の家族も訪れ、初日以上の賑わいを見せる学校祭の二日目。
もうすぐ午後三時を迎え、橿古井高校のメインイベントの一つである女装コンテストが始まろうとしていた。
事前に瀬形による『改造』を受けた勇助は、会場である体育館の舞台袖に置かれたパイプ椅子に腰掛け、緊張でガチガチに震えていた。
メイクアップアーティストの弟だという瀬形のメイク技術は圧巻だった。小花柄のロングワンピースとセミロングのハーフウィッグを着用した職質待ったなしの変質者が、ものの二十分ほどで朝ドラヒロイン風の清楚系少女へと変身を遂げたのには目を剥いた。
魔法にかけられたみたいだ、と思わず呟いた勇助に、瀬形は笑ってこう言った。
『すずちゃんみたいな"宝の原石"タイプは、メイクのしがいがある分、魔法にかかりやすいんだ。
すずちゃんは女装コンに出るのがひめじーじゃなくて自分で申し訳ないって何度も言ってたけど、これで少しは気が変わったかな。少なくとも俺は、女装コンに出るのがすずちゃんで良かったと思ってるよ』
優しい言葉をくれた瀬形の為にも何とかやり遂げたいと思っていたが、まさかトップバッターだったとは。
発表の順番はクラス順だと司会に言われて、勇助は自分が一組であることを今日になって初めて恨めしく思った。
二組と三組からは、先日噂になった空手部の主将と三組の『姫』がカップルでエントリーしたらしく、メイド服姿の大男と妖精風衣装の男子が、隣でねっとりと絡み合っていて非常に気まずい。さらに四組の『姫』と思しきド派手な小○幸子風衣装の男子と、五組の『姫』であるあざとちゃんは仲が悪いらしく、大袈裟なくらい椅子を離し、ツンとした表情で互いに顔を背け合っている。
正直言って地獄だ。一刻も早く出番を終えて、ここから抜け出したいと願う勇助に「それでは最初に、一組のかた〜!」と、その願いを聞き入れたかのような司会の声が聞こえてきた。
「あっ、は、はい!!」
勢いよく椅子から立ち上がった勇助がステージに向かうと、会場からはわずかなどよめきが起こった。
「『姫』じゃないんだ」
「あんな子、一組にいた?」
「でもかわいい。優しそうでこっちの子の方が好き」
「女装めっちゃ自然」
会場の反応は概ね好評だったが、頭が真っ白状態の勇助の耳には一切届いていなかった。
ぎこちない動作でステージの×印の前まで行くと、司会の男子生徒にマイクを振られた。
「それでは、お名前を教えて下さい!」
勇助はフルネームを名乗ろうとするが、大勢の視線に晒された緊張と羞恥でうまく言葉が出てこない。
「すっ、す、すずっ、」
すると、
「すずちゃーん! かぁいいぞー!!」
——瀬形くん……!
「すずちゃーん!」
「がんばれー!!」
瀬形の声をきっかけに、クラスメイトが次々と勇助に声援を送った。
「二年一組の『すずちゃん』だそうです!
……これは一組、清純派のダークホースを送り込んできましたね!
それではすずちゃん、自己PRをどうぞ!!」
瀬形達の声援によって幾分か心に余裕ができた勇助だが、未だに緊張はしたままだった。
確か、自己PRは……
『言うことがなかったら、焼き鳥の宣伝でもしとけばいいんじゃね』
クラスメイトの言葉を思い出し、勇助はおもむろに口を開いた。
「ええと、にっ、にねん、いち、くみ! で、……じ、地鶏棒っていう、大きめの焼き鳥を売ってます!
あっでも、地鶏っていうのは嘘でして……実際は外国産の安い鶏肉……つまりは産地偽装、なんですが!
そ、その分、お値段、お安くなってるので、ぜひ、か、買いに、きて下さい!!」
自己PRと銘打った焼き鳥の宣伝を終えると、会場は一瞬シーンと静まり返った後、笑いの渦に包まれた。
……よかった。なんかよくわからないけどウケたみたいだ。
その瞬間、ようやく勇助の緊張が解けた。
もうすぐ午後三時を迎え、橿古井高校のメインイベントの一つである女装コンテストが始まろうとしていた。
事前に瀬形による『改造』を受けた勇助は、会場である体育館の舞台袖に置かれたパイプ椅子に腰掛け、緊張でガチガチに震えていた。
メイクアップアーティストの弟だという瀬形のメイク技術は圧巻だった。小花柄のロングワンピースとセミロングのハーフウィッグを着用した職質待ったなしの変質者が、ものの二十分ほどで朝ドラヒロイン風の清楚系少女へと変身を遂げたのには目を剥いた。
魔法にかけられたみたいだ、と思わず呟いた勇助に、瀬形は笑ってこう言った。
『すずちゃんみたいな"宝の原石"タイプは、メイクのしがいがある分、魔法にかかりやすいんだ。
すずちゃんは女装コンに出るのがひめじーじゃなくて自分で申し訳ないって何度も言ってたけど、これで少しは気が変わったかな。少なくとも俺は、女装コンに出るのがすずちゃんで良かったと思ってるよ』
優しい言葉をくれた瀬形の為にも何とかやり遂げたいと思っていたが、まさかトップバッターだったとは。
発表の順番はクラス順だと司会に言われて、勇助は自分が一組であることを今日になって初めて恨めしく思った。
二組と三組からは、先日噂になった空手部の主将と三組の『姫』がカップルでエントリーしたらしく、メイド服姿の大男と妖精風衣装の男子が、隣でねっとりと絡み合っていて非常に気まずい。さらに四組の『姫』と思しきド派手な小○幸子風衣装の男子と、五組の『姫』であるあざとちゃんは仲が悪いらしく、大袈裟なくらい椅子を離し、ツンとした表情で互いに顔を背け合っている。
正直言って地獄だ。一刻も早く出番を終えて、ここから抜け出したいと願う勇助に「それでは最初に、一組のかた〜!」と、その願いを聞き入れたかのような司会の声が聞こえてきた。
「あっ、は、はい!!」
勢いよく椅子から立ち上がった勇助がステージに向かうと、会場からはわずかなどよめきが起こった。
「『姫』じゃないんだ」
「あんな子、一組にいた?」
「でもかわいい。優しそうでこっちの子の方が好き」
「女装めっちゃ自然」
会場の反応は概ね好評だったが、頭が真っ白状態の勇助の耳には一切届いていなかった。
ぎこちない動作でステージの×印の前まで行くと、司会の男子生徒にマイクを振られた。
「それでは、お名前を教えて下さい!」
勇助はフルネームを名乗ろうとするが、大勢の視線に晒された緊張と羞恥でうまく言葉が出てこない。
「すっ、す、すずっ、」
すると、
「すずちゃーん! かぁいいぞー!!」
——瀬形くん……!
「すずちゃーん!」
「がんばれー!!」
瀬形の声をきっかけに、クラスメイトが次々と勇助に声援を送った。
「二年一組の『すずちゃん』だそうです!
……これは一組、清純派のダークホースを送り込んできましたね!
それではすずちゃん、自己PRをどうぞ!!」
瀬形達の声援によって幾分か心に余裕ができた勇助だが、未だに緊張はしたままだった。
確か、自己PRは……
『言うことがなかったら、焼き鳥の宣伝でもしとけばいいんじゃね』
クラスメイトの言葉を思い出し、勇助はおもむろに口を開いた。
「ええと、にっ、にねん、いち、くみ! で、……じ、地鶏棒っていう、大きめの焼き鳥を売ってます!
あっでも、地鶏っていうのは嘘でして……実際は外国産の安い鶏肉……つまりは産地偽装、なんですが!
そ、その分、お値段、お安くなってるので、ぜひ、か、買いに、きて下さい!!」
自己PRと銘打った焼き鳥の宣伝を終えると、会場は一瞬シーンと静まり返った後、笑いの渦に包まれた。
……よかった。なんかよくわからないけどウケたみたいだ。
その瞬間、ようやく勇助の緊張が解けた。

