ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

「——はあ。中間試験、終わった……」
「はい、無事に終わってよかったですね。はじめさん」
「全然無事じゃねえし、『終わった』ってそういう意味じゃねえ……」

 中間試験後の翌週、答案用紙が一斉に返却された。
 打ちのめされたように突っ伏す初の机上には、今回の試験は五十点満点だったかと錯覚してしまいそうな点数がずらりと並んでいる。勇助はその一つを手に取ると、初を宥めるように言った。

「次はもっと頑張りましょうね」
「え……頑張ってる奴には頑張れって言わないんじゃなかったのかよ」
「今回の中間試験に関しては、確実にはじめさんの頑張り不足が原因です。
 古文は辛うじて平均点を超えましたが、他は赤点が一つもないのが不思議なくらいです。
 頑張りが足りないものには、はっきりと言いますよ。『頑張れ』って」
「……勇助。お前最近、オレへの物言いが辛辣になってきてないか?」


 こうして各々が一喜一憂した中間試験が終わると、学校祭の準備が本格的に始まった。

 他のクラスが演劇やお化け屋敷、コンカフェといった大掛かりな出し物を企画する中、二年一組の出し物は、

「学校の近所に業務用スーパーあるじゃん。
 そっから大量に焼き鳥でも仕入れて、電子レンジで温めたやつ出せば良くね?」

 という、ゆるい一声に賛同したゆるいクラスメイト達によって、焼き鳥とソフトドリンクをサーブするだけの簡素な模擬店に決定した。

「パンフに載せる店の名前、『焼き鳥屋』でいい?」
「バーニングチキン」
「地鶏棒」
「外国産なのに? ウケる、それでいっか」

 出店名もゆるいノリで『地鶏棒』に決まり、あとはスーパーへの買付けと電子レンジの手配、それから教室の装飾だけとなった。

「……なんというか、こんなに適当で良いんですかね?
 他のクラスは休み時間や放課後も学校祭の準備で忙しそうなのに」

 放課後、帰宅準備を終えた勇助が桜慈に話しかけると、桜慈は優しく微笑んだ。

「皆きっと、それぞれ他に比重を置きたいことがあるんだよ。
 不満の声が上がってないならいいんじゃないかな」

 そこへ、部活に向かう途中の初が会話に入ってきた。

「つーか、一組の奴らって異様に彼女いる率高くね?
 だからあんまりこういうのに時間取られたくねーんだろ。(かい)も本当はそうみたいだし。
 おい、快! お前、『準備』は進めてんだろーな?」

 茶髪をハーフアップにしたひときわ背の高い男子が、初の呼びかけに「んー?」と気怠げな返事をしながら勇助達の元にやってきた。
 瀬形(せがた)(かい)。今回の女装コンテストで勇助の"改造"を担当する、初と同じ陸上部のクラスメイトだ。

「ひめじー、せっかちだなあ。その件については当日までのお楽しみ」
「とか言って全然準備してねーんだろ」
「そんなことないって。予算内で"すずちゃん"改造アイテム、ちゃんと用意してあっから」
「……本当に大丈夫なんだろうな」
「メイクアップアーティストの弟にそれ言う?
 大丈夫だって。もうイメージはできてるから。
 気になるなら南関東大会終わったらその足で見に来りゃいいじゃん。で、そのままデートすりゃいいじゃん」
「なな、何言ってんだバカ!!」

 顔を真っ赤にした初が瀬形に掴み掛かったが、瀬形はケタケタと笑っている。

「瀬形君も姫嶋も、早く部活に行かなくていいのか?
 俺達はそろそろ失礼するよ。
 勇助君、以前話していた中目黒のパティスリー特製のクッキーと紅茶があるんだ。今日は生徒会も休みだし、この後生徒会室で勉強がてら一緒に食べていかないかい?」
「えっ、いいんですか? 桜慈くん、ありがとうございます!」

 目を輝かせながら深々とお辞儀をする勇助に、瀬形が便乗した。

「神様仏様王子様! あざっす!!」
「来て貰っても構わないけど、瀬形君が部活動そっちのけで生徒会室に入り浸りに来ていると顧問に報告しても差し支えないんだね?」

「……ひめじー、部活行こ」
「……おう」

 陸部二人組は、こころなしか元気のない足取りでグラウンドに向かっていった。