「——それでは"桜慈先生"、本日はよろしくお願いします!」
「……まーっす、」
「姫嶋、やる気がないなら帰ってもらえないか?」
そして迎えた、勉強会当日。
三人で今回の試験範囲である『伊勢物語』の復習真っ最中なのだが、
「姫嶋。古語の『妹』は『妹』と訳さない。
現代と同じ意味ならわざわざ出題してこない」
「う……」
うっせー!!
桜慈は皮肉とセットで間違いを指摘しなければ死ぬ病気にでも罹っているのだろうか。
しかも正解教えてくれないし。
「というか古文は見た目は同じクセに、昔と今で全然意味の違う言葉が多すぎんのがムカつくんだよ。どうやったら『おかし』と『あわれ』が両方ともステキって意味になるんだ、マジで意味わかんねえ」
「はじめさん。気持ちはわかりますが、そういうものだと割り切ってひたすら覚えるしかないです。
ここでの『妹』は、恋人を指していますので、つまりは僕にとってのはじめさん……ですかね。
こうやって覚えれば、忘れないでしょう?」
「「ハァ?!」」
思わず訊き返すと、桜慈と綺麗にハモった。
「ゆ、勇助君。さすがにそれは違うんじゃないか?」
「確かに。『妹』は女性にしか使わないので、『弟』と言ったほうが適切でしょうか。
実際にも弟みたいに思ってますし。はじめさんのこと」
「なんでオレが弟なんだよ。誕生日は五月一日だし、高確率でお前のほうが弟だろ」
「そうすると弟が兄に勉強を教えていることになってしまいますが……。ちなみに僕は四月生まれです」
勇助のほうが微妙に年上だったのか。言わなきゃよかったと初は後悔した。
「もうこの話はやめだ! 続き、教えてくれ」
その後の勇助は、突拍子もないことを言わずに教えてくれた。理解できないところもあったが、極力噛み砕いて、わかりやすくしてくれているのが十分に伝わる、丁寧な教え方だった。
「……ここ。『かなし』の『かな』は、漢字で『愛』と書くので、『愛しい』という意味になります」
「うわ、また昔と今で意味が違うシリーズかよ」
「ふふ、はじめさんの中ではシリーズになってるんですね。
でしたらこの『愛し』も仲間に加えてあげてください」
「『悲しい』じゃなくて『いとしい』……か。
なんでよりによってこんな正反対の意味になっちまったんだろうな」
不意に浮かんだ疑問を投げると、勇助が「うーん」と悩み始めた。
「姫嶋。勇助君に突っかかる前に、先程彼が言ったようにそういうものだと割り切って覚えろ。
……説明してやれないこともないが、どうせ君には理解できないだろう」
「は? なんだそれ。てめー喧嘩売ってんのか?」
「わああ! はじめさん、座ってください。
古文の読解は、どれだけ古語を暗記しているかに懸かっています。喧嘩してる暇があるなら、少しでも頭に詰め込まないと」
「…………」
渋々椅子に腰掛けると、桜慈がふっ、と小馬鹿にするような笑いを漏らす声が聞こえた。
くそ。何がおかしいんだよ。
何が『おかし』だよ。
この日の勉強会は、勇助が"門限"で帰宅するまで続いた。
「……まーっす、」
「姫嶋、やる気がないなら帰ってもらえないか?」
そして迎えた、勉強会当日。
三人で今回の試験範囲である『伊勢物語』の復習真っ最中なのだが、
「姫嶋。古語の『妹』は『妹』と訳さない。
現代と同じ意味ならわざわざ出題してこない」
「う……」
うっせー!!
桜慈は皮肉とセットで間違いを指摘しなければ死ぬ病気にでも罹っているのだろうか。
しかも正解教えてくれないし。
「というか古文は見た目は同じクセに、昔と今で全然意味の違う言葉が多すぎんのがムカつくんだよ。どうやったら『おかし』と『あわれ』が両方ともステキって意味になるんだ、マジで意味わかんねえ」
「はじめさん。気持ちはわかりますが、そういうものだと割り切ってひたすら覚えるしかないです。
ここでの『妹』は、恋人を指していますので、つまりは僕にとってのはじめさん……ですかね。
こうやって覚えれば、忘れないでしょう?」
「「ハァ?!」」
思わず訊き返すと、桜慈と綺麗にハモった。
「ゆ、勇助君。さすがにそれは違うんじゃないか?」
「確かに。『妹』は女性にしか使わないので、『弟』と言ったほうが適切でしょうか。
実際にも弟みたいに思ってますし。はじめさんのこと」
「なんでオレが弟なんだよ。誕生日は五月一日だし、高確率でお前のほうが弟だろ」
「そうすると弟が兄に勉強を教えていることになってしまいますが……。ちなみに僕は四月生まれです」
勇助のほうが微妙に年上だったのか。言わなきゃよかったと初は後悔した。
「もうこの話はやめだ! 続き、教えてくれ」
その後の勇助は、突拍子もないことを言わずに教えてくれた。理解できないところもあったが、極力噛み砕いて、わかりやすくしてくれているのが十分に伝わる、丁寧な教え方だった。
「……ここ。『かなし』の『かな』は、漢字で『愛』と書くので、『愛しい』という意味になります」
「うわ、また昔と今で意味が違うシリーズかよ」
「ふふ、はじめさんの中ではシリーズになってるんですね。
でしたらこの『愛し』も仲間に加えてあげてください」
「『悲しい』じゃなくて『いとしい』……か。
なんでよりによってこんな正反対の意味になっちまったんだろうな」
不意に浮かんだ疑問を投げると、勇助が「うーん」と悩み始めた。
「姫嶋。勇助君に突っかかる前に、先程彼が言ったようにそういうものだと割り切って覚えろ。
……説明してやれないこともないが、どうせ君には理解できないだろう」
「は? なんだそれ。てめー喧嘩売ってんのか?」
「わああ! はじめさん、座ってください。
古文の読解は、どれだけ古語を暗記しているかに懸かっています。喧嘩してる暇があるなら、少しでも頭に詰め込まないと」
「…………」
渋々椅子に腰掛けると、桜慈がふっ、と小馬鹿にするような笑いを漏らす声が聞こえた。
くそ。何がおかしいんだよ。
何が『おかし』だよ。
この日の勉強会は、勇助が"門限"で帰宅するまで続いた。

