ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 中間試験を来週に控えた、水曜日の中休み。
 自宅を勝手に会場化され、ゆるく計画立てられていた勉強会に思わぬ途中参加の申し出があった。

「楽しそうだね。俺もまぜてもらえるかな?」
「ヒェッ……! す、すずきおうじくん?」

 哲哉はなぜか桜慈の前限定でコミュ障スイッチが入るようで、

「お、おれやっぱその日無理だったわ! 桃ちゃんとデートがあって」
「はぁ? この日がいいって言ったの哲」
「そうか……残念だな。
 でも試験前にデートだなんて、さすがは内藤君。随分と余裕だね」
「ヒィッ……!! とっ、とにかくそんなわけだから、三人で楽しんで!
 次、体育だからもう行くわ!!」

 慌てふためく……というよりも顔をあからさまに硬直させて、一目散に教室を出て行った。


 勉強会は結果的に、メンバーが哲哉から桜慈へ、科目が数Ⅱから古文へ、そして会場が初の家から生徒会室へと変更になった。
 初が不本意ながら桜慈にも「ウチ来るか?」と誘ったところ「生徒会室を開けるからそこで勉強しよう」と提案された。その時は家に呼ぶ手間が省けてよかったとしか思わなかったが、桜慈は更に「この大切な時期にハウスダストアレルギーにでもなったら敵わないからな」とベッド脇のティッシュより腹立たしい皮肉を添えてきた。

 本当に、どうしてこんな奴がチヤホヤされてるんだ。
 こんな奴より——

「——姫ちゃん? おーい」
「あ……ああ、哲か。悪い、意識飛んでた」

 今、何を考えていたのか。
 購買で哲哉に声を掛けられたところで、思考が途切れた。

「そういや哲、お前桜慈に何か弱みでも握られてんのか?」
「ほわ?! あー……いや。そういうんじゃなくてさ」

 哲哉曰く、一年の頃から勇助に忘れ物を借りに行きすぎていたせいか、勇助に話し掛けるたびに桜慈から無言の笑顔の圧のようなものが放たれるらしく、それが底なしに恐ろしいのだそうだ。

「笑顔の圧? 気にしすぎじゃね。アイツいっつもあんな感じの胡散臭い笑顔してんじゃん。
 オレなんか無表情でガン飛ばされてんだぞ」
「あからさまに敵意剥き出しにされる方がまだマシだって! 笑顔だからこそ怖いんだよお」

 大袈裟に身震いをした哲哉は「ま、そういうわけだから。ごめん、ガンバッテ♪」と言い、桜慈並みに胡散臭い笑顔を浮かべて渡り廊下へと消えていった。