勇助が初の『恋人』になって早二週間。
二年一組の『姫』と『じゃない方』による不本意な噂は、先日発覚した別の熱愛スクープによって急速に話題性を失っていった。
どうやら二年二組の空手部主将を務める大男が、入学以来猛アタックを掛けていた二年三組の『姫』との交際をスタートさせたそうだ。それなりに人気と知名度のある二人組らしく、校内はほぼ祝福ムード一色になった。
初との噂をかき消してくれた空手部の主将と二年三組の『姫』に感謝しつつ、図書室での勉強を終えた勇助が下校しようと昇降口へと向かうと、陸上部のユニフォーム姿の初とばったり会った。
「はじめさん」
「おう、勇助。今帰りか?」
初は少し長めの襟足を後ろで一つに束ね、左肘には黒のサポーターを着けている。
「はい。……あの、先日は僕のせいで、すみませんでした」
「へ? 僕のせいって、お前別になんもしてなくね?」
「五時間目の、数Ⅱ……今日が小テストの日でしたよね」
「ああ、あの件か。……ったく、おかげで今回赤点取ったら補習確定になっちまったじゃねーか」
「ごめんなさい。はじめさんがそんなに数学苦手だとは思ってなくて……」
「なんなら全教科苦手ですけど?
……はあ、小テストの勉強してる時間なんてねえっつの。もうすぐ支部予選が控えてんのに」
「支部予選会、今週末でしたね」
初の口から支部予選という言葉が出たタイミングで、勇助はあることを思い出した。
「そうだ……はじめさんに渡そうと思っていたものがあったんです」
勇助がヨレヨレのスクールリュックから取り出したのは、『必勝』と拙い刺繍の入ったフェルトが縫い付けられた、袋型のお守りだった。
「これ……お前が作ったのか?」
両目を瞠る初に勇助は頷き、ためらいがちに差し出した。
「哲ちゃんがスクールバッグに付けてるお守りが可愛かったので。どこに売っているのか訊いたら、桃ちゃんさん……ええと、哲ちゃんの彼女の手作りだそうで。
……それで、作り方を教えてもらって、同じように作ってみたんですが……。
ご覧の通りの拙さなので、要らなかったら」
「ありがとな」
言葉を遮るようにお守りを受け取った初が、勇助をまっすぐ見た。
「オレ、こいつを全国に連れてけるように頑張るから」
夕陽を宿し、燃えるような輝きを放つ瞳のまばゆさに、勇助の心臓が跳ねる。
この人なら、きっと。
「はい! 頑張って……なんて、すでに頑張っている人に言うべきではないですね。
……はじめさんが最後まで諦めずに、最善を尽くせますように」
微笑む勇助に、つられるように初も笑った。
「……まあ、勇助からしたら早く終わってほしいだろうけど」
「そんなこと、これっぽっちも思ってません!
全国優勝目指して、突き進んでください!!」
「目標でけえな。でもまあそんくらいのつもりで……。
……っつーかこのお守り、やけに分厚くね?
中に何入ってんの??」
「わあーっ! 開けちゃダメです!
開けたら呪いで頭皮が薄くなりますからね!!」
「なんだそれ。……じーちゃんハゲだったからあんまシャレになんねーんだけど」
初は昇降口の壁掛け時計を見ると、「やべ、そろそろ戻るわ」と言ってグラウンドの方へと走っていった。
「勇助。また明日!」
グラウンドに向かう途中で振り向いた初が声を掛けた。
「はい。
——また、明日」
その手には、勇助が渡したお守りが握られていた。
二年一組の『姫』と『じゃない方』による不本意な噂は、先日発覚した別の熱愛スクープによって急速に話題性を失っていった。
どうやら二年二組の空手部主将を務める大男が、入学以来猛アタックを掛けていた二年三組の『姫』との交際をスタートさせたそうだ。それなりに人気と知名度のある二人組らしく、校内はほぼ祝福ムード一色になった。
初との噂をかき消してくれた空手部の主将と二年三組の『姫』に感謝しつつ、図書室での勉強を終えた勇助が下校しようと昇降口へと向かうと、陸上部のユニフォーム姿の初とばったり会った。
「はじめさん」
「おう、勇助。今帰りか?」
初は少し長めの襟足を後ろで一つに束ね、左肘には黒のサポーターを着けている。
「はい。……あの、先日は僕のせいで、すみませんでした」
「へ? 僕のせいって、お前別になんもしてなくね?」
「五時間目の、数Ⅱ……今日が小テストの日でしたよね」
「ああ、あの件か。……ったく、おかげで今回赤点取ったら補習確定になっちまったじゃねーか」
「ごめんなさい。はじめさんがそんなに数学苦手だとは思ってなくて……」
「なんなら全教科苦手ですけど?
……はあ、小テストの勉強してる時間なんてねえっつの。もうすぐ支部予選が控えてんのに」
「支部予選会、今週末でしたね」
初の口から支部予選という言葉が出たタイミングで、勇助はあることを思い出した。
「そうだ……はじめさんに渡そうと思っていたものがあったんです」
勇助がヨレヨレのスクールリュックから取り出したのは、『必勝』と拙い刺繍の入ったフェルトが縫い付けられた、袋型のお守りだった。
「これ……お前が作ったのか?」
両目を瞠る初に勇助は頷き、ためらいがちに差し出した。
「哲ちゃんがスクールバッグに付けてるお守りが可愛かったので。どこに売っているのか訊いたら、桃ちゃんさん……ええと、哲ちゃんの彼女の手作りだそうで。
……それで、作り方を教えてもらって、同じように作ってみたんですが……。
ご覧の通りの拙さなので、要らなかったら」
「ありがとな」
言葉を遮るようにお守りを受け取った初が、勇助をまっすぐ見た。
「オレ、こいつを全国に連れてけるように頑張るから」
夕陽を宿し、燃えるような輝きを放つ瞳のまばゆさに、勇助の心臓が跳ねる。
この人なら、きっと。
「はい! 頑張って……なんて、すでに頑張っている人に言うべきではないですね。
……はじめさんが最後まで諦めずに、最善を尽くせますように」
微笑む勇助に、つられるように初も笑った。
「……まあ、勇助からしたら早く終わってほしいだろうけど」
「そんなこと、これっぽっちも思ってません!
全国優勝目指して、突き進んでください!!」
「目標でけえな。でもまあそんくらいのつもりで……。
……っつーかこのお守り、やけに分厚くね?
中に何入ってんの??」
「わあーっ! 開けちゃダメです!
開けたら呪いで頭皮が薄くなりますからね!!」
「なんだそれ。……じーちゃんハゲだったからあんまシャレになんねーんだけど」
初は昇降口の壁掛け時計を見ると、「やべ、そろそろ戻るわ」と言ってグラウンドの方へと走っていった。
「勇助。また明日!」
グラウンドに向かう途中で振り向いた初が声を掛けた。
「はい。
——また、明日」
その手には、勇助が渡したお守りが握られていた。

