トーマははっと顔を上げた。カディスの金色の瞳は、深い闇を映す夜空のように揺るぎなく光っている。
「他人の言葉を恐れている限り、お前の人生はお前ものじゃない。目的があろうがなかろうが、自分の足で歩かなければ、意味など生まれん」
その言葉は刃のように鋭かった。だが、不思議と胸を裂く痛みではなく、硬く凝り固まっていたものを断ち切るような感触があった。
トーマは視線を逸らし、唇を噛んだ。けれど、心の奥では小さな炎が灯るのを確かに感じていた。
カディスの言葉が空気に溶けると、しばし沈黙が流れた。その静けさを破るように、フィオラが穏やかに微笑んだ。
「……だから大丈夫。あなたが歩こうとするなら、ここで立ち止まってもいいし、また歩き出してもいい。どんな選び方をしても、あなたの人生はあなたのものよ」
彼女の声は、冬の陽だまりのように温かかった。トーマの胸に残っていた痛みをそっと包み込み、先ほど灯った小さな炎を消さぬように守ってくれる。
「ここでは、何も背負わなくていいの。一杯のコーヒーに癒されて、心が軽くなるだけでも……それは意味のある時間だと思うの」
トーマはカップを見つめながら、その言葉を静かに胸に受け止めた。背中を押されるような優しさが、確かにそこにあった。
トーマがカップを置いたとき、カウンターの奥でカディスが静かにカップを拭いていた手を止めトーマの方へ視線を向け口を開いた。
「君、名前は?」
不意の問いに、トーマは少し身を固くする。
「えっ……あ、トーマです」
カディスは頷き、続けて問う。
「トーマ。働いた経験は?」
「少しだけ....バイトをしていました。でも、うまくいかなくて……」
トーマの声が小さくなる。
「なるほどな」
カディスは一度だけ目を伏せ、磨いていたカップを棚に戻した。
「ここは、少し変わったカフェだ。客も店員も、それぞれ何かを抱えて来る」
低く響く声には、冷たさではなく静かな重みがあった。そして、わずかに口元を緩めて言う。
「トーマ、ここで働いてみるか?」
突然の誘いに、トーマは目を見開く。その一言が、まるで暗闇に差し込む光のように心の奥に届いた。
「え……?」
「客として癒されるのもいい。だが…居場所として探しているなら、この店で探してみろ。客ではなく仲間としてな。もちろん、無理にとは言わん。」
その声音は淡々としていたが、どこか試すような光を帯びていた。フィオラが柔らかく笑みを浮かべる。
「少しでもやってみたいと思うなら、私たちと一緒に過ごしてみましょう?」
トーマは思わず胸に手を当てた。まだ迷いはあったが、その奥で小さな期待が芽生えているのを、自分でもはっきり感じていた。
しばしの沈黙の後、トーマは息を整え、真っ直ぐに頷いた。
「……はい。やってみたいです」
声は震えていたが、その響きは確かだった。口にした瞬間、心の中で何かが軽くほどけるのを感じた。フィオラはトーマの返事を聞いて瞳がぱっと明るくなった。
フィオラはトーマの返事に思わず目を輝かせる。カディスも口元をわずかに緩め、短く言葉を落とした。
「悪くない選択だ」
カディスは棚から小箱をいくつか取り出した。中には店長たちが着けているループタイと同じものが整然と並んでいる。
カディスと同じ深い緑色、フィオラと同じ柔らかな桃色、そして他にもーー燃えるような紅色、琥珀を思わせるような黄金色、落ち着いた翠色、その他にも沢山の色があった。
「これはこの店で働く者の証だ。自分の好きな色を選ぶといい」
差し出された箱を前に、トーマはしばし迷う。やがて視線が自然に吸い寄せられたのは、深く澄んだ青。どこか寂しさも、静かな力強さも宿す瑠璃色ーーラピスラズリだった。
トーマはそれをそっと手に取った。
「……これを」
フィオラが両手を胸の前で合わせて、嬉しそうに声を弾ませる。
「良い色だね、とっても似合うと思う!これでトーマも私たちの仲間ね!」
胸の奥に温かさが広がり、トーマは自然と笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
フィオラとカディスは互いに顔を見合わせて同時に言った。
「「ようこそ、カフェ・ソリスへ。」」
その言葉に、トーマは初めて小さく笑みを浮かべた。店内に流れる温かな空気が、彼の心に居場所を見つけたと告げているようだった。
「他人の言葉を恐れている限り、お前の人生はお前ものじゃない。目的があろうがなかろうが、自分の足で歩かなければ、意味など生まれん」
その言葉は刃のように鋭かった。だが、不思議と胸を裂く痛みではなく、硬く凝り固まっていたものを断ち切るような感触があった。
トーマは視線を逸らし、唇を噛んだ。けれど、心の奥では小さな炎が灯るのを確かに感じていた。
カディスの言葉が空気に溶けると、しばし沈黙が流れた。その静けさを破るように、フィオラが穏やかに微笑んだ。
「……だから大丈夫。あなたが歩こうとするなら、ここで立ち止まってもいいし、また歩き出してもいい。どんな選び方をしても、あなたの人生はあなたのものよ」
彼女の声は、冬の陽だまりのように温かかった。トーマの胸に残っていた痛みをそっと包み込み、先ほど灯った小さな炎を消さぬように守ってくれる。
「ここでは、何も背負わなくていいの。一杯のコーヒーに癒されて、心が軽くなるだけでも……それは意味のある時間だと思うの」
トーマはカップを見つめながら、その言葉を静かに胸に受け止めた。背中を押されるような優しさが、確かにそこにあった。
トーマがカップを置いたとき、カウンターの奥でカディスが静かにカップを拭いていた手を止めトーマの方へ視線を向け口を開いた。
「君、名前は?」
不意の問いに、トーマは少し身を固くする。
「えっ……あ、トーマです」
カディスは頷き、続けて問う。
「トーマ。働いた経験は?」
「少しだけ....バイトをしていました。でも、うまくいかなくて……」
トーマの声が小さくなる。
「なるほどな」
カディスは一度だけ目を伏せ、磨いていたカップを棚に戻した。
「ここは、少し変わったカフェだ。客も店員も、それぞれ何かを抱えて来る」
低く響く声には、冷たさではなく静かな重みがあった。そして、わずかに口元を緩めて言う。
「トーマ、ここで働いてみるか?」
突然の誘いに、トーマは目を見開く。その一言が、まるで暗闇に差し込む光のように心の奥に届いた。
「え……?」
「客として癒されるのもいい。だが…居場所として探しているなら、この店で探してみろ。客ではなく仲間としてな。もちろん、無理にとは言わん。」
その声音は淡々としていたが、どこか試すような光を帯びていた。フィオラが柔らかく笑みを浮かべる。
「少しでもやってみたいと思うなら、私たちと一緒に過ごしてみましょう?」
トーマは思わず胸に手を当てた。まだ迷いはあったが、その奥で小さな期待が芽生えているのを、自分でもはっきり感じていた。
しばしの沈黙の後、トーマは息を整え、真っ直ぐに頷いた。
「……はい。やってみたいです」
声は震えていたが、その響きは確かだった。口にした瞬間、心の中で何かが軽くほどけるのを感じた。フィオラはトーマの返事を聞いて瞳がぱっと明るくなった。
フィオラはトーマの返事に思わず目を輝かせる。カディスも口元をわずかに緩め、短く言葉を落とした。
「悪くない選択だ」
カディスは棚から小箱をいくつか取り出した。中には店長たちが着けているループタイと同じものが整然と並んでいる。
カディスと同じ深い緑色、フィオラと同じ柔らかな桃色、そして他にもーー燃えるような紅色、琥珀を思わせるような黄金色、落ち着いた翠色、その他にも沢山の色があった。
「これはこの店で働く者の証だ。自分の好きな色を選ぶといい」
差し出された箱を前に、トーマはしばし迷う。やがて視線が自然に吸い寄せられたのは、深く澄んだ青。どこか寂しさも、静かな力強さも宿す瑠璃色ーーラピスラズリだった。
トーマはそれをそっと手に取った。
「……これを」
フィオラが両手を胸の前で合わせて、嬉しそうに声を弾ませる。
「良い色だね、とっても似合うと思う!これでトーマも私たちの仲間ね!」
胸の奥に温かさが広がり、トーマは自然と笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
フィオラとカディスは互いに顔を見合わせて同時に言った。
「「ようこそ、カフェ・ソリスへ。」」
その言葉に、トーマは初めて小さく笑みを浮かべた。店内に流れる温かな空気が、彼の心に居場所を見つけたと告げているようだった。
