完璧理系男子のギャップに勝てるわけがない

「構造自体はそれほど難しくない。作ってくれるか?」
「お……俺なんかでも、大丈夫?」

 目線をあげて、理太郎くんを見つめる。理太郎くんは無表情のまま首を傾げた。

「なんか、というのはよく分からないが……力になってくれると助かる」

 その言葉に、俺は言葉に詰まった。
 今俺は、ほぼ初対面の理太郎くんから頼りにされている。しかも理太郎くんは、俺が不義理をしまくった相手だ。
 それがただ申し訳ないだけじゃなくて、なんとも言えずむずがゆい。
 そわそわする気持ちをごまかすように、顎を引いてうつむいた。

「……そういうことであれば、力になりたい」

 途端に理太郎くんは、ほのかに微笑む。そっと俺の手元を覗き込んできた。その距離の近さにどきりとする。

「案外、作るのは簡単だ。ただ塩基を模したビーズはペアが決まっているから、そこだけ注意が必要かもしれない」
「そっか……」

 いや塩基ってなんだっけ? 習った記憶がないでもないけど、そこを聞くと説明の泥沼になる気がしたから、黙った。
 とはいえ完成図の写真が載っているから、なんとなくのイメージは湧く。

「検索したら作り方の動画も出てくるだろうし、予習しておくよ」

 美形の迫力ある顔の圧に負けそうだけど、にこりと笑いかける。紙をファイルに挟んでリュックにしまった。

 理太郎くんも無表情のまま「よろしく頼む」と顔を離す。
 そしてまた、じっと俺の顔を見つめていた。

「ど、どうかした?」

 どぎまぎしながら尋ねると、理太郎くんはさっと目を伏せた。

「いや。……なんでもない」

 ほんのり頬が赤い気がするけど、きっと気のせいだろう。だってそうなる理由もないし。
 それにしたっていきなりの下の名前呼びといい、距離の近さといい、こんな真面目な顔でちょっと距離感バグってるんじゃないかな。これで無口なんだからよく分からない。

 だけどそこも言葉を選ばずに言えば、面白いかも。

 ここで、完全下校のチャイムが鳴る。準備室から先生が出てきて、「帰れよー」と声をかけてきた。

「帰るか」

 理太郎くんがさっとリュックを背負ったから、俺も慌ててリュックを背負った。
 玄関でローファーへ履き替えて、校門へ向かう。
 ふと理太郎くんが、正面を向いたまま「朔くん」と呼びかけてきた。

「次の補講の日も、終わったら生物室へ来てくれ。部室の掃除が一段落したら、材料の買い出しに行く」
「ん。分かった」

 校門近くへ差し掛かって、俺は自転車置き場を指さした。

「じゃあ俺、自転車通学だから。理太郎くんは?」
「こちらは電車だ。それでは、また」

 相変わらずの武士のたたずまいで立ち止まり、ぴっちりとお辞儀をして、理太郎くんは去っていった。
 改めて見ると、歩き方すらきちんとしている。ぴんと伸びた背筋に、ほぼ一定の角度で揺れる腕、規則正しい歩幅。
 立ち居振る舞いが美しすぎる。その背中を見送ってから、俺は自分の自転車に乗った。

 下校すると言っても、俺はこれから今日も今日とて塾だ。
 親から来ていた「ご飯は家で食べる?」というメッセージに「こっちで食べるから用意しなくていいです」と返信して、自転車のスタンドを蹴り上げた。