完璧理系男子のギャップに勝てるわけがない

「朔くんのことが、好きになってしまった」

 言い切って、理太郎くんはその場へしゃがみこんだ。
 俺は慌ててしゃがんで「どうしたの」と肩を揺さぶる。

「どうしたのじゃないだろ……」

 理太郎くんにしては珍しく、心底恨めしげな声だ。俺は広い背中をさすりながら、「いやだって」と続けた。

「まだ言ってないこと、あるんじゃないかなと思って」
「ある。あるが、これ以上言っても余計に朔くんを傷つけるだけだと思って。すまない」
「あー、誤解。それ誤解ね」

 俺は全く傷ついていない。それどころか嬉しい。
 だけどこの後にどんな言葉が続くかによって、返事が変わる。

「全部言って。仮にそれで俺が傷ついたとしても、理太郎くんは悪くないよ」

 そう言うと、理太郎くんはちらりと俺を見上げた。ふっと力なく微笑む。
 弱り切った表情に色気を感じて、思わずどきりとした。

「……だから、僕が朔くんを買いかぶってると言われて、ショックだった。僕の恋心が幻覚だと言われたみたいで」
「うん」
「でも朔くんだって、僕を買いかぶって誤解しているだろうと思った……いや、思い込んでいた。朔くんは僕のことをなんでもできて、ヘテロセクシャルで、完璧な男だと思い込んでいると、僕が思い込んでいた」

 そして捨てられた子犬みたいな目で「実際のところ、どうなんだ?」と尋ねてくる。

 これはもう、完敗だ。かわいすぎる。
 かっこいい上にかわいいだなんて、全然そんな場合じゃないのにメロついてしまうじゃないか。

「分かった」

 俺は深く頷いた。理太郎くんの腕を掴んで、そっと引き寄せる。

「理太郎くんも僕を誤解してるよ。俺、普通に、同年代の人間全員が恋愛対象だからね」
「え?」

 理太郎くんが目を真ん丸に見開いて、俺を見つめた。ジー、という蛍光灯の焼ける音だけが響く。
 俺は恥ずかしさで逸らしてしまいそうな視線を、がんばって理太郎くんへ固定した。

「だからその、理太郎くんのこと、友達だけじゃなくて恋愛対象として、いいなー魅力的だなーって思ってたし」
「えっ!?」

 理太郎くんの顔だけじゃなくて、耳までが真っ赤になる。かわいいな。
 俺の口はどんどん滑らかになって、本音がどんどんもろもろとこぼれていった。

「そ、そりゃ最初は『幽霊部員していて悪かった』だけだったけど、だんだん理太郎くんがかっこよくて面白くて、理太郎くんのために何かしたいと思うようになったし」
「う、うん」
「でもそれって下心だなと思って、ちょっと苦しかった。あ、だから理太郎くんは本当に俺を買いかぶってたんだけど、これは普通に俺が悪くて」
「そうか……?」
「あとたくましいところとかエロ」

 これはさすがに言い過ぎだ。口をつぐんだ俺に、理太郎くんはうつむいてしまった。
 傷つけていたらどうしよう。慌てて尋ねる。

「ごめん。いやだった? いやだったよね……」

 いくら俺のことを好きだと言ってくれても、エロい目で見られていたというのは普通に嫌だろう。なんて失言をしてしまったんだ……。
 だけど理太郎くんは目を泳がせて「その」と言った。正直、満更でもなさそうな顔だ。

「ぼ、僕も……その、朔くんをそういう目で……」

 理太郎くんは一体、何を言っているんだ?
 宇宙のかなたの真理を見つけたら、こんな感じで頭が真っ白になるんだろうか。
 俺に、理太郎くんが、エロがっていた。
 他の誰かだったら、きっと気持ち悪く感じていたし、トラウマだったかもしれない。

 だけど好きな人からそう見られているというのは……正直びっくりしたけど、嬉しい……。
 理太郎くんも、俺が理太郎くんを好きなのと同じ気持ちで、俺を好きなんだ。

「え、え~……?」

 照れて上手く言葉が出ない。でも俺の仕草で満更でもないと分かったのか、理太郎くんはほっとした顔をした。

「その、じゃあ……僕と付き合うのは、朔くんとしてはアリなのか……?」

 ちょっと上目遣いで、うるうると濡れた目つきが色っぽい。
 禁欲的なのにエロいんだよな。理太郎くんはどこまで魅力的なんだ。
 ありがとう。俺に下心を持ってくれて。

「俺でよければ、その……よろしくお願いします」

 その瞬間、理太郎くんがいきなり地面へ転がった。魂が抜けたような感じで身体を震わせている。

「理太郎くん。さすがに地面へ寝ころぶのはまずいよ!」

 慌てて腕を掴んで、助け起こしてやる。理太郎くんは「すまない」と言いながら立ち上がった。
 改めてこうして顔を合わせると、俺よりずっと高いところに視線がある。肩幅はずっと広くて、身体も分厚い。
 その上優しくて、賢くて……。

 この人が、俺の恋人になった。
 そう思うと、全身に変な汗を掻いた。照れくさくて、嬉しくて、「この人俺と付き合うって言うんです」と叫んで回りたいような……。

「えっと……じゃあ、俺の自転車、一緒に探してくれる?」

 もちろんこんなのは、ただの口実だ。付き合いたての恋人と離れがたいだけだ。

 理太郎くんは分かっているのか分かっていないのか、「分かった」と頷いた。