あの日から。
社長は少しだけ変わった。
……いや。
変わったというより、前よりよく話しかけてくるようになった。
「望琴。」
「はい。」
「昼は食べたか。」
「え?」
思わず聞き返す。
「まだですけど……。」
「そうか。」
それだけ言って社長は歩いて行く。
「……?」
何だったんだ。
そう思っていると、数分後。
「坂城さん。」
月里さんが笑いながら近寄ってくる。
「社長が、食堂で待ってます。」
「え?」
「たまたま一人だったので、一緒にどうかって。」
「……。」
社長が?
俺を?
「早く行ってあげてください。」
「あ、はい。」
食堂へ行くと1人ぽつんと座る社長の姿が目に入る。
その光景はどこからどう見ても異様だった。
「社長。」
そう声をかける。
「座れ。」
「失礼します。」
向かい合って座る。
何だろう。
仕事の話だろうか。
そう思っていた。
でも、
「……。」
「……。」
静かだった。
仕事の話もない。
ただ、昼ご飯を食べているだけ。
「社長。」
「何だ。」
「何か話がありましたか?」
「ない。」
「え?」
「昼を食べるだけだ。」
「……。」
不思議な人だ。
でも、嫌じゃない。
この静かな時間が、妙に心地よかった。
その日の帰り際、
「望琴。」
そう呼び止められる。
「はい。」
「今日。」
「?」
「昼、ありがとう。」
「え?」
思わず立ち止まる。
社長がありがとう?
「そんな、お礼言われるようなことじゃ……。」
「いや。」
翔は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「楽しかった。」
「……。」
その一言に。
なぜか胸が少しだけ温かくなった。
翌日。
「社長。」
「何だ。」
月里さんがニヤニヤしていた。
「昨日のお昼。」
「……。」
「楽しかったですか?」
「……あぁ。」
「へぇ。」
「何だ。」
「いえ。」
「社長。」
「?」
「もう仕事を理由に誘うのやめません?」
「……。」
「坂城さん、普通に誘えば来ますよ。」
「……。」
翔は少しだけ黙る。
「……そういう問題じゃない。」
「じゃあ何です?」
「……。」
言葉が出ない。
そんな社長を見て月里は優しく笑った。
「社長。」
「?」
「怖いんですね、断られるのが。」
「……。」
翔は苦笑する。
図星だった。
