「達巳君、アニソン縛りカラオケやろうや」
「おっしゃ! やろうやろう」
楽しそうにタッチパネルを操作している亮太を見て、俺は嬉しくなるのと同時にちょっともやっとした気持ちも抱えていた。
亮太と友達になったのは、彼が鞄につけていたアニメのキャラクターぬいに気づいて、俺が声をかけたのがきっかけだ。ちょっとマイナーなアニメだったから、俺も驚いたし亮太もびっくりしていた。
共通の趣味を持つ友達ができて、亮太はよっぽど嬉しかったらしい。教室でいつも一人でいる彼が、アドレス交換したりこうやってカラオケに誘ってくれるだなんて、いまだに不思議な気分だ。
(圭吾……ほんまについてこんかったな)
せめて誰と遊びに行くのか、確認くらいには来ると思ったのに。
(交友関係に口出しするつもりはないってのは、マジだったんだな)
別に束縛されたいわけじゃない……と思う。
でも、付き合う前との落差があまりにも大きくて、ちょっと肩透かしをくらった気分だ。
(あ、そういえば……!)
ちょっと音程の外れた亮太の歌を聴きながら、俺は慌てて鞄からスマホを取り出した。
俺が誰かと遊びに行く日、どうしてもついて来れない事情があった時、圭吾は必ず鬼メッセージを送ってきていた。
一つ一つ返すのは面倒だったので、一時間ごとに一通返信、みたいな対応をとったものだ。
「……あれ、来とらん」
圭吾のアイコンは、俺が昔描いてやった下手くそな圭吾の似顔絵だ。
重なった似顔絵の通知が見られると思ったのに、綺麗な夕焼けの壁紙を遮るメッセージは一件も見当たらない。
(……アプリの通知設定、勝手にオフになったんか?)
念の為、メッセージアプリをタップして中まで確認したけど、圭吾からの新着メッセージは見当たらなかった。
直近の履歴に残っているのは、今朝の『おはようございます』と、昨日の『おはようございます。家の前で待ってます』だけだ。
「達巳君、次歌う?」
「あ、うん……」
「ごめん、なんか今日用事あったんかな?」
「えっ? 違うよ!」
申し訳なさそうな亮太の声に、俺は慌ててスマホをソファの上に放り出した。
「ごめん、俺スマホばっか見てて。めっちゃ感じ悪かったな」
「いや、こっちこそ。なんか用事あったのに誘っちゃったんかなって」
ポンッ、と通知が入った瞬間、俺は思わずスマホに飛びついていた。
「……なんだ、広告か」
「達巳君、誰かからの連絡待っとるん?」
「う〜ん、待っとるっていうか……」
俺はゴトンとスマホを机に置くと、小さくため息をついた。
「実はさ……ずっと友達だったやつと最近付き合うことになったんじゃけど」
「えっ、そうなん? おめでとう!」
「うん。でもさ、付き合いだしてから、そいつちょっとおかしくて」
「おかしい?」
「なんか妙に物分かりがいいというか。今日もさ、亮太と二人でカラオケ行くって言っても、なんもお咎めなしで」
「それは、相手が僕だからじゃないん?」
「いや、それはない。付き合う前は、相手が誰だろうと必ずついて来るって聞かんかったもん」
「ええ〜。すごい束縛強そうじゃねぇ」
亮太は感心しているのか怯えているのか分からない口調でそう言うと、カランと音を立てながらドリンクバーのジュースに口をつけた。
「達巳君のことすごい好きで、誰かに取られんかって不安だったんかな」
「……ってことは、今はもう取られても別に良くなったってこと?」
「えっ! それは違うと思うけど……」
俺もプラスチックのコップを持ち上げながら、少しの間考え込んだ。
告白されて、オッケーしたってことは——俺も圭吾のことが好きだと思われとるってことだから、それで安心したとか?
それなら、圭吾がカラオケについて来なかったのも理解できる。
そう口にすると、亮太も「ああ! それじゃん!」と納得していた。
「でもさ、好かれとる自信があるなら、普通遠慮とかなくなるもんじゃない?」
圭吾は逆だ。付き合う前の方が、よっぽど遠慮なくズカズカと踏み込んできていた。
「う〜ん、確かに」
(……そういえば)
ふっと急に気がついて、俺はもう一度スマホのメッセージアプリを開いた。
『おはようございます。家の前で待ってます』
『おはようございます』
深夜とか早朝のメッセージが来なくなっている。
まるで定時内の仕事みたいに、常識的な活動時間のメッセージのみ。
まだ付き合って二日しか経っていない。たまたま夢見が良くて、俺に連絡する必要がなかっただけかもしれない。
でも、この違和感は一体何だろう?
「達巳君、その人にカラオケついて来て欲しかったん?」
亮太にそう聞かれて、俺は慌ててスマホを机に戻した。
「違う違う! むしろついて来るって言われたらどうしよって悩んどったから、良かったんじゃけど……」
俺はそう言いながら、広告の流れているテレビ画面に視線をやった。
「もうちょっと、なんかあるかと思った。あまりにもあっさり引いたから……」
「ちょっとくらい『俺も行きたい』って言って欲しかったとか?」
「……そうなんかなぁ?」
それはそれで面倒くさい気がする。
多分、圭吾が俺の想定とは違う行動をするから、それに戸惑っているだけなんじゃないだろうか。
「ごめん。せっかくカラオケ誘ってくれたのに、なんか変な話して」
「いやいや! 別にずっと歌わんでもいいし。その話、僕も気になるから聞きたい」
亮太はにこりと笑うと、タッチパネルを一旦充電器に戻した。
「自分でも、何が不満なんか良く分からん。色々やってくれるし、束縛もせんくなったし、むしろ完璧なんじゃけど……」
「じゃあ達巳君は、その人と何したいん?」
俺は思わず、小動物のような亮太の顔を二度見した。
「俺が、して欲しいこと?」
「して欲しいっていうか、一緒にしたいこと」
鞄を担いだ圭吾の横で、手持ち無沙汰になった右手を思い出す。
「……手、繋いだり、とか?」
「うんうん。付き合っとるんじゃけぇ、当然よね」
「そう……当然よね……!」
そうだぞ圭吾。お前、一年間も指輪持ち歩くほど俺のことが好きなんじゃろ? だったら手ぇ繋ぎたいとか、普通そう思うもんなんじゃね?
その手は鞄を持つために付いとるんか!? 違うじゃろ!
「そう……俺、別になんもおかしくないよね?」
「おかしくないおかしくない。フツーの感情だって」
「よし! 次あいつに会ったら、俺手ぇ繋ごうって言ってみるわ!」
「いいじゃん! 男前!」
カラオケボックスのテーブルの上で、俺と亮太はがしっと力強く握手した。
「ありがとう! 亮太のおかげで、なんか勇気湧いて来たわ」
「良かった。いつでも話聞くけぇ、またカラオケ行こ」
「うん。あ、次、俺曲入れてもいい?」
「どうぞどうぞ。ってかさ、僕も達巳君ともっと仲良くなりたいとは思うけど、手ぇ繋ぎたいとは思わんし。不思議じゃね」
亮太の言葉に、俺は思わず自分の右手をじっと見下ろしていた。
俺も亮太とは、別に手ぇ繋ぎたいなんて思わん。
じゃあ、何で圭吾とは——?
「おっしゃ! やろうやろう」
楽しそうにタッチパネルを操作している亮太を見て、俺は嬉しくなるのと同時にちょっともやっとした気持ちも抱えていた。
亮太と友達になったのは、彼が鞄につけていたアニメのキャラクターぬいに気づいて、俺が声をかけたのがきっかけだ。ちょっとマイナーなアニメだったから、俺も驚いたし亮太もびっくりしていた。
共通の趣味を持つ友達ができて、亮太はよっぽど嬉しかったらしい。教室でいつも一人でいる彼が、アドレス交換したりこうやってカラオケに誘ってくれるだなんて、いまだに不思議な気分だ。
(圭吾……ほんまについてこんかったな)
せめて誰と遊びに行くのか、確認くらいには来ると思ったのに。
(交友関係に口出しするつもりはないってのは、マジだったんだな)
別に束縛されたいわけじゃない……と思う。
でも、付き合う前との落差があまりにも大きくて、ちょっと肩透かしをくらった気分だ。
(あ、そういえば……!)
ちょっと音程の外れた亮太の歌を聴きながら、俺は慌てて鞄からスマホを取り出した。
俺が誰かと遊びに行く日、どうしてもついて来れない事情があった時、圭吾は必ず鬼メッセージを送ってきていた。
一つ一つ返すのは面倒だったので、一時間ごとに一通返信、みたいな対応をとったものだ。
「……あれ、来とらん」
圭吾のアイコンは、俺が昔描いてやった下手くそな圭吾の似顔絵だ。
重なった似顔絵の通知が見られると思ったのに、綺麗な夕焼けの壁紙を遮るメッセージは一件も見当たらない。
(……アプリの通知設定、勝手にオフになったんか?)
念の為、メッセージアプリをタップして中まで確認したけど、圭吾からの新着メッセージは見当たらなかった。
直近の履歴に残っているのは、今朝の『おはようございます』と、昨日の『おはようございます。家の前で待ってます』だけだ。
「達巳君、次歌う?」
「あ、うん……」
「ごめん、なんか今日用事あったんかな?」
「えっ? 違うよ!」
申し訳なさそうな亮太の声に、俺は慌ててスマホをソファの上に放り出した。
「ごめん、俺スマホばっか見てて。めっちゃ感じ悪かったな」
「いや、こっちこそ。なんか用事あったのに誘っちゃったんかなって」
ポンッ、と通知が入った瞬間、俺は思わずスマホに飛びついていた。
「……なんだ、広告か」
「達巳君、誰かからの連絡待っとるん?」
「う〜ん、待っとるっていうか……」
俺はゴトンとスマホを机に置くと、小さくため息をついた。
「実はさ……ずっと友達だったやつと最近付き合うことになったんじゃけど」
「えっ、そうなん? おめでとう!」
「うん。でもさ、付き合いだしてから、そいつちょっとおかしくて」
「おかしい?」
「なんか妙に物分かりがいいというか。今日もさ、亮太と二人でカラオケ行くって言っても、なんもお咎めなしで」
「それは、相手が僕だからじゃないん?」
「いや、それはない。付き合う前は、相手が誰だろうと必ずついて来るって聞かんかったもん」
「ええ〜。すごい束縛強そうじゃねぇ」
亮太は感心しているのか怯えているのか分からない口調でそう言うと、カランと音を立てながらドリンクバーのジュースに口をつけた。
「達巳君のことすごい好きで、誰かに取られんかって不安だったんかな」
「……ってことは、今はもう取られても別に良くなったってこと?」
「えっ! それは違うと思うけど……」
俺もプラスチックのコップを持ち上げながら、少しの間考え込んだ。
告白されて、オッケーしたってことは——俺も圭吾のことが好きだと思われとるってことだから、それで安心したとか?
それなら、圭吾がカラオケについて来なかったのも理解できる。
そう口にすると、亮太も「ああ! それじゃん!」と納得していた。
「でもさ、好かれとる自信があるなら、普通遠慮とかなくなるもんじゃない?」
圭吾は逆だ。付き合う前の方が、よっぽど遠慮なくズカズカと踏み込んできていた。
「う〜ん、確かに」
(……そういえば)
ふっと急に気がついて、俺はもう一度スマホのメッセージアプリを開いた。
『おはようございます。家の前で待ってます』
『おはようございます』
深夜とか早朝のメッセージが来なくなっている。
まるで定時内の仕事みたいに、常識的な活動時間のメッセージのみ。
まだ付き合って二日しか経っていない。たまたま夢見が良くて、俺に連絡する必要がなかっただけかもしれない。
でも、この違和感は一体何だろう?
「達巳君、その人にカラオケついて来て欲しかったん?」
亮太にそう聞かれて、俺は慌ててスマホを机に戻した。
「違う違う! むしろついて来るって言われたらどうしよって悩んどったから、良かったんじゃけど……」
俺はそう言いながら、広告の流れているテレビ画面に視線をやった。
「もうちょっと、なんかあるかと思った。あまりにもあっさり引いたから……」
「ちょっとくらい『俺も行きたい』って言って欲しかったとか?」
「……そうなんかなぁ?」
それはそれで面倒くさい気がする。
多分、圭吾が俺の想定とは違う行動をするから、それに戸惑っているだけなんじゃないだろうか。
「ごめん。せっかくカラオケ誘ってくれたのに、なんか変な話して」
「いやいや! 別にずっと歌わんでもいいし。その話、僕も気になるから聞きたい」
亮太はにこりと笑うと、タッチパネルを一旦充電器に戻した。
「自分でも、何が不満なんか良く分からん。色々やってくれるし、束縛もせんくなったし、むしろ完璧なんじゃけど……」
「じゃあ達巳君は、その人と何したいん?」
俺は思わず、小動物のような亮太の顔を二度見した。
「俺が、して欲しいこと?」
「して欲しいっていうか、一緒にしたいこと」
鞄を担いだ圭吾の横で、手持ち無沙汰になった右手を思い出す。
「……手、繋いだり、とか?」
「うんうん。付き合っとるんじゃけぇ、当然よね」
「そう……当然よね……!」
そうだぞ圭吾。お前、一年間も指輪持ち歩くほど俺のことが好きなんじゃろ? だったら手ぇ繋ぎたいとか、普通そう思うもんなんじゃね?
その手は鞄を持つために付いとるんか!? 違うじゃろ!
「そう……俺、別になんもおかしくないよね?」
「おかしくないおかしくない。フツーの感情だって」
「よし! 次あいつに会ったら、俺手ぇ繋ごうって言ってみるわ!」
「いいじゃん! 男前!」
カラオケボックスのテーブルの上で、俺と亮太はがしっと力強く握手した。
「ありがとう! 亮太のおかげで、なんか勇気湧いて来たわ」
「良かった。いつでも話聞くけぇ、またカラオケ行こ」
「うん。あ、次、俺曲入れてもいい?」
「どうぞどうぞ。ってかさ、僕も達巳君ともっと仲良くなりたいとは思うけど、手ぇ繋ぎたいとは思わんし。不思議じゃね」
亮太の言葉に、俺は思わず自分の右手をじっと見下ろしていた。
俺も亮太とは、別に手ぇ繋ぎたいなんて思わん。
じゃあ、何で圭吾とは——?



