Soft-drink

 ギターと音楽室に置いてあった吹奏楽器たちに別れを告げ、自分の教室へと戻る。今度は教室の冷房をつけたままだったので、かなり涼しかった。
 無事に教室に到着しナップサックも回収したということでお弁当箱を取り出そうと思ったのだが、せっかく今日は誰もいないのだ。ということで普段であれば絶対にご飯を食べられないところでご飯を食べてみることにしてみた。
 学校探検を再開し、とある場所へと向かう。そこは僕の教室からさほど離れていなく、歩いて十秒ほどで到着する場所に位置する。そこは三年の教室がある廊下と、職員室前のティーチングラウンジと呼ばれるエリア、そしてそこの二つを結ぶ橋のような役割を果たしている「テラス」である。  
 ここは誰でも通行が可能で、昼休みになると女子ダンス部や野球部、カップルのような陽キャたちがこぞって集まってくるのだ。昼ご飯を食べていたり、ふざけてギャーギャー騒いでいたり、TikTokでよくわからない曲のダンスを撮っていたりなど、僕みたいな陰キャにはかなり近づきにくい場所なのである。
 それでも一度はここで食事をすることを夢見ていた。多くの友人に囲まれながら馬鹿話をして、恋愛について語って、スマホで一緒にゲームをする。そんな高校生活を受験生のころには夢見ていた。残念ながら現実はそう上手くいくわけもなく、友達も殆どできぬまま、毎日ぼっち飯か便所飯をしている。(便所で食べるのはあまりお勧めしない。理由はどうか察していただけると幸いだ)
 テラスの入り口から外へ出てみると相変わらず暑い。だが影があるところは意外と暑くない。むしろ少し涼しく感じることができるくらいだ。ハンディーファンがあると尚更涼しく感じる。しかもちょうど影があるところにベンチがある。これはラッキーだ。ベンチに座りながらご飯を食べることにした。
 今日のおにぎりの具は梅と唐揚げである。梅は酸っぱいけど、それが癖になる。梅の塩気がお米と合っていてすごく美味しい。暑いのでなかなか食欲は湧かないが、梅を食べることで夏バテ予防にもなる。運動部の方はぜひ試してみてほしい。そして唐揚げだ。唐揚げが唐揚げでもただの唐揚げではない。昨日の夜中から特性のタレに漬け込んでいた、タレ漬け唐揚げだ。このタレがジューシーな唐揚げとよく絡む。そして当然ながら白米ともよく合う。とてもワイルドな味わいで美味しい。あっという間におにぎり二個を食べきってしまった。
 一見ご飯の量が少なく見えるかもしれないが、おにぎりひとつひとつがかなりボリューミーなサイズ感なので、問題は全くない。この三年間もお弁当はおにぎり一筋で生きてきた。
 自分以外の人間がいなくなったということで、最初はかなり焦っていたが、時間が経つとこの状況にも慣れてきた。自分の適応性に驚きつつ、慣れてしまっている事実に恐怖もしている。
 だが本当になぜ、こつぜんと姿を消してしまったのか。ますます謎が深まるばかりである。館系の推理小説かなんかでよく、主人公の仲間がどんどん犯人に殺されていき、最終的に主人公が独りになってしまうという展開があるが、今の状況はそれに似ているのだろうか。つまり犯人がどこかにいて、そいつが僕以外の人間を殺した、または消したことになるのか。
 だが果たしてそんなこと有り得るのだろうか。アノニマスだとか別班だとか、そういう組織でもそれは不可能に近い気がする。そもそもそれならなぜ僕だけが生き残っているのだという話になる。僕だけを残す意味がないだろう。
 それならば「パラレルワールドに飛ばされてしまった」というのはどうだろうか。最近のアニメやMCUでもよく聞くパラレルワールドやマルチバース。何かの本で読んだが一応説としては唱えられているらしく、この宇宙はビックバンによって永久に広がり続けているというのが一般論なのだが、同じ宇宙が無数に存在するという多元宇宙論というのも唱えられているらしい。つまり、自分たちの住む地球と全く同じ世界が宇宙には無数に存在している、という考え方である。そして僕は、僕の住んでいる宇宙とは別の宇宙に飛ばされており、誰も存在していないが僕の住む世界と全く同じような世界に何かがきっかけで飛ばされてしまったのではないか。
 決して多元宇宙論を否定したいわけではないのだが、これもかなり馬鹿げている話だ。そもそもどうやってほかの宇宙に飛んできたのだ。宇宙に行ったことなんてない。
 ならば宇宙人かエイリアンにでも連れ去られたのか。可能性としてはあり得るのかもしれないが、これもあまり現実的には感じられない。
 ここまでいろいろ考えてきたが、正直もうこれ以上は何も思いつかない。考えれば考えるほど謎が深まっていくばかりだ。もしかしたら考えるだけ無駄なのかもしれない。
 とりあえず食事も済ませたことだし、まだ他にもやってみたかったことが色々あるので、できる限り全部やってみることにした。