Soft-drink

 そんなこんなで無事学校に到着した。自転車から降りた瞬間に急に汗が噴き出してくる。相変わらずひどい。駅へ行こうと歩いていて、ホームに到達した瞬間に汗が噴き出してくるあれと同じ現象だ。非常に鬱陶しい。「なんで自転車登校なんか選んだのだろう」と過去の自分を恨みたくなるが、選んでしまったものは仕方がない、と無理やり自分を納得させる。
 ハンカチを取り出し額の汗を拭いながら、空いているところを探そうとする。だがそこで違和感に気づく。いつもならば混みすぎていてなかなか停める場所が見つからないはずなのに、今日は驚くほど駐輪場がスカスカだったのだ。
 一応スマホを開きカレンダーアプリを起動すると、今日が閉庁日ではないことが確認できる。それならば登校可能日のはずだし、今の時間ならば既に何かしらの部活の生徒が登校してきているはずだ。確かに普段よりは空いていてもおかしくないが、ここまで駐輪場に自転車がほとんど停められていないのというは確実におかしい。
 そういえば自分語りに夢中になっていて忘れかけていたが、登校中は誰一人とすれ違うことはなかった。たしかに田舎ではあるので、人とすれ違うこと自体は少ないのだが、それでもここまで誰ともすれ違わなかったことなんて今まで一度もなかった。
 やはり家族だけではない。この世界から自分以外の人間が全員消えてしまっているのだ。
 いったいどうしたものか。これは本当なのか。これは現実なのか。やはりまだ夢の中にいるのかもしれない。いや、そうであってくれないと説明がつかないだろう。こんな非科学的なことがあるのか。アニメとか小説だとか、そういったフィクションでしか起きないようなことが今、現実で起きているのだ。
 体がふらつく。頭痛もする。軽い熱中症か脱水症状になっているのだろうか。うまく頭が回らない。足元もおぼつかず、一瞬転びそうになってしまう。
 祈りの気持ちも込めて僕は自分の頬を思いっきり、力任せに一発殴りこんだ。痛い。鋭い痛みが一瞬やってきた後から、じわじわと波紋のように、広がるような痛みがやってくる。「自分の頬をつねって痛みを感じなければそれは夢である」というような話をよく聞くが、あれは本当なのだろうか。何を証拠に唱えているのだろうか。そう考えたくなってしまうほどに、残酷な現実が痛みを伴って突き付けてくる。
 「夢ではない。これは現実である。」と。