Soft-drink

 自転車登校はとても良い。電車みたいに決められた時間までに駅に向かう必要もないし、自分のペースで楽に走ることができる。イヤホンで好きな音楽を聴き(本当は犯罪に当たる行為なのだが)川辺の心地よい風を身体全体で受け止めながら爽やかに登校することができる。
 また季節ごとの風景を楽しむことができることも自転車登校の良い点である。一日一日で見るとあまり変わっていないように感じたりするが、長い期間、例えば一ヶ月だとか半年だとか一年だとか。それくらいの長い期間で見てみると、実は全く異なった景色が見られるのだ。まさに諸行無常である。この世に不変などないのだ。自転車登校を選んだのも、それが理由のうちの一つだったりするのかもしれない。
 だがそのような爽やかな気持ちで登校できるのは春、秋、冬限定のものであって、夏になるとそれらすべてが恐ろしく不快なものへと変貌してしまう。
 まず、家から飛び出した瞬間に恐ろしいほどの熱波と太陽光が襲ってくる。この時点で体が外へ出ることを拒否する。
 だが行かなくてはならないものは仕方がない。諦めて自転車で急いで走っていると今度は全身から汗がとめどなく溢れてくるのだ。おかげでポロシャツが汗でびしょびしょになってしまう。学校に到着する頃には顔も、背中も、脇も、ありとあらゆるところから汗が噴き出てくる。もっと汗を出す以外に体を効率よく冷やす方法が絶対あったと思うのだが、人間として生まれてきてしまった以上これは仕方がないことだ。諦めるしかない。
 加えてもう一つ、嫌なことがある。それは「虫」だ。もしかしたら都会の方には全くいないのかもしれない。だがここは田舎、さらに川辺なのだ。蜂が飛んでいるし、トンボも飛んでいる。そしてなにより、意味が分からない数の小虫がそこら中を飛んでいるのだ。これが何より厄介なのだ。
 いくらぶつかりたくなくてもそこら中を飛び回っているので、強制的に群れの中に突っ込むことになる。そうすると口や鼻などの体中、服にまでまとわりついてくるのである。地獄だ。
 しかも服についた小虫は手で掃っても、なかなか離れてくれないのだ。こうなるともはや虫よけを塗った意味がなくなってしまう。
 更に今は夏であるということで、この虫のなかに蝉が追加される。特別向こうから何かを仕掛けてくる、ということはあまりないのだが、数が多いあまり鳴き声がうるさくて耳が壊れそうになるし、死んでいるように見える蝉に近づくと突然「ジジジジジ!」と大声で喚き始める通称蝉・ファイナルが発生したりする。これによる被害者は数知れないだろう。
 あとたまに自ら人間に飛んで近づいてくる、おそらく知能を持った蝉が現れることもある。こういうときはもうひたすらにその場から逃げるしかない。
 これから高校に入学するという人は、自転車登校を選ぶとこれらのようなことが起きることを十分理解したうえで是非、自らの登校スタイルを確立していって欲しい。
 だがやはり、景色を眺めながら登校できる点に関して自転車というものは最も優れているように感じる。電車よりも自分の道を開拓しやすいので、自分だけの景色を発見することができたりする。そういった素朴な風景を時折カメラに収めてやるのが自分の中の趣味であり、小さな楽しみでもあった。
 またこうやってどうでもいいようなことを考えられることもよい点だ。ここまで自転車の利点、不利点を長々と語ってきたわけだが、脳内の自分と永遠に語り合うことで気が付けば目的地に辿り着くことができるのだ。自分でも時々「あれ、もう着いたの?」と驚くことがある。遅刻寸前の時にするべきことではないが、もし時間に余裕がある場合は一度試してみてほしい。体感三十秒ほどで目的地に到着することが可能だ。