そして僕はこの物語の始まりである自室に戻ってきた。電気がついていないため部屋が非常に暗く、足元もおぼつかない状態である。だが僕は電気をつけようとはしなかった。もはやつける活力すら残っていなかった。
だが暗すぎるがあまり、誤って床に積み上げられていた教科書を蹴り飛ばしてしまった。散乱したうちの一つの教科書を持ち上げる。ページを開くとそこにはマッキーペンで「死ね」「馬鹿」「ゴミ」「カス」「学校に来るな」などの暴言が大きな字で書かれていた。
ああ、とそこで思い出す。今日一日色々ありすぎたせいで忘れかけていたけど、そういえば僕はずっとクラスのやつらからいじめられていたのだ。名前も顔も性格もよく知らないあいつらに。そしてそれを見て見ぬふりするクラスの人間たちに。
毎日のようにいじめてくるあいつらの死を願っていた。そしてそれを見て見ぬふりをするやつらの死も願っていた。学校へ行きたがらない僕を無理やりでも行かせようとしてくる家族の死も願っていた。事情を何も知らないくせに「私だけは君の味方だから」と平気な顔をして噓を吐く担任の死も願っていた。いじめがあるということを隠蔽しようとした学校の教師達の死も願っていた。僕の味方を誰もしてくれない、この世界すべての人間の死を願っていた。
結果的に僕の夢は叶った。誰かが叶えてくれたのだ。『全員、死んでしまえばいいのに』という僕の願いを。
夢が叶ったのならば普通の人は喜ぶものだ。それだというのに僕は深い闇の中に沈んでしまったような気持ちだった。すごく胸が苦しくて、呼吸もうまくすることができない。あれだけ世界中の人間を恨んでいたというのに、今となってはいなくなってしまった人間たちを渇望しているのだ。完全に話が矛盾している。
あれだけ探し求めていた「なぜ自分以外の人間がいなくなったのか」という問いの回答は「僕がそれを求めたから」、つまり原因は僕ということになるのだ。
なんて馬鹿な話だ。笑えてくる。ただの自業自得ではないか。
だとすればもう、「どうするべきか」の回答はただ一つである。
僕はカーテンを避けてから窓を開けた。すると生ぬるい風が部屋に流れ込んでくる。その風に合わせてカーテンが揺れる。
ああ、綺麗だ。思わず息が漏れる。やはり登校中の景色よりも、学校の窓からの景色よりも、ずっと過ごしてきた家の窓からの景色がいちばん美しいではないか。
手すりに手をかけてよじ登る。窓から身体を乗り出す。髪が風に揺れてなびく。
窓から顔を突き出して地面の方を眺める。十分な高さがあることを確認してから、僕は目を瞑った。自分でこの事態を招いたのだ。これはある意味自分自身への罰だ。ならばどう償うか。
遅かれ早かれこれを実行する予定はあったし、思った以上にそれを早く迎えてしまった。ただそれだけだ。これはただのアクシデントだったのだ。
今までは誰かに迷惑がかかるから、と自分で言い訳をしていた。でも結局、怖かっただけなのだ。その一歩を踏み出す勇気がなかった、たったそれだけの理由なのだ
でも、今なら誰もいない。この世界には僕一人だけなのだ。それなら、誰にも迷惑なんかかかることないじゃないか。
僕は自分の身を空中に投げ出した。
永遠のように感じる長い風切り音が聞こえてくる。そのすぐ直後に何か鈍い音がドン、と聞こえてきた。まるでペットボトルが受け取り口に落ちてくるような音だ。
もうほとんど何も見えないはずなのだけど、目の前にまるでトマトを撒き散らしたようなものが見えた気がする。しかもそれは僕の身体から飛び出したようにも見えた。
機能しているのかどうかもよくわからない鼻に、僅かな鉄のような匂いが漂ってきた。
ああ、これでようやく解放される。
僕は、静かに目を閉じた。
だが暗すぎるがあまり、誤って床に積み上げられていた教科書を蹴り飛ばしてしまった。散乱したうちの一つの教科書を持ち上げる。ページを開くとそこにはマッキーペンで「死ね」「馬鹿」「ゴミ」「カス」「学校に来るな」などの暴言が大きな字で書かれていた。
ああ、とそこで思い出す。今日一日色々ありすぎたせいで忘れかけていたけど、そういえば僕はずっとクラスのやつらからいじめられていたのだ。名前も顔も性格もよく知らないあいつらに。そしてそれを見て見ぬふりするクラスの人間たちに。
毎日のようにいじめてくるあいつらの死を願っていた。そしてそれを見て見ぬふりをするやつらの死も願っていた。学校へ行きたがらない僕を無理やりでも行かせようとしてくる家族の死も願っていた。事情を何も知らないくせに「私だけは君の味方だから」と平気な顔をして噓を吐く担任の死も願っていた。いじめがあるということを隠蔽しようとした学校の教師達の死も願っていた。僕の味方を誰もしてくれない、この世界すべての人間の死を願っていた。
結果的に僕の夢は叶った。誰かが叶えてくれたのだ。『全員、死んでしまえばいいのに』という僕の願いを。
夢が叶ったのならば普通の人は喜ぶものだ。それだというのに僕は深い闇の中に沈んでしまったような気持ちだった。すごく胸が苦しくて、呼吸もうまくすることができない。あれだけ世界中の人間を恨んでいたというのに、今となってはいなくなってしまった人間たちを渇望しているのだ。完全に話が矛盾している。
あれだけ探し求めていた「なぜ自分以外の人間がいなくなったのか」という問いの回答は「僕がそれを求めたから」、つまり原因は僕ということになるのだ。
なんて馬鹿な話だ。笑えてくる。ただの自業自得ではないか。
だとすればもう、「どうするべきか」の回答はただ一つである。
僕はカーテンを避けてから窓を開けた。すると生ぬるい風が部屋に流れ込んでくる。その風に合わせてカーテンが揺れる。
ああ、綺麗だ。思わず息が漏れる。やはり登校中の景色よりも、学校の窓からの景色よりも、ずっと過ごしてきた家の窓からの景色がいちばん美しいではないか。
手すりに手をかけてよじ登る。窓から身体を乗り出す。髪が風に揺れてなびく。
窓から顔を突き出して地面の方を眺める。十分な高さがあることを確認してから、僕は目を瞑った。自分でこの事態を招いたのだ。これはある意味自分自身への罰だ。ならばどう償うか。
遅かれ早かれこれを実行する予定はあったし、思った以上にそれを早く迎えてしまった。ただそれだけだ。これはただのアクシデントだったのだ。
今までは誰かに迷惑がかかるから、と自分で言い訳をしていた。でも結局、怖かっただけなのだ。その一歩を踏み出す勇気がなかった、たったそれだけの理由なのだ
でも、今なら誰もいない。この世界には僕一人だけなのだ。それなら、誰にも迷惑なんかかかることないじゃないか。
僕は自分の身を空中に投げ出した。
永遠のように感じる長い風切り音が聞こえてくる。そのすぐ直後に何か鈍い音がドン、と聞こえてきた。まるでペットボトルが受け取り口に落ちてくるような音だ。
もうほとんど何も見えないはずなのだけど、目の前にまるでトマトを撒き散らしたようなものが見えた気がする。しかもそれは僕の身体から飛び出したようにも見えた。
機能しているのかどうかもよくわからない鼻に、僅かな鉄のような匂いが漂ってきた。
ああ、これでようやく解放される。
僕は、静かに目を閉じた。
