約束の水曜日は、朝から晴れていた。
四限が終わると、俺はテキストをリュックに突っ込んで、正門前に向かった。
門の前には、まだ誰もいない。
約束は五時。腕時計を見る。十五分前――完璧だ。
ダッシュで来てしまったけど、変なとこ、ないよな。
スマホのインカメを開いて、さっと確認する。少し跳ねた前髪を指で直して、シャツの襟も整えた。
……いや、ラーメン食べに行くだけだけど。
もう一回腕時計を見る。まだ三分しか経ってない。
スマホでメールを確認して、時計表示を見る。十分前。
五分前。
……来るよな?
先輩は、一度した約束をなかったことにするような人じゃない。……たぶん。
手に持ったガイドブックをぎゅっと握り締める。
そのとき、校舎のほうから見覚えのある黒いシャツが近づいてきた。
来た。
気づいたら二、三歩そっちへ駆け出していた。
はっとして、何事もなかったみたいに歩き直す。誤魔化したつもりだけど、たぶん、だいぶ変な動きだった。
「……もう来てたのか」
「もちろんです! 四限終わって速攻きました」
「早すぎだろ」
「遅れるよりいいじゃないですか!」
先輩が呆れたように息を吐いて、先に歩き出した。俺は慌ててその横に並ぶ。
授業を終えた学生たちが、ぞろぞろと駅のほうへ流れていく。友達同士で笑いながら歩くやつ、イヤホンをつけて一人で帰るやつ。
その中を、俺は先輩と二人で歩いてるんだ。
「で、今日はどこ?」
「えっと、ここから歩いて十分くらいの店です!」
「ああ、鶏のとこ?」
「えっ、知ってるんですか」
慣れた口ぶりに、思わず隣を見上げる。
「あの路地入ったとこだろ。行ったことはないけど」
「あー、よかった……」
「何が」
「一軒目から食べたことある店だったら悔しいじゃないですか!」
「……ふーん」
「そこ、すっごい地味なんですよね。でもレビューの点が異常に高くて。その割に写真が少ないんですよ。つまり、写真撮る前に完食しちゃう味ってことです」
「どういう理屈だよ」
そう言った先輩の歩く速度が、ふっと落ちた。
俺のほうが背が低いぶん、歩幅も狭い。さっきまでは一歩ぶん先を歩いていたのが、いつのまにか隣に並んでいる。
……やっぱり、先輩こういうとこ。
俺は顔に出そうになるのを、必死でこらえた。
* *
四限が終わると、俺はテキストをリュックに突っ込んで、正門前に向かった。
門の前には、まだ誰もいない。
約束は五時。腕時計を見る。十五分前――完璧だ。
ダッシュで来てしまったけど、変なとこ、ないよな。
スマホのインカメを開いて、さっと確認する。少し跳ねた前髪を指で直して、シャツの襟も整えた。
……いや、ラーメン食べに行くだけだけど。
もう一回腕時計を見る。まだ三分しか経ってない。
スマホでメールを確認して、時計表示を見る。十分前。
五分前。
……来るよな?
先輩は、一度した約束をなかったことにするような人じゃない。……たぶん。
手に持ったガイドブックをぎゅっと握り締める。
そのとき、校舎のほうから見覚えのある黒いシャツが近づいてきた。
来た。
気づいたら二、三歩そっちへ駆け出していた。
はっとして、何事もなかったみたいに歩き直す。誤魔化したつもりだけど、たぶん、だいぶ変な動きだった。
「……もう来てたのか」
「もちろんです! 四限終わって速攻きました」
「早すぎだろ」
「遅れるよりいいじゃないですか!」
先輩が呆れたように息を吐いて、先に歩き出した。俺は慌ててその横に並ぶ。
授業を終えた学生たちが、ぞろぞろと駅のほうへ流れていく。友達同士で笑いながら歩くやつ、イヤホンをつけて一人で帰るやつ。
その中を、俺は先輩と二人で歩いてるんだ。
「で、今日はどこ?」
「えっと、ここから歩いて十分くらいの店です!」
「ああ、鶏のとこ?」
「えっ、知ってるんですか」
慣れた口ぶりに、思わず隣を見上げる。
「あの路地入ったとこだろ。行ったことはないけど」
「あー、よかった……」
「何が」
「一軒目から食べたことある店だったら悔しいじゃないですか!」
「……ふーん」
「そこ、すっごい地味なんですよね。でもレビューの点が異常に高くて。その割に写真が少ないんですよ。つまり、写真撮る前に完食しちゃう味ってことです」
「どういう理屈だよ」
そう言った先輩の歩く速度が、ふっと落ちた。
俺のほうが背が低いぶん、歩幅も狭い。さっきまでは一歩ぶん先を歩いていたのが、いつのまにか隣に並んでいる。
……やっぱり、先輩こういうとこ。
俺は顔に出そうになるのを、必死でこらえた。
* *

