先輩、卒業までに俺とラーメン屋50軒制覇してください!

 十一月に入ると、夕方の風がすっかり冷たくなった。
 店の外に並んでいても、湯気の立つ丼を想像するだけで温まるような気がするのは、この季節ならではだ。
「ラーメンが恋しくなる季節だなーっと。お前らには関係なさそうだけど」
 夏の間は「暑い日にラーメンとか無理」とほとんど姿を見せなかった濱本先輩が、久しぶりに乱入してきた。三人でカウンターに並ぶ。庄崎先輩は、コートを綺麗に折りたたんで、足元の荷物かごに入れた。
 ラーメンを待つ間、ふと思い出したように、庄崎先輩がこちらを向いた。
「来週の水曜、セミナーが入って行けなくなった」
「えっ」
 来週は、予約必須の人気店だった。一か月前から予約を取って、楽しみにしていたけど――セミナーなら仕方ない。
「わかりました。じゃあまた次――」
「お前、確か予約してたよな」
「あ、はい、でも」
 まだキャンセル間に合うんで、と言いかけたところで、濱本先輩が身を乗り出した。
「じゃー俺と行こうか、シオ」
「駄目だ」
 俺が反応するよりも早く、庄崎先輩が短く言った。俺も、濱本先輩も、一時停止みたいに一瞬動きが止まる。
「なんで?」
「……予約、俺が取り直す」
 濱本先輩が、ゆっくり庄崎先輩を見る。その口元はいつもより楽しそうに笑っているけど、何も言わない。
 ……なんだろう、この間。
 俺が予約したのを気にしてくれてるんだろうか。それとも、キャンセル料がもったいないとか? 先輩は律儀だから、そういうこと、かも。
「なるほどねー」
「……」
 庄崎先輩は何も答えず、頬杖をついて厨房のほうへ視線を逸らした。
  
 =====
 29軒目 11月XX日 くもり
 先輩:塩、チャーシュー
 俺:醤油、のり
 濱本先輩:醤油(大盛)
 
 久しぶりの濱本先輩乱入。ちょっと研究室の話してた。
 来週は延期! 先輩が予約取り直してくれた。
 =====