不毛だと言われても、百年先まで君が好き

 僕と海君は、坂之上高校に無事に合格した。僕は学力が足りなくて少し危なかったみたいだけれど、先生が内申書を上手く書いてくれたみたい。ありがたいな。

 そういう訳で、僕と海君は一緒の高校に通うことになった。


 高校初めての夏休みに入って、海君は毎日部活でクタクタなんだけど、水曜だけ部活が休みだから、海君の家に遊びに行くことになった。

 海君の家は、僕の家から徒歩30分くらいの北の方にある。時々行ったことがあるから場所は覚えてる。大きな公園の近くの、アパートだ。お母さんと二人で暮らしてる。お母さんは、看護婦さんで、忙しくてあんまり家にいないから、海君、何でも一人でできちゃう。

 洗濯、干したり、たたんだり、料理だってとっても上手。家庭科の授業の時、包丁で切った野菜が一番綺麗だったもの。
 お掃除も皆が届かないところ、ひょいって拭いてくれるし、散らかしたらすぐ片付けるし。とっても立派だと僕はいつも思ってた。

 海君の家に着いて、インターホンを押すと、薄いドアがカチッて開いて、中から私服の海君が出てきた。海君はとても背が高いから、扉の天辺に頭をぶつけそうで、少し屈んで僕を見て微笑んだ。

 「サツキ、待っていたよ、入って」
 「うん、お邪魔します」
 「かぁさん、今日は夜勤だから……さっき、出てったんだ。これ、一緒に食えって、ハンバーガーとかポテト山盛り置いてった、後で食べよ」
 「わぁ、嬉しいな」

 僕の家はあんまり外食しなくて、しかも、ハンバーガー屋さんにはほぼ行ったことない。このポテト、海君の家に来ると高確率で食べられて、僕の大好物。お塩が利いててどんどん食べちゃうやつだね。

 「何か飲む?ジュースあるけど」
 「あ、海くん、ジュースと、お菓子買ってきたよ、はいどうぞ」
 「おーーさんきゅ」

 ペットボトルのジュースだから、コップ要らなくて洗わなくて済むし。

 コンビニで買ってきたばかりの冷え冷えのペットボトルを開けた。海君は、コーラで、僕はオレンジ。

 「あーおいし」
 「ね」

 まだお昼には少し早い時間だけど、目の前にあるポテトを見てたら、食うかって、ハンバーガーひとつと、ポテトの包み紙を広げてくれた。ポテトを一つつかむとまだ温かかった。

 「サツキは、ポテト好きだな」
 「だって美味しいもん」
 「あんまり食べると、ニキビにならない? 綺麗な顔にできたらやだな」
 「ええっ? でもおでことか時々できるよ」
 「ん? 見せてみ」
 「ほら、ここ前に……」

 前髪を上げて、海君に顔を近づけた。海君の目が目の前にあって、一瞬だけピリッとした何か得体の知れない緊張が走って、海君が眉をひゅっと寄せて、僕の手を掴んだ。

 「サツキ、キスしても良い?」
 「ん?」

 僕は前髪を押さえたまま、魔法にかけられたみたいに動けなくて。そのまま海君が何をするのかじっと見ていた。海君は、僕の耳から頬にかけて、指先で触れて、親指の腹でそっと唇をなぞった。その感覚がくすぐったくて笑おうとしたら、海君の顔が近づいてきて、僕の唇と海君の唇が重なって、カサッとした、乾いた唇のひんやりとした感覚にびっくりして、思わず僕は、小さな声で、アッ、て呟いた。


 ──何で海君は、僕にキスをしてるのかな?

 外国では親愛なる人にキスを贈るっていうけど、僕たちは日本人だし。いくら、親愛なる人でも……キスは恋人としかしないのに。

 海君の瞳の上の睫が、ふるふると揺れてる。何か怖がるみたいな顔をしてるから、もしかして、別にキスしたくなかったけど、ついしちゃったのかな? と思った。

 僕たちの心って今は心がコロコロ変わる時期だし、海君、誰かとキスしてみたかったのかも。練習の一つとして、僕なら何をしても怒らないしということなのかなと、だから、僕は、海君とのキスを受け入れた。

 だって、海君が僕にひどいことしたことなんか一度もなかったし、これからも無いって知ってたから。それくらい、ずっと、海君は僕に優しくて親切で、頼りになるひとだった。