体育館から、逃げるように外にでると、もう夕暮れ。真っ赤な空がなんだか不吉で胸が苦しい。
「サッちゃん、海君を待ってるの?」
声のした方を振り向くと、ちょうどミオちゃんが鞄を片手に歩いてくるところだった。
「違うよ、ちょっとだけ見てただけ」
「あらまぁ、お熱いことで。まったく、男同士の恋愛なんて不毛なのにあんたたちときたら、お互いしか見えてないんだもん、やんなっちゃう」
プイッと歩き始めたミオちゃんの後に付いて歩きながら、『不毛なのに』という言葉がどういうことか分からなくて、質問する。
「不毛ってなんで?」
「だ~って、将来子供も持てないし、親兄弟は反対するかもだし~仕事先でも意地悪とか悪口言われたり?ま、今どき珍しいことじゃないから、あんたは反対なんかされないと思うけど、子供も別にどうしても欲しければ養子縁組とかあるみたいだし、でもどうせあんたたちは、二人っきりで……って、え? サッちゃん、どうしたの」
ミオちゃんの口からペラペラと出た言葉に、僕は真っ青になった。
──確かに不毛だ。僕のせいで、海君みたいな素晴らしい人が人から悪く言われるどころか、子供もできないなんて!
「ちょ、サッちゃん、うそうそ、ちょっと嫉妬で口が悪くなっただけ! ごめんて、そんなの気にしなくていいから、あーーえっと、あ、愛の力で乗り越えられるから!」
「そんなの……無理だよ」
僕はミオちゃんの慰めを振り切って、走り出した。そんなに足は速い方じゃないけど、ミオちゃんは追い付けない。走って走って、自分の家の部屋に飛び込むと、崩れるようにドア前に座った。
──海君の邪魔になる、僕の恋は、きっと海君の邪魔になる。
さっきまで、歴史の先生になれたらなんて淡い生まれたばかりの夢は弾けとんで、美人なマネージャーさんだとか、カッコいい海君だとか、ミオちゃんの言葉だとかが頭の中をグルグルと回る。
そして、どう考えても、僕は海君の邪魔にしかならない。
「わ、別れなきゃ」
はやく別れて、海君を普通にしてあげなきゃ。僕がそばにいることで、海君が人から悪く言われるなんてあってはならない。そんなのは嫌だった。僕のなによりも、誰よりも尊敬する人を悪く言われるのは。
「でも……」
海君と喋れなかった数ヶ月、どんなに寂しくて悲しかったか。あれがずっと続くのかと思うと、別れを切り出すのは怖い。
別れたら海君と誰かが、付き合ってしまうし、海君が誰かを大切にしているところなんか見たくない。ひどく我が儘で自己中心的な考え方が僕の中にある。
『嫌だ、怖い、でも』が心の中で振り子みたいに行ったりきたり。もう考えたくない。心のままに海君といたい。
その時、鞄の中のスマホが鳴った。こないだ海君にセットしてもらった、海君専用の着信音。つまりは、海君からの電話だ。
僕は急いで鞄からスマホを取り出し、画面をじっと見つめた。
受話器の形の通話ボタンを押そうとしてためらう。
──まだ別れるなんて言えない。
海君との幸せな未来に自分が混ざり込んでいるのを、願いみたいな未来を、今すぐに手放すのは無理だった。
「ご、ごめんね……海君」
海君の幸せを願いながら、自分の気持ちを捨てられない僕のなんと浅ましいことか。こんな僕を知ったら、海君はますます僕を嫌うかもしれない。
海君に嫌われたくないという思いが強すぎて、指が動かない。僕は蝋人形みたいに固まったまま、じっと鳴り騒ぐスマホを見つめていた。
「サッちゃん、海君を待ってるの?」
声のした方を振り向くと、ちょうどミオちゃんが鞄を片手に歩いてくるところだった。
「違うよ、ちょっとだけ見てただけ」
「あらまぁ、お熱いことで。まったく、男同士の恋愛なんて不毛なのにあんたたちときたら、お互いしか見えてないんだもん、やんなっちゃう」
プイッと歩き始めたミオちゃんの後に付いて歩きながら、『不毛なのに』という言葉がどういうことか分からなくて、質問する。
「不毛ってなんで?」
「だ~って、将来子供も持てないし、親兄弟は反対するかもだし~仕事先でも意地悪とか悪口言われたり?ま、今どき珍しいことじゃないから、あんたは反対なんかされないと思うけど、子供も別にどうしても欲しければ養子縁組とかあるみたいだし、でもどうせあんたたちは、二人っきりで……って、え? サッちゃん、どうしたの」
ミオちゃんの口からペラペラと出た言葉に、僕は真っ青になった。
──確かに不毛だ。僕のせいで、海君みたいな素晴らしい人が人から悪く言われるどころか、子供もできないなんて!
「ちょ、サッちゃん、うそうそ、ちょっと嫉妬で口が悪くなっただけ! ごめんて、そんなの気にしなくていいから、あーーえっと、あ、愛の力で乗り越えられるから!」
「そんなの……無理だよ」
僕はミオちゃんの慰めを振り切って、走り出した。そんなに足は速い方じゃないけど、ミオちゃんは追い付けない。走って走って、自分の家の部屋に飛び込むと、崩れるようにドア前に座った。
──海君の邪魔になる、僕の恋は、きっと海君の邪魔になる。
さっきまで、歴史の先生になれたらなんて淡い生まれたばかりの夢は弾けとんで、美人なマネージャーさんだとか、カッコいい海君だとか、ミオちゃんの言葉だとかが頭の中をグルグルと回る。
そして、どう考えても、僕は海君の邪魔にしかならない。
「わ、別れなきゃ」
はやく別れて、海君を普通にしてあげなきゃ。僕がそばにいることで、海君が人から悪く言われるなんてあってはならない。そんなのは嫌だった。僕のなによりも、誰よりも尊敬する人を悪く言われるのは。
「でも……」
海君と喋れなかった数ヶ月、どんなに寂しくて悲しかったか。あれがずっと続くのかと思うと、別れを切り出すのは怖い。
別れたら海君と誰かが、付き合ってしまうし、海君が誰かを大切にしているところなんか見たくない。ひどく我が儘で自己中心的な考え方が僕の中にある。
『嫌だ、怖い、でも』が心の中で振り子みたいに行ったりきたり。もう考えたくない。心のままに海君といたい。
その時、鞄の中のスマホが鳴った。こないだ海君にセットしてもらった、海君専用の着信音。つまりは、海君からの電話だ。
僕は急いで鞄からスマホを取り出し、画面をじっと見つめた。
受話器の形の通話ボタンを押そうとしてためらう。
──まだ別れるなんて言えない。
海君との幸せな未来に自分が混ざり込んでいるのを、願いみたいな未来を、今すぐに手放すのは無理だった。
「ご、ごめんね……海君」
海君の幸せを願いながら、自分の気持ちを捨てられない僕のなんと浅ましいことか。こんな僕を知ったら、海君はますます僕を嫌うかもしれない。
海君に嫌われたくないという思いが強すぎて、指が動かない。僕は蝋人形みたいに固まったまま、じっと鳴り騒ぐスマホを見つめていた。

