不毛だと言われても、百年先まで君が好き

 夢について、よく作文を書かされてきた。夏休みの宿題、二分の一成人式の日、卒業文集、新年度の目標。その度に、僕は書くことがなくて、いつも困っていた。ずっと続けていることなんか無かったし、ただ気がついたら海君のそばにひっつき虫みたいにくっついてただけ。

 もう高校三年生なのに、未だに夢がないことが無性に恥ずかしかった。何かを探すみたいに、教科書をパラパラと捲ってみたけど、当然のようにそこに答えもヒントもない。

 大学を受けるにしても、学科を決めなきゃだし、その学科は夢に繋がるものだから、夢がない僕には学科も決まらない。とりあえずの文系とだけ。

 どうして僕はこんなに空っぽなんだろう。ノートにグルグルとシャーペンで円を書きながら落ち込む。今まで生きてきたことがどこにも繋がらない。好きなことって……どうやって見つけるの?

 海君がプロになって、有名になっていったら、何にもない僕のことなんか忘れちゃわないかな。だって、僕と付き合ってたってなにも得になることがない。びっくりするくらい何ももってない僕を海君はいつまで好きでいてくれるかな。

 はーー。

 僕は大仰なため息をはいて、とりあえず放課後図書室へ行って……考えることにした。



 

 放課後の図書室は、シンと静まり返っていた。係の人が二人静かに受付に座っているだけで、あとはがらんとして誰もいない。

 適当に、本棚を眺めながら歩く。仕事に関する本を手に取りペラペラめくる。飛行機や電車の運転手、お医者さん看護師さん、整体師さんに調理師さん、栄養士さんに、保育士さん、消防士に警察官、スーパーの店員さんに、ホテルの従業員、漫画家に小説家、国語の先生、体育の先生。色んな職業がある。

 「国語の先生かぁ……でも僕、国語より歴史の方が好きかも」

 昔から、歴史の本をよく読んでた。古代エジプトから、中国の三国志、イギリスやフランスの貴族、日本の平安鎌倉、とくに鎌倉時代が好きでそこから、戦国時代の武将もたくさん覚えた。大きくなったらお城巡りとかしてみたいって思っていたし。

 「歴史の先生になりたいなんて、単純かなぁ……でもきっと勉強したら楽しいだろな」

 自分の心の中に、何もないと思っていたのに、好きがあった。そのことが、物凄く嬉しくて、海君に話したくなった。本を閉じると、鞄を持って足早に図書室をでた。

 体育館の二階から海君を見よう。

 はやる気持ちのままに、僕は体育館へ行くと、二階に上ってこっそりとコートを見た。

 「居た。海君……一番背が高いからすぐわかる」

 海君は、汗だくでボールを持って立っていた。ちょうど試合が今、終わったところだろうか。ユニフォームで汗ふいて、2リットルのポカリを片手でもってがぶ飲みしてる。

 すると、ジャージ姿の女の人が、海君に何かを言って……海君の顔にタオルをぐいっとおしつけて、笑ってた。

 ズキンと、胸が痛む。

 「あ、あれ?」

 仲の良い二人を見ているのなんだか嫌でたまらない。なんであの人は海君にばっかり構うの?
 他の人もいるのに……海君ばっかり。

 海君を見にきたはずなのに、いつの間にか、女の人を目で追ってた。その人は、海君と離れたあともずっと海君を見てる。

 強い執着……他の人とは明らかに違う。

 ──あの人、海君のことが好きなんだ。

 そうだった。海君はモテるのだ。バスケ部のキャプテンでエースで、人望もあって、笑顔が爽やかで、背が高くて、数学が得意で……将来はプロになる。

 ──そんな人の横に僕みたいなのがいて良いの?

 海君を好きな女の人、ポニーテールのとっても可愛い子だった。マネージャーさんなのだろうけど、海君専属みたい。……とっても、お似合いだった。