初回イベントをリンゴ三箱の犠牲だけで『正常に異常終了』させてから、約二時間後のこと。
私は夕暮れの王都郊外へ来ている。
視界の隅では、先ほどからずっと不穏な表示が点滅している。
【SYSTEM】『勇者による救出イベント:準備中』
【SYSTEM】『敵性個体:3』
【SYSTEM】『推奨発生地点を検索中……』
どうせ襲われるなら、街中より誰もいない場所の方がいいと思ってここに来た。
ここなら、買ったばかりの魔導書を読んで仮説を立てた『魔法術式の書き換えテスト』も盛大にできる。そう考えて自らテスト環境(郊外)へやってきてしまう私も、たいがい前世の職業病だった。
「来るなら来なさい。受け入れテストくらいはしてあげるわ」
【SYSTEM】『推奨発生地点を決定しました』
【SYSTEM】『Event(イベント):スライムの奇襲!』
【SYSTEM】『勇者による救出イベントを開始します』
「なるほど、補正イベントだから雑魚モンスターで十分ってことね」
私が少しだけ安堵した、次の瞬間。
ボコッ。
足元の地面が隆起した。
ボコッ、ボコボコボコッ!
三方向の泥が、同時に爆発する。
夕日を遮り、巨大な紫色の塊が三体、地面から飛び出した。
「こわっ」
プルプルした可愛い水滴型のモンスターを想像していた私の顔が、一瞬だけ引きつる。
目の前に現れたのは、一体ごとに馬車ほどの大きさがある粘液のバケモノだ。
粘つく体表から、じゅうじゅうと音を立てて溶解液を垂らしている。液が落ちた草は一瞬で枯れ、石からは白い煙が上がった。
しかも、サメのような鋭い牙まで生えている。一般的なスライムの可愛げは、企画会議の段階で削除されたらしい。
【SYSTEM】『推奨行動:悲鳴を上げる』
「却下!」
ウィンドウを横へ払う。
【SYSTEM】『推奨台詞:きゃあああ! 誰か助けて!』
「却下却下!」
【SYSTEM】『推奨ポーズ:恐怖でその場へへたり込む』
「牙を剥いてる敵の前で座らせるな!」
【SYSTEM】『推奨表情:涙目』
【SYSTEM】『推奨衣装状態:肩口に軽度の損傷(服が破ける)』
「演出が細かすぎる!」
三体の凶悪なスライムが、ぶるぶると巨体を震わせた。完全に捕食前の動きだ。
怖くないわけではない。
膝は震えているし心臓は痛いほど速い。あの溶解液を浴びれば、ドレスどころか私自身が無事では済まないだろう。
「で、救援担当はどこにいるの?」
【SYSTEM】『勇者アレクを配置しました』
遠くの丘の上に、人影が現れた。
夕日を背負い、剣を抜き、マントを風になびかせた勇者アレク。髪にはまだ、さっき突っ込んだリンゴ箱の小さな葉っぱが刺さっている。
「そこの君! 危ないーーー!」
「やはり来たわね、リンゴ男」
「今度こそ、僕が助ける!」
アレクは丘の頂上で一度立ち止まり、剣を夕日へ掲げた。
うん、無駄に格好いい。そして無駄に長い……。
決めポーズにたっぷり三秒使って、ようやく坂を駆け下り始めた。
私はアレクとの距離と途中の地形を目測した。
直線距離で約二百メートル。途中に窪地が二つに、ぬかるみが一か所。本人は全力疾走中だが、坂道で加速しすぎて制動に不安あり。
「彼の到着時間は?」
【SYSTEM】『勇者到着まで 47秒』
「敵の攻撃開始は?」
【SYSTEM】『3秒』
「おそっ! 四十四秒も何もせず、座っておけってこと!?」
【SYSTEM】『推奨行動:勇者を信じてください』
「信頼で納期は縮まないっ!」
ツッコミを入れている私の目の前で、先頭のスライムが大きく膨らんだ。
私を丸呑みにする気だ。
「待てるわけないでしょっ!」
私は夕暮れの王都郊外へ来ている。
視界の隅では、先ほどからずっと不穏な表示が点滅している。
【SYSTEM】『勇者による救出イベント:準備中』
【SYSTEM】『敵性個体:3』
【SYSTEM】『推奨発生地点を検索中……』
どうせ襲われるなら、街中より誰もいない場所の方がいいと思ってここに来た。
ここなら、買ったばかりの魔導書を読んで仮説を立てた『魔法術式の書き換えテスト』も盛大にできる。そう考えて自らテスト環境(郊外)へやってきてしまう私も、たいがい前世の職業病だった。
「来るなら来なさい。受け入れテストくらいはしてあげるわ」
【SYSTEM】『推奨発生地点を決定しました』
【SYSTEM】『Event(イベント):スライムの奇襲!』
【SYSTEM】『勇者による救出イベントを開始します』
「なるほど、補正イベントだから雑魚モンスターで十分ってことね」
私が少しだけ安堵した、次の瞬間。
ボコッ。
足元の地面が隆起した。
ボコッ、ボコボコボコッ!
三方向の泥が、同時に爆発する。
夕日を遮り、巨大な紫色の塊が三体、地面から飛び出した。
「こわっ」
プルプルした可愛い水滴型のモンスターを想像していた私の顔が、一瞬だけ引きつる。
目の前に現れたのは、一体ごとに馬車ほどの大きさがある粘液のバケモノだ。
粘つく体表から、じゅうじゅうと音を立てて溶解液を垂らしている。液が落ちた草は一瞬で枯れ、石からは白い煙が上がった。
しかも、サメのような鋭い牙まで生えている。一般的なスライムの可愛げは、企画会議の段階で削除されたらしい。
【SYSTEM】『推奨行動:悲鳴を上げる』
「却下!」
ウィンドウを横へ払う。
【SYSTEM】『推奨台詞:きゃあああ! 誰か助けて!』
「却下却下!」
【SYSTEM】『推奨ポーズ:恐怖でその場へへたり込む』
「牙を剥いてる敵の前で座らせるな!」
【SYSTEM】『推奨表情:涙目』
【SYSTEM】『推奨衣装状態:肩口に軽度の損傷(服が破ける)』
「演出が細かすぎる!」
三体の凶悪なスライムが、ぶるぶると巨体を震わせた。完全に捕食前の動きだ。
怖くないわけではない。
膝は震えているし心臓は痛いほど速い。あの溶解液を浴びれば、ドレスどころか私自身が無事では済まないだろう。
「で、救援担当はどこにいるの?」
【SYSTEM】『勇者アレクを配置しました』
遠くの丘の上に、人影が現れた。
夕日を背負い、剣を抜き、マントを風になびかせた勇者アレク。髪にはまだ、さっき突っ込んだリンゴ箱の小さな葉っぱが刺さっている。
「そこの君! 危ないーーー!」
「やはり来たわね、リンゴ男」
「今度こそ、僕が助ける!」
アレクは丘の頂上で一度立ち止まり、剣を夕日へ掲げた。
うん、無駄に格好いい。そして無駄に長い……。
決めポーズにたっぷり三秒使って、ようやく坂を駆け下り始めた。
私はアレクとの距離と途中の地形を目測した。
直線距離で約二百メートル。途中に窪地が二つに、ぬかるみが一か所。本人は全力疾走中だが、坂道で加速しすぎて制動に不安あり。
「彼の到着時間は?」
【SYSTEM】『勇者到着まで 47秒』
「敵の攻撃開始は?」
【SYSTEM】『3秒』
「おそっ! 四十四秒も何もせず、座っておけってこと!?」
【SYSTEM】『推奨行動:勇者を信じてください』
「信頼で納期は縮まないっ!」
ツッコミを入れている私の目の前で、先頭のスライムが大きく膨らんだ。
私を丸呑みにする気だ。
「待てるわけないでしょっ!」

