勇者のご褒美役はお断りです! ~恋愛フラグを折っていたら、魔王が共犯者になりました~

【SYSTEM】『初期化まで、7秒』

 バキィッ!!
 学園を覆う漆黒の結界へ、致命的な亀裂が走った。
 白い光が傷口から侵入し、寮の屋根を紙のように削り取っていく。
 魔王ノクスは、両腕を天へ突き上げたまま、一歩も引かずに立っていた。

「——また、これか」

 低い声が、爆音を貫いて耳へ届いた。

「だからなんなの! これって! 前にもあったの?」

「何百回とな」

 ノクスの両足が、床へさらに深くめり込む。

「勇者と戦って敗れた時も。戦いを避けて城へ籠もった時も。和平を結ぼうとして、勇者へ剣を差し出した時も」

 亀裂が枝分かれし、夜空へ広がった。

「俺が定められた役から外れれば、最後には必ず、この光が降ってきた」
「全部、消されたの?」
「俺も。城も。俺を信じた者たちも。何もかもだ」

 だから、彼は削除領域にいたのだ。
 勇者に倒される結末を拒み、逃げても、抗っても、誰かを信じても、そのたびに世界そのものから消されてきた。

「フェリシア」

 ノクスが肩越しに私を見る。

「結界を開く! お前だけなら学園の外へ転移させられる」
「共犯者を一方的に強制退去させる気?」
「生きていれば、次がある!」
「あなただって何百回も生き延びた。でも、一人では勝てなかったのでしょう!」

 ノクスの表情が固まった。
 私は砕けた家具を踏み越え、彼の背後へ立った。
 震える背中へ、右手を叩きつける。

「あなた、言ったじゃない。俺の絶望を、その目で暴いてみせろ、と」
「……」
「なら、最後まで暴かせなさい。勝手に一人で諦めないで!」

【SYSTEM】『初期化まで、6秒』

漆黒の天蓋が大きくへこんだ。

「しかし、六秒で何ができるというんだ!」
「六秒もある!」

 前世で、公開直前に見つかった致命的な不具合を、残り時間だけ見て諦めたことなど一度もない。

 できるか、できないかではない。止めなければ、全員消える。
 なら、止める。

「ノクス! あなたのマナとエーテルを全部、私へ接続して!」

「何をする気だ!」

「システムの命令に割り込む!」

 私には、書き換えるための知識がある。
 だが、世界規模の術式を置く領域も、六秒で実行しきる速度もない。
 ノクスには、どちらもある。

「私は術式を組む! あなたは、必要な力を全部よこして!」
「俺を出力装置にする気か!」
「今は私を信じて!」

 ノクスが肩越しに私を見た。

 世界の終わりを告げる白い光の中で、赤い瞳と視線がぶつかる。
 その口元が、獰猛に吊り上がった。

「よかろう」

 ノクスは天を支えたまま、背中越しに私の右手をつかんだ。

「俺のマナもエーテルも――好きに使え、共犯者!」

 ドンッ!!

 つないだ手を通じて、漆黒の魔力が一気に流れ込んできた。

「うぐっ!?」

 視界が黒く染まる。

 山一つ。海一つ。国一つ。そんな単位では足りない。
 無限とも思えるほどの巨大なマナの空間が、私の意識を包み込む。

 そしてその内側で、思考そのものが異常な速さで回り始めた。一秒が、何十秒にも引き伸ばされていく。これが、エーテル。

「出力を落として!」
「これでも二%だ!」
「これで!?」

 測定不能の二パーセントは、結局測定不能だ。

「だから俺は終焉の魔王なのだ!」
「今だけは、その無駄に壮大な設定へ感謝するわ!」
「無駄と言うな!」

 奥歯を噛み締め、流れ込む強大な魔力を目へ集中させる。
 見えた。
 天から降る白い光は、単純な破壊魔法ではない。
 無数の文字列。命令。条件分岐。この世界そのものへ書き込まれた、巨大な実行処理(プログラム)の集合体だ。

【SYSTEM】『IF(もし)正規主人公敗北=TRUE(真)』
【SYSTEM】『AND(かつ)メインシナリオ修復不能=TRUE(真)』
【SYSTEM】『THEN(ならば)対象エリアを初期化』

 規模は桁外れだが、処理そのものは呆れるほど単純だった。
 想定外のバグが起きた。原因は分からない。だから関係者も環境もエリアごと全部消して、なかったことにする。

「ブラック企業の無能な上司が作った、最悪の障害対応手順書と同じよ!」

 両手を空中へ浮かべる。
 ノクスの魔力を使って組み上げた、システムへ直接干渉するための疑似操作盤(コンソール)だ。

「仕様が雑なら、つけ入る隙はある!」

 指を走らせる。

【SYSTEM】『初期化処理へのアクセスを要求』
【SYSTEM】『Access Denied(アクセス拒否)』

「でしょうね!」

【SYSTEM】『システム最上位権限が必要です』

「それも予想済み!」
【SYSTEM】『初期化まで、5秒』

 結界の四分の一が、白い粒子へ変わって消えた。

「権限はどうする! 俺も何度かシステム干渉を試みたが、絶対的なファイアウォールに弾かれたぞ!」
「あそこにあるわ!」
「どこだ!」
「壁!」

 二人そろって、人型の穴を見る。
 アレクが、両手両足を広げて壁へ埋まっていた。

【SYSTEM】『最優先個体:勇者アレク』
【SYSTEM】『役割:正規主人公』
【SYSTEM】『シナリオ干渉権限:最上位』

「今は壁の装飾にしか見えんぞ」
「装飾でも、彼が主人公である以上、システムへの管理者権限は持っているのよ!」

 私は、アレクの頭上から天へ向かって伸びる『システムとの接続回線』を魔力で可視化させ、金色のコードとして右手でつかみ取った。

 引っこ抜いた金色のコードを、自分のコンソールへ突き刺す。

【SYSTEM】『認証個体:勇者アレク』
【SYSTEM】『主人公最上位権限を確認』
【SYSTEM】『システム中枢領域へのアクセスを許可します』

「入った!」

【SYSTEM】『警告:主人公本人の操作ではありません』

「認証は通ったでしょう?」

【SYSTEM】『不正利用の可能性があります』

「可能性ではなく、確実に不正利用よ!」

【SYSTEM】『直ちに操作を停止してください』

「正規の操作をしてほしければ、正規の手順で直しなさい!」

【SYSTEM】『初期化まで、4秒』

 指を加速させる。

【SYSTEM】『主人公権限を偽装』
【SYSTEM】『実行中の初期化命令を捕捉』
【SYSTEM】『初期化対象:王立魔法学園』

「捕まえた!」

 初期化対象を指定している文字列へ、両手をかける。
 重い。
 世界そのものが、変更を拒んでいる。
 指の皮膚が裂け、血が光の文字列へ飛び散った。
 それでも離さない。

「動きなさいっ!」

 ノクスの演算領域を踏み台にし、全身の力で文字列を引きずる。

 一文字、また一文字、対象を示す変数を、別の値へ強引に上書きする。

【SYSTEM】『初期化対象:実行中の初期化処理』

「自分で放った力で――自分自身を消しなさい!」

 天から降る光が、激しく明滅した。

【SYSTEM】『Error』
【SYSTEM】『対象指定に自己参照を検出』
【SYSTEM】『初期化処理が、自身を削除対象として認識しています』

「何をした!」
「敵の攻撃先を、敵自身へ書き換えたのよ!」

 システムが、自分自身を消去しようとする矛盾へ陥った。

 だが、天から降る光は、少しも勢いを緩めない。

 当然だ。
 今、私が書き換えたのは、この操作盤へ映っている写しにすぎない。
 命令の本体は、はるか上空――光を吐き出し続けている中枢の内側で、元の値を握ったまま走っている。

 手元の指示書を直したところで、現場は止まらない。
 現場そのものへ、新しい指示を突きつけなければ意味がない。

「書き換えただけじゃ駄目よ!」
「なら、どうする!」
「この改変を、中枢で走っている本体へ直接上書きする!」

【SYSTEM】『初期化まで、3秒』


 漆黒の天蓋が、半分砕けた。
 夜空から白い光がなだれ込み、寮の上階を端から削除していく。

「ノクス、あなたの魔力を、一本に絞って!」
「一本? 全力で殴った方が早いだろう!」
「殴っても届かない! 中枢は世界の壁の向こうよ!」

 だが、壁を破る必要はない。
 外から入る道がないだけで、中から出てくる道は、もう開いている。

 この光だ。

 中枢が自分で開けた出口。
 今この瞬間も、命令を垂れ流し続けている、たった一本の穴。

 塞がれる前に、そこへ逆から潜り込む。

「降ってくる光を、逆にたどる!」
「流れに逆らって、上るというのか!」
「そう! だから太くしたら押し戻される! 針みたいに細く、硬く、真っ直ぐに!」

 光の奔流に耐えて中枢まで届く、一本の細い通り道。
 その先端へ、書き換えた命令を載せる。

「向こうへ着いたら、走っている本体の対象指定を、この改変ごと上書きする!」
「俺の魔力を、命令を運ぶだけの管にする気か!」
「世界の喉の奥まで届く管よ!」

 ノクスが吠えた。
 彼から流れ込む漆黒の奔流を、私の術式が包み込む。
 一本へ束ねたそばから、空間を裂いて逃げようとする。

「右へ漏れている!」
「押さえた!」
「下の術式が膨張!」
「圧縮する!」

 荒れ狂う夜の海が、一本の川へ。
 川が一本の糸へ。
 糸が、世界を刺し貫く漆黒の槍へ……。

 私の自己削除命令をシステム中枢へ叩き込む、巨大な注入器へと変わっていく。

【SYSTEM】『初期化まで、2秒』

「進路固定!」
「魔力圧縮、限界!」
「権限偽装、完了!」
「出力最大!」

 漆黒の槍が、白い光の根源へ狙いを定める。
 私の右手へ、ノクスの右手が重なった。

 世界が揺れ、二人の前へ、巨大な実行キーが出現した。

【SYSTEM】『1秒』

「迎撃術式――」

「《反逆の黒槍》!」

「勝手に格好いい名前をつけないで!」
「最終局面には名前が必要だ!」
「うーーん、それは認める!」

 二人で、実行キーを叩き込んだ。

 タァンッ!!

 漆黒の槍が放たれる。
 ノクスの圧倒的なマナとエーテルが、世界の防壁を力ずくでこじ開ける。
 その道を通り、私が組み上げた自己削除命令が中枢へ疾走する。

 世界を殴る力と。
 世界を読む頭脳。
 その二つが寸分違わず重なり、白い光の中心へ突き刺さる。

 ガアアアアアアアアアアン!!!

 空が割れた。
 世界が、上下に揺さぶられる。
 白と黒が正面衝突し、夜空の半分が純白へ、残る半分が漆黒へ染まった。

【SYSTEM】『Error』
【SYSTEM】『初期化対象が不正です』
【SYSTEM】『自己削除命令を検出』
【SYSTEM】『致命的な矛盾を検知』
【SYSTEM】『安全装置を起動します』
【SYSTEM】『実行中の修正処理を強制中断』
【SYSTEM】『処理開始前の状態へロールバックします』

「逃がすか!」

 システムは、自らの矛盾に気づいた。
 すべてを処理前の状態へ戻し、今回の失敗をなかったことにするつもりだ。
 中断されれば、また別の初期化処理が送られてくる。

「今まで散々、私たちの人生を巻き戻してきたくせに!」

 私は最後の実行命令へ手を伸ばす。

「自分だけ都合が悪くなったら、なかったことにできると思うな!」

 光の鍵盤へ、拳を叩きつけた。

【SYSTEM】『強制実行を要求』
【SYSTEM】『認証:主人公アレク』
【SYSTEM】『管理者権限を確認』
【SYSTEM】『Force Commit』
【SYSTEM】『Execute』

 その時、壁から、か細い声がした。

「あれ? 僕の権限で……何を、実行した……?」
「初期化処理の自爆だけど」
「聞かなければ……よかった……」

 アレクの手が、再びぱたりと落ちた。

 その直後――

 天から降る白い光が、あり得ない角度へ折れ曲がった。
 空中で巨大な円を描き、自らの根元へ向きを変えた。

 世界を消すために放たれた光が、自分自身の発射元へ食らいついた。

 逆流する白い柱。

 初期化処理が、自分で放った『対象を消去する力』に呑み込まれていく。

 白い渦が縮み、圧縮され、崩壊する。

 空を埋め尽くしていた赤い警告画面が、端から次々と砕け散った。

【SYSTEM】『第一修正処理――』

 最後の一枚へ、亀裂が走る。

【SYSTEM】『失敗』

「違うわ」

 ひび割れた文字へ、人差し指を突きつける。

「デバッグ完了よ」

 巨大な画面が、粉々に砕け散った。


 * * *


 音が消えた。
 白い光も、漆黒の結界も、空を埋め尽くしていた命令文も消えていく。

 雲が割れた。
 静かな夜空へ、月と星が戻ってくる。
 削られかけた校舎も、白い粒子の中から再構成された。
 学園のどこかで、六人の少女が一斉に歓声を上げた。

「……勝った」

 その言葉を口にした瞬間、身体からすべての力が抜けた。
床へ倒れかけた私を、ノクスが片腕で抱き止める。

「見事だ」
「あなたも、出力装置としては上出来だったわ」
「この俺を装置扱いする女は、世界中でお前だけだ」
「光栄でしょう?」
「不思議と悪い気はしない」

【SYSTEM】『魔力接続相性:100%』
【SYSTEM】『初めての共同作業:大成功』

「言い方!」

【SYSTEM】『共同作業の記念スチルを――』

「いらない!」

 画面を叩き割ると、ノクスが声を上げて笑った。
 何百回も奪われ続けた結末を、初めて自分の手で壊した男の笑いだった。

 * * *

 月明かりの下。

 半壊した私の部屋で、私とノクスは向かい合った。
 ベッドは傾き、机は逆さま、窓と扉は消滅。壁には勇者の人型がめり込んでいる。

「私たちの将来について話し合う場としては、イマイチね」
「最終決戦の跡としては、悪くない」
「私の部屋なんだけど」
「窓はあとで直す」
「壁も! 扉も! 机も!」
「勇者は?」
「そこは本人に直させる」

 アレクの指先だけが、かすかに動いた。
 異議はあるらしい。

「俺は、何百回と世界に殺され続けてきた」

 ノクスは、自分の右手を見る。
 たった二度指を鳴らすだけで、正規主人公を倒した手。
 それでも。決められた結末だけは、何百回挑んでも壊せなかった手だ。

「力が足りないのだと思っていた。もっと強ければ、いつかあの光さえ打ち破れると」
「違った」
「ああ。どれほど強く殴っても、命令の向きまでは変えられん」

 ノクスが、私へ右手を差し出した。

「だが、お前はその命令を読んだ。俺の力へ行き先を与え、初めて世界の強制力へ届かせた」
「私だけでも無理だった。命令を書き換えても、それを中枢まで運ぶ力がない」
「お前の頭脳と、俺の魔力」
「世界を読む者と、世界を殴る者」
「表現に品がないな」
「分かりやすいでしょう?」
「嫌いではない」

 赤い瞳が、まっすぐ私を見つめた。

「フェリシア。俺には、お前が必要だ」

 あまりにも真っ直ぐな言葉だった。

 心臓が一度、大きく跳ねる。

【SYSTEM】『心拍数の上昇を検出』

「戦闘直後だからよ!」

 ごまかすように、差し出された手を強く握った。

「私にも、あなたが必要よ」

 ノクスの目が、わずかに見開かれる。

「世界で一番無茶の利く、実行環境として」
「……やはり機材扱いではないか」
「最高評価よ」
「ならば、受け入れよう」
「これからも組むわよ。共犯者として」

【SYSTEM】『共同戦線の正式稼働を確認』
【SYSTEM】『解析担当:フェリシア・ルミナリア』
【SYSTEM】『実行担当:終焉の魔王ノクス』
【SYSTEM】『関係性:共犯者』

「自動修正は、これで終わらない」

 ノクスが夜空を見上げた。

「今回は、最初の処理を退けただけだ。世界は俺たちを、これまで以上に危険な異常として記録したはずだ」
「次が来るわね」
「確実に来る」
「なら、来る前に準備する」
「ここでは手狭だ」

 ノクスが、半壊した私の部屋を見回した。

「俺の城を使え」
「……魔王城を?」
「魔導書。研究設備。魔族の技術者。兵力。城にあるものは、すべて差し出す。魔王である俺の権限も好きに使え」
「全部?」
「敵は世界そのものだ。出し惜しみをして勝てる相手ではない」

 とんでもない提案だった。
 王国最大の仮想敵が保有する設備。
 技術者。
 軍隊。
 最高権限。
 そのすべてを、私へ預けるという。

 普通なら、怖気づく場面かもしれない。

 だが。

 前世から、開発環境には飢えている。

「分かった」

 私は、ノクスの手を握ったまま笑った。

「分かったわ。魔王城に引っ越す。学校にはそこから通うわ。そして、魔王城は世界の強制シナリオへ反撃するための開発拠点に変える」

「開発拠点?」

「まず命令解析室。次に大規模魔力演算設備。ログ保存領域も必要ね。術式の試験環境は本番環境から完全に分離。あとは二十四時間の障害対応体制を――」

「待て。城を一から建て直す気か?」

「好きに使えと言ったでしょう?」

「言ったが」
「好きに使うわ」

 ノクスは一瞬だけ目を見開き――やがて、愉快そうに笑った。

「上等だ。好きに改造しろ」

 その時、青く輝いていた共同戦線の画面へ、赤黒いノイズが走った。

【SYSTEM】『システム緊急介入』
【SYSTEM】『第一修正処理:失敗』
【SYSTEM】『異常個体二名の脅威度を再評価』
【SYSTEM】『フェリシア・ルミナリア:最優先修正対象』
【SYSTEM】『第二修正フェーズへ移行します』

「『最優先修正対象』ですって。光栄すぎて涙が出そうね」

「誇っていいぞ。世界を敵に回した特大のバグは、俺たちだけだ」

 私は、赤黒く明滅するウィンドウへ人差し指を突きつけた。

「私は、勇者に攻略されるメインヒロインとして作られた」
「俺は、勇者に倒される敵として作られた」
「でも、もう違う」
「ああ」

 握った手へ、互いに力を込める。

「俺たちの役割は、俺たちが決める」

 世界の命令を読む者と。
 世界の命令を打ち砕く者。
 メインヒロインと終焉の魔王。
 本来なら、物語の両端に置かれ、決して手を組むはずのなかった二人。

「ここから始めるぞ」

 ノクスの赤い瞳が、獰猛に輝く。

「俺たちの反逆を」

「ええ」

【SYSTEM】『第二修正シナリオ:ロード開始』

 赤黒い文字列が加速する。

 役割も恋愛も結末も……。
 誰かが勝手に決めたものを、黙って受け取るつもりはない。

 私は空中へ、光の鍵盤を展開した。

「さあ、覚悟しなさい――この世界のクソ仕様!」

 最後の実行キーへ、指を叩き込む。

「隅から隅まで、全部デバッグしてあげるわ!」

 メインヒロインと最終ボスによる――反逆の始まりだ。