勇者のご褒美役はお断りです! ~恋愛フラグを折っていたら、魔王が共犯者になりました~

 翌朝――。

 登校した私の机は、六人の美少女に包囲されていた。

 ピンク髪のドジっ子後輩、リリ。
 金髪縦ロールのツンデレ令嬢、ステラ。
 青髪のクール剣士、ミラ。
 眼鏡をかけた世話焼き秀才、ナナ。
 黒髪の天才魔術師、イリス。
 白髪の病弱聖女、ソフィア。

 全員、まるで別々の物語からメインヒロインだけをスカウトして並べたような、個性の過積載状態である。




 そんな彼女たちが、揃って深刻な顔をしている。

「フェリシアお姉さま。ご相談があります!」

 代表して、リリが一枚の紙を机へ置いた。
 ナナの達筆で、議題が大きく書かれている。

『どうして私たちは、勇者様を好きになるために理不尽なピンチに陥らなければならないのか? 問題』

「なるほど……。たいへん正当な疑問ね」

 私は椅子へ座った。

「順番に聞きましょう」
「はいっ!」

 リリが勢いよく手を上げる。

「私は今日も、大量の荷物を手で運ぶよう言われました! 台車の利用は『可愛げがないから禁止』だそうです!」

「運搬作業に可愛げを要求しないで欲しいわね」

「わたくしは、本日の決闘で勇者へ負けるよう指示されましたわ」

 ステラが、扇子をベキリと鳴らした。

「しかも『汗は少量』『頬を赤らめる』『最後は胸元へ倒れ込むこと』という敗北演出の指定つきですの。剣士を侮辱するにも程がありますわ!」

「私は、森で魔物に囲まれても剣を抜くなと言われた」

 ミラが無表情で告げる。

「勇者の救援まで、悲鳴を上げて逃げ続けろ、と。非効率」

「非効率以前に危険ね」

 ナナは、分厚い治癒実習の手順書を開いた。

「わたくしは『負傷した勇者の頭部を膝へ載せ、耳元で励ましながら治癒すること』と。遠隔治癒の方が速くて衛生的なのですが、使用禁止だそうです」

「膝枕で耳かきイベントとごっちゃになった感が(いな)めないわね」

「私の魔法実験室は、今朝になって安全装置が三つ外されていた」

 イリスが、黒髪を指へ巻きながら淡々と言う。

「理由は『爆発による吊り橋効果を阻害するため』。書いた者には、まず本物の吊り橋から落ちてもらいたい」

「同意以外の感想を持てないわ」

 最後に、ソフィアが薬瓶を胸元へ抱いた。

「私は今日、薬を飲まず、朝食を抜き、睡眠時間を四時間以下へ減らすようにと……。そうすれば午後、勇者様の前で美しく倒れられるそうです」

「それは病弱属性ではなく、人為的な体調不良の製造工程よ!」

 机を叩いた瞬間、視界いっぱいにシステムウィンドウが展開された。

【SYSTEM】『正規恋愛イベントの再実行を開始します』
【SYSTEM】『本日の処理予定』
【SYSTEM】『08:00 リリ:転倒救出』
【SYSTEM】『09:00 ステラ:決闘敗北』
【SYSTEM】『10:30 ミラ:魔物救出』
【SYSTEM】『12:00 ナナ:膝枕治癒』
【SYSTEM】『14:00 イリス:実験事故』
【SYSTEM】『15:30 ソフィア:病弱介抱』
【SYSTEM】『全イベント終了後、勇者ハーレムルートへ移行します』

「一日で六人攻略とか、スタンプラリーじゃないのよ!」

「お姉さま?」

 リリが首を傾げる。

「なんでもないわ」

 私は六人を見回した。

「あなたたちは、どうしたいのかしら?」

 昨日、リリへ強引に流し込まれた好感度は、彼女自身の気持ちによって突き返された。
 システムに与えられた役割を覆せるのが本人の意思だけなのだとしたら、まず聞くべきは彼女たちの「どうしたいか」だ。

「もう二度と、鉄鍋を頭の上に落としたくないです!」

 リリが真っ先に答えた。切実である。

「わたくしは、勝ちたいですわ。頬を赤らめながら負ける練習より、素振りの時間が欲しいですの」

「私は、剣を抜きたい。逃げる訓練は、もう十分に足りている」

 ミラが淡々と続く。

「わたくしは、患者へ三メートル離れた場所から治療したいです。膝は、枕ではありませんので」

「私は、爆発させたくない。実験室は、私の職場」

「私は……朝ごはんが食べたいです」

 ソフィアが、消え入るような声で言った。

「昨日から、ずっと」

「今すぐ食べなさい」

 六人の声に、迷いはなかった。

「分かりました。では、発生条件から潰しましょう」

 こうして、ゲームヒロインたち合同による、恋愛フラグ集団破壊作業が始まった。