そして卒業式を終え、私は夕燈のアパートへ引っ越した。
「狭くない? 平気?」
段ボールを床へ下ろしながら尋ねると、
「大丈夫だよ。俺、ずっと楽しみにしてたんだから」
夕燈が嬉しそうに微笑む。荷解きを終え、ベランダの窓を開ける。春風がふわりと部屋へ流れ込み、桜の花びらがひとひら舞い込んできた。
「……ひよ。その髪、似合ってるね」
胸まであった髪を肩まで切った。母と父は驚きながらも「いいね」と笑ってくれて、朝陽はしばらく固まったあと、「……いいんじゃねーの?」と照れくさそうに言ってくれた。
「ありがとう。私も気に入ってるの」
髪を耳に掛けると、夕燈が優しく目を細める。
「ねぇ、ひよ」
「なに?」
振り向いた瞬間――ちゅっ。柔らかな唇がそっと重なった。
「え、え……!」
目の前には夕燈の顔。長い睫毛も、通った鼻筋も、春風に揺れる薄茶色の髪も、近すぎて心臓が壊れそうになる。
「ふふ。可愛い」
夕燈は私の反応を楽しむように笑って、隣へ並んだ。
「ねぇ、もう一回しようよ」
私は少し照れながら目を閉じる。その瞬間、ぶわっと春風が吹き抜け、桜の花びらが桜吹雪のように部屋いっぱいへ舞い込んだ。唇が触れようとした、その時――一枚の花びらが、ひらりと夕燈の口元へ舞い降りる。
「……桜の花びらに邪魔された」
夕燈が少しだけ拗ねたように笑う。
「本当だね。片付けないと……」
しゃがみ込もうとすると、
「だーめ」
腕をそっと引かれる。
「俺が優先」
そのまま優しく抱き寄せられ、今度こそ甘く、とろけるような口づけが降ってきた。窓の向こうでは桜が風に揺れている。
春は、新しい始まりの季節。
――大切な人のために、自分を偽って生きることは間違いですか。
――苦しいですか。
私はずっと、大切な人が笑ってくれるなら、それでいいと思っていた。
人は誰だって、少しずつ仮面をかぶって生きている。
よく見られたいから。
嫌われたくないから。
恋人にも、友達にも、家族にも。
私は”代わり”でもよかった。
それは誰かにそう言われたからじゃない。
私自身が選び、受け入れた答えだった。
それでも――
私自身を見てくれる人がいて。
ありのままの私を受け入れてくれる人がいて。
「日和がいい」と笑ってくれる人たちがいた。
その温かさを知った今なら、私は胸を張って言える。
もう誰かの代わりじゃない。私は、私として生きていく。
この先、どんな未来を選ぶのか。
その答えを決めるのは、誰でもない。私自身だ。
たった一つの正解なんてない。だから私は、自分で選んだ道を歩いていく。
私が選んだ未来が、きっと私の正解になると信じて。
そして今日も、大好きな家族と、大切な人たちと一緒に、笑いながら未来を紡いでいく。
『祈りを紡ぐ明日から』 完結
「狭くない? 平気?」
段ボールを床へ下ろしながら尋ねると、
「大丈夫だよ。俺、ずっと楽しみにしてたんだから」
夕燈が嬉しそうに微笑む。荷解きを終え、ベランダの窓を開ける。春風がふわりと部屋へ流れ込み、桜の花びらがひとひら舞い込んできた。
「……ひよ。その髪、似合ってるね」
胸まであった髪を肩まで切った。母と父は驚きながらも「いいね」と笑ってくれて、朝陽はしばらく固まったあと、「……いいんじゃねーの?」と照れくさそうに言ってくれた。
「ありがとう。私も気に入ってるの」
髪を耳に掛けると、夕燈が優しく目を細める。
「ねぇ、ひよ」
「なに?」
振り向いた瞬間――ちゅっ。柔らかな唇がそっと重なった。
「え、え……!」
目の前には夕燈の顔。長い睫毛も、通った鼻筋も、春風に揺れる薄茶色の髪も、近すぎて心臓が壊れそうになる。
「ふふ。可愛い」
夕燈は私の反応を楽しむように笑って、隣へ並んだ。
「ねぇ、もう一回しようよ」
私は少し照れながら目を閉じる。その瞬間、ぶわっと春風が吹き抜け、桜の花びらが桜吹雪のように部屋いっぱいへ舞い込んだ。唇が触れようとした、その時――一枚の花びらが、ひらりと夕燈の口元へ舞い降りる。
「……桜の花びらに邪魔された」
夕燈が少しだけ拗ねたように笑う。
「本当だね。片付けないと……」
しゃがみ込もうとすると、
「だーめ」
腕をそっと引かれる。
「俺が優先」
そのまま優しく抱き寄せられ、今度こそ甘く、とろけるような口づけが降ってきた。窓の向こうでは桜が風に揺れている。
春は、新しい始まりの季節。
――大切な人のために、自分を偽って生きることは間違いですか。
――苦しいですか。
私はずっと、大切な人が笑ってくれるなら、それでいいと思っていた。
人は誰だって、少しずつ仮面をかぶって生きている。
よく見られたいから。
嫌われたくないから。
恋人にも、友達にも、家族にも。
私は”代わり”でもよかった。
それは誰かにそう言われたからじゃない。
私自身が選び、受け入れた答えだった。
それでも――
私自身を見てくれる人がいて。
ありのままの私を受け入れてくれる人がいて。
「日和がいい」と笑ってくれる人たちがいた。
その温かさを知った今なら、私は胸を張って言える。
もう誰かの代わりじゃない。私は、私として生きていく。
この先、どんな未来を選ぶのか。
その答えを決めるのは、誰でもない。私自身だ。
たった一つの正解なんてない。だから私は、自分で選んだ道を歩いていく。
私が選んだ未来が、きっと私の正解になると信じて。
そして今日も、大好きな家族と、大切な人たちと一緒に、笑いながら未来を紡いでいく。
『祈りを紡ぐ明日から』 完結

