「ひより〜ちょっとこれ味見して」
キッチンから母の声が聞こえて立ち上がる。ふわりとイチゴの甘いジャムの香りが漂う。
「なにー?」
「じゃあ俺、部屋戻るね」
「うん、またあとでいくね」
「わかった」
夕燈はゆっくり立ち上がり、部屋へ向かった。朝陽がお風呂から上がったところで、一緒に夕燈の部屋へ向かう。廊下にはまだ湯気がふわっと漂い、二人の足音だけが静かに響く。
「別に一緒に行かなくてもいいだろ」
「いいじゃん!」
私はぐいっと朝陽を引っ張り、夕燈の部屋の前でノックする。
コンコン。
「入るよ!」
「どうぞ」
落ち着いた声が返ってくる。
「夕燈! さっき言ってたいいもの、持ってきた!」
「なんだろう」
夕燈は机から顔を上げ、ふっと優しく笑う。その笑顔を見るだけで胸があたたかくなる。
「ほら」
私は朝陽を見る。朝陽は気恥ずかしそうに頭をかきながら、
「これやるよ」
と、小さな青虫をひょいっと投げた。夕燈は慌てて受け取り、首をかしげる。
「……あおむし?」
「それ広げてみ」
そう言って朝陽は近くの椅子を引き寄せて座る。私はベッドに腰掛ける。
「広げる……?」
夕燈はそっと布地を広げた。ぱっと黄色が視界に広がり、彼の目が一瞬で輝く。
「わっ、これウスバキチョウだ」
「モンキチョウじゃねーの?」
「私もそう思った」
ただの黄色い蝶だと思っていたけれど、タグに“珍しい日本の蝶シリーズ”と書いてあった気がする。夕燈は嬉しそうに、宝物を扱うみたいに布を指先でなぞりながら説明を始めた。
「標高千七百メートル以上の高山帯にだけ生息する、黄色の半透明な羽を持つアゲハチョウ科の希少な高山蝶なんだよ。
国の天然記念物で、氷河期の生き残りとも呼ばれてる。
それにね、成虫になるまでニ〜三年かかるんだ」
「へぇー」
私と朝陽は同時に声を漏らす。夕燈の説明はいつも丁寧で、聞いていると自然と引き込まれる。
「嬉しいな。ありがとう、朝陽、ひよ」
夕燈は本当に嬉しそうに笑った。その笑顔は、見ているこっちまで幸せにしてくれる。
「きっと、ウスバキチョウなんて一生見れないよ」
少し寂しそうに笑いながら、蝶の羽をそっと撫でる。その表情を見た瞬間、朝陽が眉をひそめた。
「俺、お前のそういう卑屈っぽいとこ嫌い」
「ちょっと…朝陽!」
思わず私が声を上げると、
「俺は真っ直ぐ本音を言ってくれる朝燈、好きだよ」
夕燈はふわっと、春の光みたいに柔らかく笑った。その笑顔に、部屋の空気が一気にあたたかくなる。
「あっそ」
朝陽は照れたように横を向く。素直じゃない。
キッチンから母の声が聞こえて立ち上がる。ふわりとイチゴの甘いジャムの香りが漂う。
「なにー?」
「じゃあ俺、部屋戻るね」
「うん、またあとでいくね」
「わかった」
夕燈はゆっくり立ち上がり、部屋へ向かった。朝陽がお風呂から上がったところで、一緒に夕燈の部屋へ向かう。廊下にはまだ湯気がふわっと漂い、二人の足音だけが静かに響く。
「別に一緒に行かなくてもいいだろ」
「いいじゃん!」
私はぐいっと朝陽を引っ張り、夕燈の部屋の前でノックする。
コンコン。
「入るよ!」
「どうぞ」
落ち着いた声が返ってくる。
「夕燈! さっき言ってたいいもの、持ってきた!」
「なんだろう」
夕燈は机から顔を上げ、ふっと優しく笑う。その笑顔を見るだけで胸があたたかくなる。
「ほら」
私は朝陽を見る。朝陽は気恥ずかしそうに頭をかきながら、
「これやるよ」
と、小さな青虫をひょいっと投げた。夕燈は慌てて受け取り、首をかしげる。
「……あおむし?」
「それ広げてみ」
そう言って朝陽は近くの椅子を引き寄せて座る。私はベッドに腰掛ける。
「広げる……?」
夕燈はそっと布地を広げた。ぱっと黄色が視界に広がり、彼の目が一瞬で輝く。
「わっ、これウスバキチョウだ」
「モンキチョウじゃねーの?」
「私もそう思った」
ただの黄色い蝶だと思っていたけれど、タグに“珍しい日本の蝶シリーズ”と書いてあった気がする。夕燈は嬉しそうに、宝物を扱うみたいに布を指先でなぞりながら説明を始めた。
「標高千七百メートル以上の高山帯にだけ生息する、黄色の半透明な羽を持つアゲハチョウ科の希少な高山蝶なんだよ。
国の天然記念物で、氷河期の生き残りとも呼ばれてる。
それにね、成虫になるまでニ〜三年かかるんだ」
「へぇー」
私と朝陽は同時に声を漏らす。夕燈の説明はいつも丁寧で、聞いていると自然と引き込まれる。
「嬉しいな。ありがとう、朝陽、ひよ」
夕燈は本当に嬉しそうに笑った。その笑顔は、見ているこっちまで幸せにしてくれる。
「きっと、ウスバキチョウなんて一生見れないよ」
少し寂しそうに笑いながら、蝶の羽をそっと撫でる。その表情を見た瞬間、朝陽が眉をひそめた。
「俺、お前のそういう卑屈っぽいとこ嫌い」
「ちょっと…朝陽!」
思わず私が声を上げると、
「俺は真っ直ぐ本音を言ってくれる朝燈、好きだよ」
夕燈はふわっと、春の光みたいに柔らかく笑った。その笑顔に、部屋の空気が一気にあたたかくなる。
「あっそ」
朝陽は照れたように横を向く。素直じゃない。
