三月。春の風がふく。冬の名残をそっと押し流すような、やわらかい風だった。
「ひよ、おせーぞ」
「はやくいこう、ひよ」
玄関の外で双子がこちらを見ている。私はため息をつきながら二人に近づいた。
「こっちが夕燈で、こっちが朝陽ね」
左手で夕燈、右手で朝陽の手をつかむ。
「さすがひよ」
「まじかよ、もう見破られた」
朝陽はネクタイをゆるめて雑に腕まくりし、夕燈はネクタイをきゅっと締め直して袖を整える。
「いい加減、試すのやめてくれない?」
呆れたように言うと、
「だってさ、清々しいほどに見破るから」
「なんか楽しいよな!」
夕燈と朝陽は楽しそうに笑った。
今日は卒業式。校庭の桜はまだ蕾だけれど、風に揺れる枝が春を待っているようだった。朝陽は都内の医学部への進学が決まり、夕燈も念願の法学部に合格した。さすがだな、と心から思う。二人とも家からは遠くて通えないため、一人暮らしをするらしい。てっきり双子で仲良く同居するのかと思いきや、
「いやだね。自由を謳歌したい」
朝陽はいつもの調子で言う。その横で夕燈が、少し照れたように笑った。
「俺も、人生経験だと思ってやってみるよ。あ、ひよりもこっちの大学進学して、一緒に住もうよ」
冗談みたいで、でもどこか本気で。胸の奥がじんわりと熱くなる。
二人とも、将来に向かって歩き出している。前を向いている。
その背中がまぶしくて、少しだけ切なくて、でも嬉しい。
「寂しくなるね」
そう言うと、
「たまには帰ってくるよ。ってか、いまからもう勉強しろ」
朝陽が呆れながら笑う。
「そうだよ、ひよ。こっちの大学いまから選ぼう。俺と同じ大学でもいいけどね」
夕燈が笑う。
「いやいや、無理に決まってるでしょ!法学部って相当狭き門!私頭良くないんだから」
思わず大きな声が出た。
「まあ、でも。両親の事は気にせずさ。お前自身がやりたいこと、将来についてはもう考えた方がいいな」
朝陽が大きな手で頭を撫でながら笑う。
「そうだね、ひよがやりたいことちゃんと探していこう」
夕燈も優しく微笑む。
「まあ、今から考えるとか遅すぎるけどな」
朝陽が意地悪そうに笑う。
「な!見捨てないで!!お願い!!」
必死に言うと、朝陽は吹き出した。本当に楽しそうに。
「見捨てないよ。だってひよは俺と一緒に住む予定だからね。
しっかり将来について話ししよっか」
夕燈の圧が強い。横からじっと見てくる。
「……でも、まずは!」
私は二人の腕をぎゅっと掴んだ。双子が同時にキョトンとする。
「最後の三人での登校を噛み締める!」
そう言って笑うと、朝陽が肩を揺らして笑い、夕燈も目を細めて笑った。
三月の風が、制服の裾をふわりと揺らす。梅の香りがほんのり漂って、季節が変わる気配が胸にしみた。
二人は前へ進んでいく。未来へ歩き出している。そんな二人がまぶしすきだ。
私は——ひよりとして生きていこうと思っていた。家族が幸せなら、それでいいと。代わりでもいいと。
でも、右隣の朝陽は“兄”として、左隣の夕燈は“恋人”として。
母さんも、ひよりちゃんの死を少しずつ受け止め始めている。
たまにひどく悲しそうな顔をするけれど、そんな母を父はそっと支えていた。二人で過ごす時間も増えている。
どうか、みんなが前を向けますように。そして、私も前を向いて、未来に歩けるように。春の風が、そっと背中を押してくれる気がした。
「ひよ、おせーぞ」
「はやくいこう、ひよ」
玄関の外で双子がこちらを見ている。私はため息をつきながら二人に近づいた。
「こっちが夕燈で、こっちが朝陽ね」
左手で夕燈、右手で朝陽の手をつかむ。
「さすがひよ」
「まじかよ、もう見破られた」
朝陽はネクタイをゆるめて雑に腕まくりし、夕燈はネクタイをきゅっと締め直して袖を整える。
「いい加減、試すのやめてくれない?」
呆れたように言うと、
「だってさ、清々しいほどに見破るから」
「なんか楽しいよな!」
夕燈と朝陽は楽しそうに笑った。
今日は卒業式。校庭の桜はまだ蕾だけれど、風に揺れる枝が春を待っているようだった。朝陽は都内の医学部への進学が決まり、夕燈も念願の法学部に合格した。さすがだな、と心から思う。二人とも家からは遠くて通えないため、一人暮らしをするらしい。てっきり双子で仲良く同居するのかと思いきや、
「いやだね。自由を謳歌したい」
朝陽はいつもの調子で言う。その横で夕燈が、少し照れたように笑った。
「俺も、人生経験だと思ってやってみるよ。あ、ひよりもこっちの大学進学して、一緒に住もうよ」
冗談みたいで、でもどこか本気で。胸の奥がじんわりと熱くなる。
二人とも、将来に向かって歩き出している。前を向いている。
その背中がまぶしくて、少しだけ切なくて、でも嬉しい。
「寂しくなるね」
そう言うと、
「たまには帰ってくるよ。ってか、いまからもう勉強しろ」
朝陽が呆れながら笑う。
「そうだよ、ひよ。こっちの大学いまから選ぼう。俺と同じ大学でもいいけどね」
夕燈が笑う。
「いやいや、無理に決まってるでしょ!法学部って相当狭き門!私頭良くないんだから」
思わず大きな声が出た。
「まあ、でも。両親の事は気にせずさ。お前自身がやりたいこと、将来についてはもう考えた方がいいな」
朝陽が大きな手で頭を撫でながら笑う。
「そうだね、ひよがやりたいことちゃんと探していこう」
夕燈も優しく微笑む。
「まあ、今から考えるとか遅すぎるけどな」
朝陽が意地悪そうに笑う。
「な!見捨てないで!!お願い!!」
必死に言うと、朝陽は吹き出した。本当に楽しそうに。
「見捨てないよ。だってひよは俺と一緒に住む予定だからね。
しっかり将来について話ししよっか」
夕燈の圧が強い。横からじっと見てくる。
「……でも、まずは!」
私は二人の腕をぎゅっと掴んだ。双子が同時にキョトンとする。
「最後の三人での登校を噛み締める!」
そう言って笑うと、朝陽が肩を揺らして笑い、夕燈も目を細めて笑った。
三月の風が、制服の裾をふわりと揺らす。梅の香りがほんのり漂って、季節が変わる気配が胸にしみた。
二人は前へ進んでいく。未来へ歩き出している。そんな二人がまぶしすきだ。
私は——ひよりとして生きていこうと思っていた。家族が幸せなら、それでいいと。代わりでもいいと。
でも、右隣の朝陽は“兄”として、左隣の夕燈は“恋人”として。
母さんも、ひよりちゃんの死を少しずつ受け止め始めている。
たまにひどく悲しそうな顔をするけれど、そんな母を父はそっと支えていた。二人で過ごす時間も増えている。
どうか、みんなが前を向けますように。そして、私も前を向いて、未来に歩けるように。春の風が、そっと背中を押してくれる気がした。

