滞りなく文化祭の準備は進み、私は慌ただしく校内を駆け回っていた。
「掛上さん! こっち椅子が足りないんですけど!」
「それなら倉庫に余っているものがありますよ!」
「委員長!」
……やばい。忙しい。しんどい。
それでも、クラスの和カフェは吉川たちが「任せろ」と言ってくれたおかげで、私は安心して実行委員の仕事に集中できていた。
「忙しそうだなー」
「ひよ、大丈夫?」
聞き慣れた声に振り向くと、朝陽と夕燈が手を上げていた。高校三年生は自由参加だけれど、二人とも様子を見に来てくれたらしい。
「いや、もうしんどい。本当にちゃんと魔王様の言うこと聞いとけばよかった」
「おうおう、やっと分かったか。……って、誰が魔王だ。ったく」
朝陽は呆れたように肩をすくめる。その時。
「委員長! 機材トラブルでマイクの音が出ないって!」
また一人、慌てて駆け寄ってくる。またトラブル!?
思わず頭を抱えそうになると、
「俺、見に行くわ。もしダメなら放送室に予備もあるぞ」
そう言って朝陽は男子生徒と一緒に駆けていった。……なんて頼りになるんだろう、魔王様。思わず手を合わせたくなる。
「さすが朝陽だね」
「だねー」
さて、私は最終イベントの確認を――。そう思って歩き出そうとした瞬間。
「待って、ひよ」
夕燈がすっと私の腕をつかんだ。
「え? なに?」
「はい、これ。焼きそば」
袋を差し出しながら、優しく笑う。
「本当はゆっくり文化祭を回りたかったけど、そんな時間なさそうだからさ。せめてこれくらいは。俺が見てる前で、ちゃんと座って食べなさい」
そう言って手を引かれ、人の少ない階段下へ連れていかれる。
「お言葉に甘えて……いただきます」
割り箸を割ってふたを開けると、香ばしいソースの香りがふわっと広がった。
「どうぞ」
もぐもぐと食べ始める私を、夕燈はにこにこと眺めている。……食べにくい。
「ゆ、夕燈は食べたの?」
「食べたよ。はい、飲み物」
そう言って、ペットボトルのキャップまで開けて手渡してくれる。……もはや介護では?
「美味しい?」
こてんと首を傾げる夕燈に、
「うん。おいしい」
そう答えると、自然と頬が緩んだ。焼きそばを食べ終えると、
「デザートもあるんだ。チョコマフィン」
今度は小さなマフィンを差し出してくる。チョコクリームがのっていて美味しそう…じゃない。
「もう行かないと」
「大丈夫。これだけ食べていきな」
結局、その言葉に負けてマフィンまで食べ終える。すると、夕燈が自分の口元をちょんちょんと指差した。
「ついてるよ」
「え? どこ?」
口元を拭こうと手を伸ばした瞬間、その右手首をそっとつかまれる。次の瞬間夕燈の唇が、私の口元についたクリームをつまむように触れた。
「ごちそうさま」
ぺろりと舌を出して笑う夕燈に、
「ちょ! やめてよ!」
慌てて立ち上がる。
「なんで?」
こてんと首を傾げ、頬杖をつきながら上目遣いでこちらを見る。
「いや、が、学校だし!」
そう言うと、
「だめ?」
「だめでしょ! 見られたらどうすんの!」
思わず鼻息が荒くなる。
「大丈夫。誰もいないし……」
「もう!」
頬を膨らませる私を見て、夕燈はくすりと笑う。
「でも、学校でキスって背徳感あってたまんないね」
ふわりと微笑みながら見つめられ、その一言だけで心臓をぎゅっと鷲掴みにされる。……くぅ、かっこいい。もう、本当にずるい。
「掛上さん! こっち椅子が足りないんですけど!」
「それなら倉庫に余っているものがありますよ!」
「委員長!」
……やばい。忙しい。しんどい。
それでも、クラスの和カフェは吉川たちが「任せろ」と言ってくれたおかげで、私は安心して実行委員の仕事に集中できていた。
「忙しそうだなー」
「ひよ、大丈夫?」
聞き慣れた声に振り向くと、朝陽と夕燈が手を上げていた。高校三年生は自由参加だけれど、二人とも様子を見に来てくれたらしい。
「いや、もうしんどい。本当にちゃんと魔王様の言うこと聞いとけばよかった」
「おうおう、やっと分かったか。……って、誰が魔王だ。ったく」
朝陽は呆れたように肩をすくめる。その時。
「委員長! 機材トラブルでマイクの音が出ないって!」
また一人、慌てて駆け寄ってくる。またトラブル!?
思わず頭を抱えそうになると、
「俺、見に行くわ。もしダメなら放送室に予備もあるぞ」
そう言って朝陽は男子生徒と一緒に駆けていった。……なんて頼りになるんだろう、魔王様。思わず手を合わせたくなる。
「さすが朝陽だね」
「だねー」
さて、私は最終イベントの確認を――。そう思って歩き出そうとした瞬間。
「待って、ひよ」
夕燈がすっと私の腕をつかんだ。
「え? なに?」
「はい、これ。焼きそば」
袋を差し出しながら、優しく笑う。
「本当はゆっくり文化祭を回りたかったけど、そんな時間なさそうだからさ。せめてこれくらいは。俺が見てる前で、ちゃんと座って食べなさい」
そう言って手を引かれ、人の少ない階段下へ連れていかれる。
「お言葉に甘えて……いただきます」
割り箸を割ってふたを開けると、香ばしいソースの香りがふわっと広がった。
「どうぞ」
もぐもぐと食べ始める私を、夕燈はにこにこと眺めている。……食べにくい。
「ゆ、夕燈は食べたの?」
「食べたよ。はい、飲み物」
そう言って、ペットボトルのキャップまで開けて手渡してくれる。……もはや介護では?
「美味しい?」
こてんと首を傾げる夕燈に、
「うん。おいしい」
そう答えると、自然と頬が緩んだ。焼きそばを食べ終えると、
「デザートもあるんだ。チョコマフィン」
今度は小さなマフィンを差し出してくる。チョコクリームがのっていて美味しそう…じゃない。
「もう行かないと」
「大丈夫。これだけ食べていきな」
結局、その言葉に負けてマフィンまで食べ終える。すると、夕燈が自分の口元をちょんちょんと指差した。
「ついてるよ」
「え? どこ?」
口元を拭こうと手を伸ばした瞬間、その右手首をそっとつかまれる。次の瞬間夕燈の唇が、私の口元についたクリームをつまむように触れた。
「ごちそうさま」
ぺろりと舌を出して笑う夕燈に、
「ちょ! やめてよ!」
慌てて立ち上がる。
「なんで?」
こてんと首を傾げ、頬杖をつきながら上目遣いでこちらを見る。
「いや、が、学校だし!」
そう言うと、
「だめ?」
「だめでしょ! 見られたらどうすんの!」
思わず鼻息が荒くなる。
「大丈夫。誰もいないし……」
「もう!」
頬を膨らませる私を見て、夕燈はくすりと笑う。
「でも、学校でキスって背徳感あってたまんないね」
ふわりと微笑みながら見つめられ、その一言だけで心臓をぎゅっと鷲掴みにされる。……くぅ、かっこいい。もう、本当にずるい。

