「受験を控えているお二人には、ご迷惑をおかけしないよう十分配慮いたしますので」
そう言って頭を下げると、
「違うだろ?」
不機嫌そうな声が頭上から降ってきた。
「『朝陽様、お兄様、どうかお力添えいただけませんか』だろ?」
長い脚を組み替え、まるで魔王のように堂々と座る朝陽。
「一人で抱え込んでも効率悪いだろ。経験者に聞いた方がよっぽど早い。……なあ?」
夕燈は何も言わず、にこにことこちらを見ている。確かに朝陽の言う通りだ。ここは素直になろう。
「お願いします、お力添えをお願いします……魔王様」
ははーっと頭を下げる。
「おい、誰が魔王だ」
朝陽がぎろりと睨む。
「ふふっ」
そのやり取りを見て、夕燈が楽しそうに笑った。
◇
それからは二人にたくさん助けてもらった。朝陽は文化祭までのスケジュールを一緒に確認してくれて、去年の文化祭実行委員長だった先輩にも連絡を取ってくれた。
「去年困ったことは全部聞いとけ」そう言って、準備の流れや注意点まで細かく教えてもらった。……本当にいい人だ。そして、朝陽の人望もすごい。夕燈は文化祭の予算表を一緒に確認しながら、「ここ、計算合ってる?」と、細かな数字まで見てくれた。二人とも、本当に頼りになる。
私たちのクラスの出し物は和カフェ。備品を抱えて教室へ向かっていると、
「ねぇ、あの子、朝陽くんと夕燈くんの妹だよね? 文化祭実行委員長なんでしょ?」
「そうそう。目立ちたがりなんじゃない?」
「『私、頑張ってます』ってアピールしたいだけでしょ」
三年生の先輩たちの声が耳に入る。……違う。そんなつもりじゃない。俯いたまま歩いていると、
「ほら。半分持ってやる」
右隣から、朝陽が私の荷物をひょいと持ち上げた。
「俺も」
今度は左隣から夕燈が手を伸ばす。
「あ、ありがとう」
ほっと息をついた、その時。朝陽が陰口を言っていた女子生徒たちを、じろりと睨みつけた。……眼圧がすごい。先輩たちは慌てたように視線を逸らしていた。
教室の前まで荷物を運んでもらうと、中から男子たちの声が聞こえてきた。
「文化祭とか、マジだるいよな」
「わかるー」
「でも、真面目で良い子な掛上が全部やってくれるだろ」
胸がちくりと痛む。……やっぱり、そう思われてるんだ。そう思った、その時だった。
「えー! なんで!?」
勢いよく声を上げたのは吉川だった。
「文化祭って高校生活の一大イベントじゃん! せっかくなら本気で楽しもうぜ!」
そう言いながら輪の中へ入っていく。続いて恵那も口を開く。
「そうだよ。それに日和ばっかり負担かけすぎじゃない? 私たちもできることやろうよ」
「さんせーい!」
奈々が真っ先に手を挙げる。
「え? どうした、お前。珍しいじゃん」
男子がからかうように笑う。
「だって、本気でやった方が絶対楽しいじゃん。それに、ひよりんには掃除当番代わってもらって助けてもらったし」
奈々はそう言ってから、男子たちを顎で示した。
「……っていうか、あんたたちもでしょ?」
「あ」
一人の男子が思い出したように声を漏らす。
「湯沢さ、鼻血出したとき、真っ先にティッシュ持ってきてくれたの掛上じゃん」
隣の男子が肩を小突く。
「……お、おう」
「山田だってそうだろ?」
吉川が笑いながら続ける。
「ノート提出ギリギリだったとき、掛上が最後まで待って写させてくれたじゃん」
「いや……ほんと、あれは助かった」
「消しゴム忘れたときも貸してくれたし」
「俺、プリントなくしたとき予備もらったわ」
「あ、俺も」
一人が口にすると、次々と思い出したように声が上がる。
「……掛上って、結構いろいろ助けてくれてたんだな」
その一言で、教室が少しだけ静かになった。胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。今までやってきたことを、ちゃんと覚えていてくれた人がいた。それだけで、涙が出そうになるくらいうれしかった。
そう言って頭を下げると、
「違うだろ?」
不機嫌そうな声が頭上から降ってきた。
「『朝陽様、お兄様、どうかお力添えいただけませんか』だろ?」
長い脚を組み替え、まるで魔王のように堂々と座る朝陽。
「一人で抱え込んでも効率悪いだろ。経験者に聞いた方がよっぽど早い。……なあ?」
夕燈は何も言わず、にこにことこちらを見ている。確かに朝陽の言う通りだ。ここは素直になろう。
「お願いします、お力添えをお願いします……魔王様」
ははーっと頭を下げる。
「おい、誰が魔王だ」
朝陽がぎろりと睨む。
「ふふっ」
そのやり取りを見て、夕燈が楽しそうに笑った。
◇
それからは二人にたくさん助けてもらった。朝陽は文化祭までのスケジュールを一緒に確認してくれて、去年の文化祭実行委員長だった先輩にも連絡を取ってくれた。
「去年困ったことは全部聞いとけ」そう言って、準備の流れや注意点まで細かく教えてもらった。……本当にいい人だ。そして、朝陽の人望もすごい。夕燈は文化祭の予算表を一緒に確認しながら、「ここ、計算合ってる?」と、細かな数字まで見てくれた。二人とも、本当に頼りになる。
私たちのクラスの出し物は和カフェ。備品を抱えて教室へ向かっていると、
「ねぇ、あの子、朝陽くんと夕燈くんの妹だよね? 文化祭実行委員長なんでしょ?」
「そうそう。目立ちたがりなんじゃない?」
「『私、頑張ってます』ってアピールしたいだけでしょ」
三年生の先輩たちの声が耳に入る。……違う。そんなつもりじゃない。俯いたまま歩いていると、
「ほら。半分持ってやる」
右隣から、朝陽が私の荷物をひょいと持ち上げた。
「俺も」
今度は左隣から夕燈が手を伸ばす。
「あ、ありがとう」
ほっと息をついた、その時。朝陽が陰口を言っていた女子生徒たちを、じろりと睨みつけた。……眼圧がすごい。先輩たちは慌てたように視線を逸らしていた。
教室の前まで荷物を運んでもらうと、中から男子たちの声が聞こえてきた。
「文化祭とか、マジだるいよな」
「わかるー」
「でも、真面目で良い子な掛上が全部やってくれるだろ」
胸がちくりと痛む。……やっぱり、そう思われてるんだ。そう思った、その時だった。
「えー! なんで!?」
勢いよく声を上げたのは吉川だった。
「文化祭って高校生活の一大イベントじゃん! せっかくなら本気で楽しもうぜ!」
そう言いながら輪の中へ入っていく。続いて恵那も口を開く。
「そうだよ。それに日和ばっかり負担かけすぎじゃない? 私たちもできることやろうよ」
「さんせーい!」
奈々が真っ先に手を挙げる。
「え? どうした、お前。珍しいじゃん」
男子がからかうように笑う。
「だって、本気でやった方が絶対楽しいじゃん。それに、ひよりんには掃除当番代わってもらって助けてもらったし」
奈々はそう言ってから、男子たちを顎で示した。
「……っていうか、あんたたちもでしょ?」
「あ」
一人の男子が思い出したように声を漏らす。
「湯沢さ、鼻血出したとき、真っ先にティッシュ持ってきてくれたの掛上じゃん」
隣の男子が肩を小突く。
「……お、おう」
「山田だってそうだろ?」
吉川が笑いながら続ける。
「ノート提出ギリギリだったとき、掛上が最後まで待って写させてくれたじゃん」
「いや……ほんと、あれは助かった」
「消しゴム忘れたときも貸してくれたし」
「俺、プリントなくしたとき予備もらったわ」
「あ、俺も」
一人が口にすると、次々と思い出したように声が上がる。
「……掛上って、結構いろいろ助けてくれてたんだな」
その一言で、教室が少しだけ静かになった。胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。今までやってきたことを、ちゃんと覚えていてくれた人がいた。それだけで、涙が出そうになるくらいうれしかった。

