数日後、
「病院のボランティアで息子が日和さんにお世話になったそうで、お礼を伝えたくて」
そう伝え、一人で施設を訪れた。出迎えてくれた施設長は、穏やかな表情で言った。
「日和ちゃんは、幼い頃の事故の影響で記憶が曖昧になることがあります。息子さんと会ったことも、覚えていないかもしれません」
「……そうですか」
静かに頷き、施設の中へ案内される。そこで、一人の少女がこちらへ歩いてきた。
「こんにちは」
色白で、大きな瞳が印象的な、小柄な女の子だった。
「こんにちは」
人懐っこい笑顔を向けてくる。
「君が……日和ちゃん?」
「うん、日和!」
にこっと笑ったあと、不思議そうに首を傾げた。
「おじさん、大丈夫? 疲れてる?」
幼い子に心配されるなんて思ってもいなかった。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
「ああ……少し疲れてるかな。でも、大丈夫だよ」
そう答えると、日和はぱっと笑顔になった。
「ちょっと待ってて!」
そう言って施設の中へ駆けていく。しばらくして戻ってきた日和の手には、小さなしおりが握られていた。
「はい!」
差し出されたしおりには、押し花になった四葉のクローバーが挟まれていた。
「四葉のクローバーなの。幸せになれるんだよ」
その瞬間だった。
「おとうさん!」
幼いひよりが笑いながら駆け寄ってくる。
『四葉のクローバー見つけた! あげる! 幸せになれるんだよ!』あの日の笑顔が、日和の姿と重なった。堪えていたものが、一気にあふれ出す。
「……っ」
涙が止まらなかった。
「おじさん?」
不安そうに覗き込む日和に、何も言えない。ただ頷きながら、声を殺して泣いた。その優しさが、どうしようもなく温かかった。
――それから、何度も悩んだ。これは間違っているのかもしれない。亡くなった娘の面影を、別の子に重ねようとしている。そんなことは許されないのかもしれない。それでも。京子が笑ってくれるなら。朝陽と夕燈が、もう一度家族として笑えるなら。このまま京子まで失うよりは、ずっといい。そう、自分に言い聞かせた。そして、京子を木漏れ日の家へ連れて行った。
少女を見た瞬間、京子は目を見開いた。
「ひより……」
震える声でそう呟くと、ゆっくりと日和へ歩み寄る。そして次の瞬間、強く抱きしめた。
「会いたかった……」
泣きながら、それでも笑っていた。――久しぶりに見る笑顔だった。その姿を見た瞬間、胸が締めつけられた。これでよかったのだろうか。亡くなった娘を重ねるなんて、間違っている。
そう思う自分と、京子が笑ってくれたことに救われる自分がいた。ああ……連れてきてよかった。心の底から、そう思ってしまった。
「病院のボランティアで息子が日和さんにお世話になったそうで、お礼を伝えたくて」
そう伝え、一人で施設を訪れた。出迎えてくれた施設長は、穏やかな表情で言った。
「日和ちゃんは、幼い頃の事故の影響で記憶が曖昧になることがあります。息子さんと会ったことも、覚えていないかもしれません」
「……そうですか」
静かに頷き、施設の中へ案内される。そこで、一人の少女がこちらへ歩いてきた。
「こんにちは」
色白で、大きな瞳が印象的な、小柄な女の子だった。
「こんにちは」
人懐っこい笑顔を向けてくる。
「君が……日和ちゃん?」
「うん、日和!」
にこっと笑ったあと、不思議そうに首を傾げた。
「おじさん、大丈夫? 疲れてる?」
幼い子に心配されるなんて思ってもいなかった。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
「ああ……少し疲れてるかな。でも、大丈夫だよ」
そう答えると、日和はぱっと笑顔になった。
「ちょっと待ってて!」
そう言って施設の中へ駆けていく。しばらくして戻ってきた日和の手には、小さなしおりが握られていた。
「はい!」
差し出されたしおりには、押し花になった四葉のクローバーが挟まれていた。
「四葉のクローバーなの。幸せになれるんだよ」
その瞬間だった。
「おとうさん!」
幼いひよりが笑いながら駆け寄ってくる。
『四葉のクローバー見つけた! あげる! 幸せになれるんだよ!』あの日の笑顔が、日和の姿と重なった。堪えていたものが、一気にあふれ出す。
「……っ」
涙が止まらなかった。
「おじさん?」
不安そうに覗き込む日和に、何も言えない。ただ頷きながら、声を殺して泣いた。その優しさが、どうしようもなく温かかった。
――それから、何度も悩んだ。これは間違っているのかもしれない。亡くなった娘の面影を、別の子に重ねようとしている。そんなことは許されないのかもしれない。それでも。京子が笑ってくれるなら。朝陽と夕燈が、もう一度家族として笑えるなら。このまま京子まで失うよりは、ずっといい。そう、自分に言い聞かせた。そして、京子を木漏れ日の家へ連れて行った。
少女を見た瞬間、京子は目を見開いた。
「ひより……」
震える声でそう呟くと、ゆっくりと日和へ歩み寄る。そして次の瞬間、強く抱きしめた。
「会いたかった……」
泣きながら、それでも笑っていた。――久しぶりに見る笑顔だった。その姿を見た瞬間、胸が締めつけられた。これでよかったのだろうか。亡くなった娘を重ねるなんて、間違っている。
そう思う自分と、京子が笑ってくれたことに救われる自分がいた。ああ……連れてきてよかった。心の底から、そう思ってしまった。

