「……私は夕燈と仲良くなりたい。朝陽と、みんなと本物の家族になりたい」
ひよの声は、どこまでもまっすぐで温かかった。その願いが、俺には眩しすぎた。身体が弱くて、何度も入退院を繰り返してきた俺。同じ顔をした朝陽は健康で、運動も勉強もできて、誰からも慕われていた。ずっと羨ましかった。だからこそ、こんなふうに真っ直ぐ想いを伝えてくれた人は、ひよが初めてだった。
「そうだね。僕もひよと仲良くなりたい」
困ったように笑って答える。本当は違う。
「ひよはそのままでいい」
「誰の代わりじゃなくても、家族になれる」
そう伝えたかった。でも、その言葉は胸の奥で震えたまま、声にならなかった。だから決めた。家族みんなが日和を「ひより」として見ても、俺だけは日和自身を見よう、と。
ひよは祠で話したことを、しばらくすると忘れてしまう。幼い頃の事故やトラウマが原因なのだろう。それでもよかった。ひよが笑っていてくれるなら。そばにいられるなら、それだけで十分だった。喘息も少しずつ落ち着き、中学生になる頃には学校へ通えるようになった。ひよと過ごす毎日は楽しかった。
祠で交わした約束も。ひよりを失った罪も。少しずつ心の奥へ沈んでいくような気がしていた。
高校生になった。どうしても、ひよと同じ高校へ通いたかった。必死に勉強を教えて、一緒の高校を目指した。朝陽も同じ気持ちだったのだろう。文句を言いながらも、ひよへ勉強を教えていた。朝陽は昔から変わらない。優しくて、面倒見がよくて、頼りになる。いつも誰かの前を歩いて、手を差し伸べる。そんな兄が、俺はずっと眩しかった。
ひよのことが好きだった。大切で、愛おしかった。だからこそ、兄妹ごっこを続けるのが苦しかった。ひよは俺を兄としてみて笑う。そのたびに、「兄」でいなければいけない自分と、本当の気持ちとの間で胸が軋んだ。
もし。俺たちが兄妹じゃないと知ったら。ひよは、どう思うだろう。きっと選ぶのは朝陽だ。健康で、強くて、優しくて。誰よりも頼れる存在。俺とは違う。まるで光みたいな人だから。そう思うだけで、胸が痛かった。
ひよに「デートしよう」と声をかけ、祠へ連れてきた。本当なら、初めてのデートに選ぶような場所じゃない。それでも、ここへ来たかった。毎月欠かさず手を合わせる俺を見てほしかった。ひよりを忘れていないことを。罪を忘れないと決めていることを。そして何より、家族がひよを「ひより」として見ていても、俺だけは違うと伝えたかった。もう隠しているのは苦しかった。兄としてじゃない。夕燈として見てほしい。ひよりの代わりじゃなく、日和として生きていいんだと伝えたかった。……なんて、自分勝手なんだろう。そんなことを考えながら、祠の前で横顔を見つめていた。
吉川と一緒に歩いていた、あの日。胸の奥が焼けるように熱くなった。嫉妬だった。同級生として、自然に隣を歩ける。名前を呼んで笑い合える。そんな当たり前が、どうしようもなく羨ましかった。俺は昔からそうだ。誰かを羨み。自分と比べ。黒い感情を胸の奥へ押し込めて、笑ってきた。醜くて、弱くて、最低だ。……こんな俺を、ひよが好きになるはずなんてない。
ひよの声は、どこまでもまっすぐで温かかった。その願いが、俺には眩しすぎた。身体が弱くて、何度も入退院を繰り返してきた俺。同じ顔をした朝陽は健康で、運動も勉強もできて、誰からも慕われていた。ずっと羨ましかった。だからこそ、こんなふうに真っ直ぐ想いを伝えてくれた人は、ひよが初めてだった。
「そうだね。僕もひよと仲良くなりたい」
困ったように笑って答える。本当は違う。
「ひよはそのままでいい」
「誰の代わりじゃなくても、家族になれる」
そう伝えたかった。でも、その言葉は胸の奥で震えたまま、声にならなかった。だから決めた。家族みんなが日和を「ひより」として見ても、俺だけは日和自身を見よう、と。
ひよは祠で話したことを、しばらくすると忘れてしまう。幼い頃の事故やトラウマが原因なのだろう。それでもよかった。ひよが笑っていてくれるなら。そばにいられるなら、それだけで十分だった。喘息も少しずつ落ち着き、中学生になる頃には学校へ通えるようになった。ひよと過ごす毎日は楽しかった。
祠で交わした約束も。ひよりを失った罪も。少しずつ心の奥へ沈んでいくような気がしていた。
高校生になった。どうしても、ひよと同じ高校へ通いたかった。必死に勉強を教えて、一緒の高校を目指した。朝陽も同じ気持ちだったのだろう。文句を言いながらも、ひよへ勉強を教えていた。朝陽は昔から変わらない。優しくて、面倒見がよくて、頼りになる。いつも誰かの前を歩いて、手を差し伸べる。そんな兄が、俺はずっと眩しかった。
ひよのことが好きだった。大切で、愛おしかった。だからこそ、兄妹ごっこを続けるのが苦しかった。ひよは俺を兄としてみて笑う。そのたびに、「兄」でいなければいけない自分と、本当の気持ちとの間で胸が軋んだ。
もし。俺たちが兄妹じゃないと知ったら。ひよは、どう思うだろう。きっと選ぶのは朝陽だ。健康で、強くて、優しくて。誰よりも頼れる存在。俺とは違う。まるで光みたいな人だから。そう思うだけで、胸が痛かった。
ひよに「デートしよう」と声をかけ、祠へ連れてきた。本当なら、初めてのデートに選ぶような場所じゃない。それでも、ここへ来たかった。毎月欠かさず手を合わせる俺を見てほしかった。ひよりを忘れていないことを。罪を忘れないと決めていることを。そして何より、家族がひよを「ひより」として見ていても、俺だけは違うと伝えたかった。もう隠しているのは苦しかった。兄としてじゃない。夕燈として見てほしい。ひよりの代わりじゃなく、日和として生きていいんだと伝えたかった。……なんて、自分勝手なんだろう。そんなことを考えながら、祠の前で横顔を見つめていた。
吉川と一緒に歩いていた、あの日。胸の奥が焼けるように熱くなった。嫉妬だった。同級生として、自然に隣を歩ける。名前を呼んで笑い合える。そんな当たり前が、どうしようもなく羨ましかった。俺は昔からそうだ。誰かを羨み。自分と比べ。黒い感情を胸の奥へ押し込めて、笑ってきた。醜くて、弱くて、最低だ。……こんな俺を、ひよが好きになるはずなんてない。

