「でもやっぱり……ひよは可哀想だよ」
夕燈は寂しそうに笑った。私はゆっくりと首を横に振る。
「私、夕燈に会えて嬉しいよ。だから、可哀想なんかじゃない」
その言葉に、夕燈は少し目を見開き、それから困ったように笑った。
「……ひよは、優しいね」
視線を落とし、小さく呟く。
「……僕が、妹を殺したようなものなんだ」
「そうなの?」
「喧嘩したんだ。『出ていけ』って言っちゃった。そのあと……ひよりはいなくなった」
ぽつり、ぽつりと零れる声。あの日の夕燈は、今にも消えてしまいそうだった。初めて会った病院でも、いつも優しく笑ってくれた。そんな夕燈を、私は失いたくなかった。
「……私は、夕燈と仲良くなりたい」
顔を上げて、まっすぐ伝える。
「朝陽とも、お父さんとも、お母さんとも。みんなと、本当の家族になりたい」
夕燈は少しだけ目を潤ませ、それでも微笑んだ。
「そうだね」
小さく頷く。
「僕も、ひよと仲良くなりたい」
そう言って差し出された手を、私はぎゅっと握り返した。二人で手を繋ぎながら、祠をあとにした。どうして、私はこんな大切な記憶を忘れていたんだろう。あの日を境に、夕燈との距離は少しずつ近づいていった。「ひよ」そう呼んで、優しく笑ってくれるようになった。喘息がひどい日は、外では遊べない。だから一緒に本を読んだり、絵を描いたり、折り紙を折ったり。静かだけれど、温かな時間だった。
朝陽とは、なかなか打ち解けられなかった。それでも朝陽は何度も夕燈の真似をして、私をからかってきた。
「ひよ、一緒に遊ぼう」
夕燈そっくりの優しい笑顔。だけど私は笑って首を傾げる。
「いいよ!朝陽、サッカーする?」
「なんでわかるんだよ!」
毎回見破られて、不満そうに頬を膨らませる。
「ねぇ!遊ばないの!?」
「遊ばない」
ぷいっと背を向けて歩いていく朝陽が、なんだか可笑しくて笑ってしまう。気難しい人だった。でも、本当は誰よりも面倒見が良かった。同級生の男の子にからかわれていたときも、迷わず私の前に立ち、睨みつけて追い払ってくれた。口は悪い。でも、困ったときはいつも手を差し伸べてくれる。朝陽は、頼れるお兄ちゃんだった。
「ひよ、おいで」
「ひよ! 早く来い」
そう言って手を引いてくれたのは、朝陽と夕燈だった。誕生日プレゼントだって、ちゃんと十一月二十一日、本当の私の誕生日に渡してくれていた。
――そうだ。お父さんは時々、私の好きなチョコレートケーキを買ってきてくれた。ひよりが好きなショートケーキではなくて。
お母さんは言う。「ひよりは、ピンクが好きよね」きっと、お母さんの中では、私はまだひよりと重なっている。それでも――。毎日作ってくれた温かいご飯も。「おかえり」と迎えてくれた優しい声も。初めて抱きしめてくれた、あの日のぬくもりも。全部、お母さんが私にくれたものだった。
私は、お父さんも、お母さんも、朝陽も、夕燈も大好きだ。だから。もし、お母さんが私をひよりとして重ねることで笑えるのなら。私は、それでもいい。そうすれば、これからも家族でいられる。大好きな人たちが笑っていてくれる。それだけで、私は幸せだから。自己犠牲なのかもしれない。ただの自己満足なのかもしれない。それでも私は、誰かに強制されたから”ひより”になるんじゃない。私は、自分で選ぶ。大好きな家族の前では――“ひより”として生きることを。
夕燈は寂しそうに笑った。私はゆっくりと首を横に振る。
「私、夕燈に会えて嬉しいよ。だから、可哀想なんかじゃない」
その言葉に、夕燈は少し目を見開き、それから困ったように笑った。
「……ひよは、優しいね」
視線を落とし、小さく呟く。
「……僕が、妹を殺したようなものなんだ」
「そうなの?」
「喧嘩したんだ。『出ていけ』って言っちゃった。そのあと……ひよりはいなくなった」
ぽつり、ぽつりと零れる声。あの日の夕燈は、今にも消えてしまいそうだった。初めて会った病院でも、いつも優しく笑ってくれた。そんな夕燈を、私は失いたくなかった。
「……私は、夕燈と仲良くなりたい」
顔を上げて、まっすぐ伝える。
「朝陽とも、お父さんとも、お母さんとも。みんなと、本当の家族になりたい」
夕燈は少しだけ目を潤ませ、それでも微笑んだ。
「そうだね」
小さく頷く。
「僕も、ひよと仲良くなりたい」
そう言って差し出された手を、私はぎゅっと握り返した。二人で手を繋ぎながら、祠をあとにした。どうして、私はこんな大切な記憶を忘れていたんだろう。あの日を境に、夕燈との距離は少しずつ近づいていった。「ひよ」そう呼んで、優しく笑ってくれるようになった。喘息がひどい日は、外では遊べない。だから一緒に本を読んだり、絵を描いたり、折り紙を折ったり。静かだけれど、温かな時間だった。
朝陽とは、なかなか打ち解けられなかった。それでも朝陽は何度も夕燈の真似をして、私をからかってきた。
「ひよ、一緒に遊ぼう」
夕燈そっくりの優しい笑顔。だけど私は笑って首を傾げる。
「いいよ!朝陽、サッカーする?」
「なんでわかるんだよ!」
毎回見破られて、不満そうに頬を膨らませる。
「ねぇ!遊ばないの!?」
「遊ばない」
ぷいっと背を向けて歩いていく朝陽が、なんだか可笑しくて笑ってしまう。気難しい人だった。でも、本当は誰よりも面倒見が良かった。同級生の男の子にからかわれていたときも、迷わず私の前に立ち、睨みつけて追い払ってくれた。口は悪い。でも、困ったときはいつも手を差し伸べてくれる。朝陽は、頼れるお兄ちゃんだった。
「ひよ、おいで」
「ひよ! 早く来い」
そう言って手を引いてくれたのは、朝陽と夕燈だった。誕生日プレゼントだって、ちゃんと十一月二十一日、本当の私の誕生日に渡してくれていた。
――そうだ。お父さんは時々、私の好きなチョコレートケーキを買ってきてくれた。ひよりが好きなショートケーキではなくて。
お母さんは言う。「ひよりは、ピンクが好きよね」きっと、お母さんの中では、私はまだひよりと重なっている。それでも――。毎日作ってくれた温かいご飯も。「おかえり」と迎えてくれた優しい声も。初めて抱きしめてくれた、あの日のぬくもりも。全部、お母さんが私にくれたものだった。
私は、お父さんも、お母さんも、朝陽も、夕燈も大好きだ。だから。もし、お母さんが私をひよりとして重ねることで笑えるのなら。私は、それでもいい。そうすれば、これからも家族でいられる。大好きな人たちが笑っていてくれる。それだけで、私は幸せだから。自己犠牲なのかもしれない。ただの自己満足なのかもしれない。それでも私は、誰かに強制されたから”ひより”になるんじゃない。私は、自分で選ぶ。大好きな家族の前では――“ひより”として生きることを。

