祈りを紡ぐ明日から

するとコンコン、とノックが聞こえる。
「ひよ……大丈夫?顔みせて」
優しい声。この話し方をするのはどっちか、すぐわかる。けど――
「大丈夫だよ。朝陽」
その瞬間、扉越しでも空気が変わったのがわかった。すぐにため息が聞こえる。
「すげぇな、ひよは。完全に夕燈の真似したのに」
ケラケラと笑う。
「なんで真似すんのさ」
「俺だと開けないだろ?」
……図星だ。
「大丈夫。今日はもう寝るからほっといて」
そう言うと――
「いやだけど?」
「……なんでよ」
私なんて代わりのくせに。
「顔ぐらい見せたら?」
「……」
これ、ずっといる気なのだろうか。朝陽はしつこい。渋々、扉を開ける。
「ほんと……なに?」
睨むと、朝陽は目を見開いた。それから真剣な声で言う。
「なに?吉川ってやつに失恋でもしたのか?」
「なんでここで吉川出てくんのよ」
思わずため息が漏れる。
「泣いただろ?」
……だから朝陽に顔を見せたくなかった。そっとしてくれない。ズカズカ踏み込んでくる。だから――
「うん、もう大号泣だよ。いま話題になってる映画見たら涙止まらなくて。食欲も何もない」
そう言った。
「あっそ。てっきりあの吉川に泣かされたのかと思った」
腕を組みながら見下ろしてくる。
「そんなんじゃないよ。友達だし。良いやつだよ」
明るくて優しい。唯一、気を許せる男友達。
「ふーん。男なんてみんな下心あるんだから気をつけろよ」
その言葉に、私はわざと意地悪を返す。
「ねぇ、それって朝陽も?私のこと心配して見にきてくれたんでしょ?」
ほんの一瞬、瞳の奥が揺れた気がした。でもすぐに、
「ばかか。お前は妹だから心配してんだよ」
そう言って頭を撫でる大きな手。嬉しいはずなのに……ちっとも嬉しくない。私は本当の妹じゃないんだから。
「……重い」
「風呂ぐらい入れよ。きたねぇ」
そう言って部屋から去っていった。むかつく。でも確かに、泣き腫らした目で寝るのは嫌だ。とりあえずお風呂に入ろう。そう思って脱衣所へ向かうためリビングを通ると――
「ひより、大丈夫?」
母が心配そうにこちらを見る。
「大丈夫。ちょっと夏バテ。とりあえずお風呂入る」
「そうめんとかあるよ?食べる?」
良かれと思って言ってくれている言葉なのに、胸が痛くてイラつく。
「いや、いい」
そう言って、私は脱衣所の扉に手をかけた。