祈りを紡ぐ明日から

「吉川くん、送ってくれてありがとう。ここでいいよ?」
夕燈がすっと私の肩に触れた。その声はいつもより低い。なんで二人とも怒ってるんだろう。隠し事してるのはそっちなのに。
「あ、はい。じゃあまた」
「ありがと、吉川。またね!」
そう言って手を振る。その瞬間、朝陽と夕燈が吉川に向けた冷たい視線が刺さる。……なんなのよ、ほんと。二人に両側を固められて歩く。
「ねぇ、ひよ。吉川くんと今日、何してたの?」
夕燈の声が冷たい。肩が跳ねそうになるのを必死に抑えて、なんでもないふうを装う。
「漫画買いに行く途中で偶然あったの。それで、かき氷食べに行った」
……食べ損ねたけど。
「へぇー」
夕燈の声はさらに冷たくなる。
「おい、ひよ。最新刊は?」
朝陽がじろっと睨む。
「買い忘れた」
漫画のことなんて、もう頭から抜けていた。
「そっちこそ、何してたのよ」
わかってて、わざと聞いた。でも――
「別に、塾の自習室いってた」
「俺も」
二人は当たり前みたいに誤魔化す。嘘をつくのが上手い。私にはバレてるのに。胸の奥がじわっと熱くなる。怒りなのか、悲しみなのか、自分でもわからない。ただ、二人の“平然とした嘘”が、今はやけに痛かった。そのまま家に着き、中へ入る。
「ひより、遅かったわね」
母が笑顔で迎える。その笑顔に胸がぎゅっとなる。――その“ひより”は、私じゃないよね?でも、まだ知らないことが多すぎる。
「友達と遊んでて」
「でも、今度からはもう少し早く教えてね。あ、それとピンクのワンピース、全然着てないじゃない」
母の言葉に、私はしれっと嘘をつく。
「いや、あんなに綺麗なワンピース着るのが勿体なくて」
本当は好みじゃない。それだけじゃない。明らかに“私のための服”じゃないから。
「そんなこと気にしなくてもいいのに」
ふふっと笑う母に、私は目を伏せた。その様子を、朝陽と夕燈がどんな目で見ているのか――気になったけれど、怖くて見られなかった。