祈りを紡ぐ明日から

「乗ろうぜ」
そう言った吉川の腕を掴んだ。
「……待って」
「どうした?乗り過ごすぞ」
「あ、あの……」
微かに震える私の手を見た吉川が、不安そうに眉を寄せる。
「調子悪い?」
ふるふると首を振る。電車の扉が閉まり、ゆっくりと動き出していく。そして——向かいのホーム。
「……朝陽と夕燈……あと、お父さんもいる」
吉川も目を細める。ただの私服だったら気にも留めなかった。手を振って「おーい」とできた。でも——喪服だった。黒い服に身を包んだ三人は、妙に目立っていた。胸がぎゅっと掴まれる。
「ねぇ、吉川。追いかけてもいい?」
震える声。吉川はグッと私の手を引いた。
「なら急ぐぞ。階段ダッシュすればまだ間に合うかも!」
その言葉に、何も考えず二人で走り出す。ホーム内が空いていたおかげで、人にぶつからずにいけた。ギリギリ間に合いそうだ。三人が乗り込んだ車両とは別の車両に飛び乗る。
「はあー……はー……」
「さすがにきつっ」
二人で汗を拭う。
「それにしても、なんで喪服なんだ?葬式?」
吉川がこちらを見る。
「わからない。でも何も言ってなかったし……それに、お母さんもいつも通り出かけて行ったし」
私はこっそりと三人を見つめる。黒い服が、胸の奥をざわつかせる。
「ふーん」
吉川もちらりと三人を見る。
「ってか、巻き込んでごめん」
そう言うと——
「気にすんなよ。どうせ暇だし。最後まで付き合うぞ」
吉川の明るい笑顔に、救われる。
「ありがとう」
ほんと、いいやつ。三人が駅に降りたのを確認して、帽子を深くかぶり、ついていく。駅からタクシーに乗る三人。
「ここから移動か」
「私たちもタクシー乗ろう」
そう言って、タクシーの運転手さんに——
「前の車、追ってください!」
吉川が言うと、運転手さんが目を丸くする。
「え?」
「あの、お願いします!」
私が頭を下げると、
「おう、わかったよ」
タクシーが動き出す。私がしんみりしていると、吉川があえて明るい声で言う。
「こんなセリフ初めて言ったわー。貴重な経験」
「確かに」
思わず笑みがこぼれる。そして、タクシーが到着した。スマホで決済を終え、前のタクシーから降りてきた朝陽がこちらを見たような気がして——
「やば、頭下げて! 吉川!」
「うおっ!」
グッとしゃがみこむ。
「う、運転手さん、行きました!?」
「ああ。えっと……ほんとに大丈夫?」
「大丈夫です」
「失礼しました!」
そう言って、私たちはこっそりとあとをつける。それでも胸の奥のざわつきは、もう誤魔化せなかった。