二十二時。リビングで一人テレビを見ていた。幼馴染三人組の恋愛ドラマ——見事に一方通行で切ない。好きな人、か。ふと頭に浮かんだのは、幼い頃に見た少年の姿。名前も顔も思い出せないのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。次に浮かんだのは夕燈だった。優しくて穏やかで、控えめに笑う。蝶みたいに儚くて、どこかに行ってしまいそうな危うさを持つ兄。私は妹として、兄が好きなだけ。夕燈も妹として私を大事にしてくれている——そう思う。朝陽もそう。口は悪いけど、面倒見がよくて、私が困っているときはいつも助けてくれる。だからこの感情は、ドラマみたいな恋とは違う。あんなに顔が良くて、なんでも出来る兄達が私を見てくれるのは、妹だからだ。それ以上でも以下でもない。
ふと、玄関から物音がした。父が帰ってきた。弁護士の仕事はいつも忙しく、帰りは遅い。
「おかえり、お父さん」
「ただいま」
穏やかに笑いながらネクタイを外す。少し白髪の混じった髪、優しい目元。朝陽と夕燈は父にそっくりだ。その仕草はいつも通りなのに、どこか疲れが滲んでいた。
「いつもお疲れ様」
そう言うと、父は少し目を丸くしてから、手に持っていた箱を見せた。
「これ、休憩中に買ってきたんだ」
ケーキ屋の箱。胸がふわっと弾む。
「ありがとう」
開けると、濃厚なチョコレートが見えた。
「チョコレートケーキ!」
「うん。日和はチョコレートが好きだろ」
「嬉しい〜食べたかったんだよねー。お母さんはさ、私がいちごショート好きだと思ってるから」
そう言いながら、フォークとお皿を取り出す。
「……そうか。日和にしか買ってないから、内緒だぞ」
父の声がぽつりと落ちる。その声がかすかに震えていたことに、私は気づかなかった。チョコレートケーキの嬉しさで胸がいっぱいだったせいだ。一口頬張る。ビターなチョコと濃厚な甘さが広がる。幸せ。
父が脱衣所へ向かい、入れ替わるように朝陽がリビングへ入ってきた。
「こんな時間にケーキとか太るぞ」
呆れたように言いながら、私の皿をちらりと見る。
「いいの! あ、あげないからね」
両手で皿を隠す。
「いらねぇよ」
そう言って、ずかっとソファに腰を下ろす。
「んー、おいしい」
朝陽は何か言いたげに、じっとこちらを見る。
「ほしいの? 一口だけならいいけど」
「……ちがう」
「はいはい」
私は朝陽の視線を無視して、ケーキを食べ切った。その間ずっと、朝陽の目は私の皿ではなく——私の表情を見ていたことに私は気づいていなかった。
ふと、玄関から物音がした。父が帰ってきた。弁護士の仕事はいつも忙しく、帰りは遅い。
「おかえり、お父さん」
「ただいま」
穏やかに笑いながらネクタイを外す。少し白髪の混じった髪、優しい目元。朝陽と夕燈は父にそっくりだ。その仕草はいつも通りなのに、どこか疲れが滲んでいた。
「いつもお疲れ様」
そう言うと、父は少し目を丸くしてから、手に持っていた箱を見せた。
「これ、休憩中に買ってきたんだ」
ケーキ屋の箱。胸がふわっと弾む。
「ありがとう」
開けると、濃厚なチョコレートが見えた。
「チョコレートケーキ!」
「うん。日和はチョコレートが好きだろ」
「嬉しい〜食べたかったんだよねー。お母さんはさ、私がいちごショート好きだと思ってるから」
そう言いながら、フォークとお皿を取り出す。
「……そうか。日和にしか買ってないから、内緒だぞ」
父の声がぽつりと落ちる。その声がかすかに震えていたことに、私は気づかなかった。チョコレートケーキの嬉しさで胸がいっぱいだったせいだ。一口頬張る。ビターなチョコと濃厚な甘さが広がる。幸せ。
父が脱衣所へ向かい、入れ替わるように朝陽がリビングへ入ってきた。
「こんな時間にケーキとか太るぞ」
呆れたように言いながら、私の皿をちらりと見る。
「いいの! あ、あげないからね」
両手で皿を隠す。
「いらねぇよ」
そう言って、ずかっとソファに腰を下ろす。
「んー、おいしい」
朝陽は何か言いたげに、じっとこちらを見る。
「ほしいの? 一口だけならいいけど」
「……ちがう」
「はいはい」
私は朝陽の視線を無視して、ケーキを食べ切った。その間ずっと、朝陽の目は私の皿ではなく——私の表情を見ていたことに私は気づいていなかった。

