祈りを紡ぐ明日から

朝陽と夕燈と並んで学校へ向かう。朝の通学路は、いつも騒がしい。隣にこの二人がいるせいだ。
「朝陽先輩!夕燈先輩!おはようございます!」
「おはよ」
「おー」
二人が軽く返すと、後輩たちの黄色い声が一斉に上がる。
「きゃー!今日もかっこいい!」
「ねぇ、隣の人だれ?彼女?」
「違う違う。妹だって」
「えー、似てない〜!」
……聞こえてるんだけど。思わず頬をぷくっと膨らませる。だから一緒に来たくないのに。二人は当たり前のように隣を歩く。
「気にすんなよ」
「そうだよ、ひよ」
二人がフォローしてくれる。
「へいへい。どうせ私は凡人ですよー」
そういって、肩をすくめる。
「お前が勝手に言ってんだろ」
朝陽が呆れたように笑い、
「ひよは、そのままで十分可愛いよ?」
夕燈が柔らかく笑った。
「じゃあな、寝るなよ」
そう言って朝陽は私の頭を乱暴に撫でる。ボサボサになるやめてくれ。
「またね」
そして夕燈はひらりと手を振る。三年の教室へ向かう階段を上がっていく二人の背中は、いつもみたいに軽くて、でもどこか遠い。
教室に入ると、田中恵那(たなか えな)がすぐに気づいて手を振ってきた。揺れるポニーテールが元気そのもの。
「おはよー、日和。朝から目立ってたねー」
「もう、からかわないでよ。恵那」
恵那はにやにやしながら私の肩をつつく。
「あんなイケメンな兄達いるとか羨ましすぎるわ」
「やだよー。目立つし、しかも二人がスペック高すぎて私が浮く」
わざと明るく言うと、
「それでも羨ましいよー、あんなにかっこいいんだもん」
完全に目がハート。
「それよりさ、日和。最近調子悪い?
顔色悪いし、目の下のクマすごいよ?」
恵那が心配そうに覗き込む。
「…実は、悪夢にうなされてて」
「悪夢?」
恵那が不安そうに首を傾げる。
「うん、だれかに殺される夢」
あえて双子のどちらかとは言わない。だって、顔はよく見えなかったし。
「それはこわいね」
恵那が眉を寄せながら言う。でも、すぐに続けた。
「あれ、でもさ。殺される夢って案外悪い夢じゃないみたいだよ」
「え?そうなの?」
思わず顔を上げる。
恵那はスマホを操作しながら、画面をちらっと見せてくる。
「リセットって意味合いもあるんだって。ちなみにそれって、知り合い?」
「あー、たぶん」
「それなら、人間関係の大きな変化、運気の好転、そして相手との関係を見直すサインだって!」
「へぇー」
双子の兄達との関係が変わるってこと?
「だからそんなに気にしなくて平気だよ」
恵那が笑うと、少しだけ肩の力が抜けた。そのタイミングでチャイムが鳴り、恵那は手を振って席に戻る。私も自分の席に座った。
それでも——何度も同じ夢を見る。そして、はっきりと首に残る感触。ただの夢にしては、あまりにも生々しい。そっと首に触れる。皮膚の奥がじん、と疼く。予知夢とかじゃないといいけど。

先生が入って来て授業が始まった。机の上に教科書を置いた瞬間、さっきの声がふと頭をよぎる。——似てない。黒板の文字を写しながら、胸の奥はざわつく。朝陽と私は兄妹。夕燈とも兄妹。ずっとそう思ってきたのに、“似てない”と言われると、どうしてこんなに気になるんだろう。窓の外では、春の風が校庭の木々を揺らしていた。その揺れが、私の心のざわつきと重なるように見えた。授業は淡々と進む。でも、集中できないまま時間だけが過ぎていった。