祈りを紡ぐ明日から


家に着くと、夕燈は靴を脱ぎながらふっと微笑んだ。
「ひよ、今日はありがとう。俺は部屋で休むね」
「うん」
その笑顔は優しいのに、どこか遠い。背中を向けた途端、すっと自室へ消えてしまった。——デートではなかったな。そんな小さな落ち込みが胸に沈む。リビングへ向かうと、ちょうど朝陽と鉢合わせた。
「なんだ、デートなのにもう帰ってきたのか」
少し揶揄うような声。私はむっとして頬を膨らませる。
「デートじゃなかったよ。祠探検だった」
そう言った瞬間、朝陽の動きが止まった。目の奥の瞳が、わずかに揺れる。
「祠って……河川敷の川を渡った先か?」
「うん、よくわかったね」
まさか朝陽も知っているとは思わなかった。
「もしかして、有名なスポットなの?」
ご利益でもあるのかな。でもあの祠は、だいぶ年季が経っているように見えたけど。朝陽は少しだけ息を吸い——
「昔……行ったことがある」
ぽつりとそれだけ呟くと、視線をそらし、リビングから出ていってしまった。その背中は、夕燈と同じようにどこか沈んで見えた。胸の奥がざわつく。祠の“窪み”、夕燈の「償いとけじめ」、そして朝陽の揺れた瞳。——二人とも、あの場所を知っている。それが、妙に怖かった。